「湯引き」は、高級素材「明石の鯛」をさらに美味しく食べる漁師の技

明石鯛とは、正確にいえば「明石海峡に棲む真鯛」のこと。つまり明石で穫れる鯛も、淡路島の北側で撮れる鯛もクオリティーは変わらない。

マダイは北海道以南の主な漁場で水揚げされているが、明石海峡で捕れる鯛は「味の良さでは日本一」との高い評価を受けてきた。

その理由は大きく分けて2つある。まず明石海峡は潮流が激しく、鯛はその流れの中でよく運動をしているために、身がよく引き締まっていること。

もうひとつは、明石海峡には鯛の好物であるエビやカニが多く、またそれらを食べる数多くの魚が生息している。雑食性の鯛は、自らのサイズに応じて、この海域に集まる豊富な餌を年中ふんだんに食べて育っていく。

明石の鯛は秋に入ると越冬のため食欲を増し、よく肥えて脂がのった状態になる。そのため艶やかな朱色になり、美味しさのピークを教えてくれるそうだ。その旨味が凝縮された鯛のことを、地元の漁師は“紅葉鯛”と呼んで珍重している。

余談になるが、サバやマグロなどの回遊魚は、ふだんは尾ビレだけを使って泳いでいるが、主に岩場を住処とする鯛は体全体を使って泳ぐ。

そのため鯛の筋肉には、コラーゲンが豊富に含まれている。コラーゲンは魚のプリプリ感の源で、鯛は、ウナギやヒラメ、そしてカレイに次いでコラーゲンが多く、それが全身にある点が特徴だ。ゆえに新鮮なうちに刺身で食べると、プリプリした歯ごたえが味わえる。

その一方で、鯛の身は牛肉と同じく、暫く寝かせた方が旨み(イノシン酸)が出るという特性を併せ持っており、締めてから12時間・36時間・60時間を経た鯛の切り身を試食する実験では、36時間経ったものに最も旨み味を感じる人が多かったというデータもある。

だがそうなると、プリプリした歯ごたえは失われてしまう…

それを両立させる調理方法が湯引きで、漁師が編み出した究極のレシピである。

鯛の身に湯をかけると、まず身が縮んでエネルギーのもとになるATPがイノシン酸に変わり旨みが増す。また身と皮の間にあるコラーゲンは、熱と水が加わえられるととゼラチンに変化し、しっとりとした食感のもとになるのだ。もちろん、湯が当たってない部分は、そのままプリプリの歯ごたえが残る。

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