怒涛の車中泊温泉旅 奈良・和歌山/北山・十津川・湯の峰・紀伊勝浦・白浜・龍神温泉


温泉取材地「和歌山」への旅が始まった。目指すは那智の滝で有名な南紀勝浦温泉と、潮岬を挟んでちょうど紀伊半島の反対サイドに位置する南紀白浜温泉だが、その前にどうしても立ち寄りたい奈良県の温泉があったので、最初に寄り道をしていくことにした。

入之波温泉と書いて「しおのはおんせん」と読む。この吉野川源流に近い鄙びた温泉地には、山鳩湯という温泉愛好家にはちょっと名の知れた湯治の宿がある。

このインパクトのある湯殿を見れば、温泉好きなら誰でも一度は訪ねてみたいと思うのが普通(笑)。実は筆者が山鳩湯を訪れるのは今回が2度目である。前回訪ねた時は、まさかの「臨時休業」で悔しい思いを味わった。

近畿とはいえ、ここまで来るには、何か他に目的でもない限りそう簡単に腰は上がらない… 詳細はこちらにアップしているので、興味のある人はぜひご覧いただきたいと思う。

山鳩湯を後にした筆者たちは、途中で道の駅・北山温泉に立ち寄り、薬師の湯へ。温泉評論家はあまりこういう施設に関心はないと思うのだが、筆者には、道の駅に隣接する温泉施設としてきっちりチェックしておく必要があった。結論は、温泉はいいのだが、道の駅が車中泊には適しているとは思えない。車中泊コースガイド的に評価すれば、★3つといったところになるだろう。もっとも、それは以前から分かっていた…

この日、筆者が選んだ車中泊地は「下北山スポーツ公園」の入口に近い無料の駐車場。広大な敷地を誇るこの公園には、日帰り温泉施設の「きなりの湯」があり、一番奥にはコテージ村と、電源のある高規格オートキャンプ場も完備している。

きなりの湯はヌルツル感に満ちた美肌効果が高い温泉で、近畿のキャンパーとバス・アングラーには昔からよく知られた名湯である。

最初に筆者が訪ねたのはオープンして間もない1998年だったが、2007年にリニューアルされ、敷地内で場所も移転をしていた。国道169号で奈良から和歌山方面に向かうなら、ここは温泉・車中泊ともに「イチオシ」のスポットといえるだろう。

翌日は十津川に抜け、熊野大社がある本宮町の温泉を取材し、勝浦へ向かう。

さて。十津川村と聞けば「土砂ダム」を思い起こす人も多いと思う。かつては京阪神の旅人から、奈良県の約1/5を占める「日本で一番大きい村」として親しまれ、川湯温泉や熊野本宮へ向かう途中に立ち寄る人も数多くいた。

だが、2011年9月に紀伊半島を直撃した台風12号は、この地に大雨をもたらし、広域にわたる土砂崩れは熊野川の様相を一変させた。その象徴的な姿が土砂ダムで、国道や県道が寸断され、多くの住民がライフラインの確保もできない状況に追い込まれたのは、未だ記憶に新しいことだろう。

報道番組では同年春に東北地方を襲った3.11の陰に隠れている感が否めないが、現地ではやはり今も気が遠くなるような土砂の処理と、復旧工事が続いている。

その十津川村に湧くのが、湯泉地(とうせんじ)温泉・十津川温泉・上湯(かみゆ)温泉の3つの温泉だ。実はそこにある25の温泉施設は全て、「源泉かけ流し」を宣言している。温泉地にある全ての温泉施設が「源泉かけ流し温泉」というのは全国的にも非常に珍しく、日本で初めてのことだったという。

写真は、十津川温泉郷の公共温泉「憩いの湯」。被災時は熊野川の底に沈んだそうだが、村民やボランティアの助けを得て、約半年後には営業再開にこぎつけた。近くには足湯のある道の駅と、ちょっとゴージャスに日帰り利用のできる「昴の郷」などもあるので、南紀に行かれる際の為に、記憶にとどめておいていただければ幸いだ。

というのは、温泉に入ったりガソリンの給油や食事をすることが、我々旅人にできる「等身大の支援活動」になるからだ。復興段階に入った今は、いつ誰に届くか分からない募金よりも明快で、直接的な方法でもあると筆者は思う。

その十津川村から国道168号で20分ほど南下すれば、熊野大社がある本宮町に到着する。世界遺産への登録以降、本宮周りや道の駅が整備されたとはいえ、未だ秘境・辺境の地の名残は濃い。なんせ十津川から新宮に至る間には、たった1軒ヤマザキデイリーストアがあるだけで、セブンイレブンもローソンも全くないのだから…

その山奥のまた山奥に、筆者が前々から入りたかった「秘湯」がある。開湯1800年、日本最古の湯とされる湯の峰温泉は、昔ながらの温泉情緒を残し、湯の町の風情を感じる事ができるお気に入りの温泉地だ。中でも参詣道の一部として世界遺産に登録されている「つぼ湯」は、天然温泉の「貸し切り岩風呂」として、高い人気を誇っている。

筆者が湯の峰温泉に来るのは、今回が5度目。だが、生のつぼ湯をこの目で見たのは初めてだ。

1組30分の完全予約制となっているつぼ湯では、3時間待ちというのは「ごくごく普通」。過去に一度「6時間待ちです」と言われたこともあるほどで、休日に「ちょっと寄ってみよう」なんて気持ちで来てすぐに入れるのは、まさしく「奇跡」に近いことだろう。

ゆえに今回はよほど根性を据えてかからなければ… と、平日の朝6時かっきりに「予約」に出かけた。それでも2番(笑)。ただ最初から狙いはそこにあったので、作戦は大成功であった。山鳩湯とつぼ湯の2つに「リベンジ」を果たし、次はいよいよ南紀勝浦の、あの海がまん前に見える温泉を目指す。

「夏は北海道、冬は九州」。自由気ままに日本を旅するシニア世代の中には、過ごしやすい環境を求めて日本国内を放浪している人たちがたくさんいる。

その結果、個々それぞれが「居心地の良い土地」に出会い、一定期間そこに定住する。仕事柄、筆者にはそういう「お友達」が全国各地にいるわけだが、彼らからここ最近よく耳にするのが「勝浦はいい」という話である。ただし、ここでいう勝浦は房総半島ではなく紀伊半島にある。

「いい」という感想の背景には個々の志向が隠れている。確かにこの波止場では釣りができるし、クルマで15分も走れば、熊野古道でもっとも有名な大門坂、さらには那智の滝、青岸渡寺と歴史的な見どころも多い。

またクジラで有名な太地も、クルマなら15分あれば余裕で行くことができ、白浜に比べれば格安でダイナミックなイルカのショーを見ることも可能だ。だが、その勝浦における「最大公約数の良い」点は、たぶんマグロと温泉になるのだろう。

マグロといえば、青森県下北半島の先端にある「大間崎」が有名だが、そちらはクロマグロと漁師が命をかけてバトルする1本釣りの話。もう10日もすれば、築地の初セリで地方のマンションがポンと買えるような値段で取引されるニュースが報道されるわけだが、悲しいかな我々庶民にはあまり縁がない(笑)。

いっぽう、勝浦港は一年を通して北海道から沖縄までの近海延縄漁によるマグロ漁船が入港し、生マグロの水揚げ量は日本でトップクラスを誇っている。そのため種類も多く、大間に比べると格安で中トロを口にすることができるのだ。写真のメバチマグロの中トロ短冊は、大間のクロマグロに比べるとほぼ半値で手に入った。もちろん魚種が違うため、単純比較はできないのだが…

このマグロでも、生のまま店で食べれば、数切れ1500円前後の「生まぐろ定食」になる。それを車内でこうして食べれば、十分なマグロ三昧気分になれる(笑)。

さて、勝浦には「2強」とも呼べる海の眺めが良い名湯がある。いずれも船で島に渡って入湯するわけだが、ホテルのお湯だけに1000円と割高。さすがに毎日というわけにはいかないが、実はそこにも超割安で入湯できる方法が存在する。車中泊スポットの詳細とあわせた「秘密の勝浦」は、またいずれゆっくり話すとしよう(笑)。

いずれにしても、「勝浦はいい」というのは本当である(笑)。筆者も3日間ここで過ごした。

ところで、白浜の話をする前に、近露にある世にも珍しい温泉を紹介しよう。アイリスパークというキャンプ場内に湧く「女神の湯」は、温泉通の間ではよく知られた「ヌルツル温泉」で、それを目当てに今も遠方から多くの温泉ファンがやってくる。筆者も温泉の取材で訪れたのだが、その泉質以上にドギモを抜かれるモノがここにはいた。

なんとここには、絶滅危惧種のオオワシとイヌワシが棲んでいるのだ。もちろん野生ではないが、動物園以外でこんな大型の猛禽を飼う人がいたとは驚きだ。何とも得した気分であった(笑)。

さて、白浜では3日間かけて崎の湯を筆頭に、主だった温泉に入湯し直してきた。筆者は20世紀から白浜には何度も足を運んでいるのだが、原稿を書くとなると、古ぼけた記憶を辿るよりも、記憶を上書きするほうが遥かに早い(笑)。この時期はさすがにどこも空いており、ほとんどが貸し切り状態であった。

その白浜には堅田漁協が運営する「とれとれ市場」がある。団体旅行客の多くはここで食事をするか、海鮮類のお土産を買っていくわけだが、クルマ旅でもここはぜひ立ち寄ってみるだけの価値がある。

この時期の筆者のお目当ては、同じ高級魚でもフグよりもうまいと感じるクエだ。この日は運よく生の切り身を格安で購入することができ、さっそく鍋にしていただいた。養殖モノとはいえ、これだけの量が5000円というのは他ではまず無理だろう。もしこのボリュームで天然モノなら、店で食べればゆうに2万円は超えてしまうに違いない… 

勝浦や白浜に車中泊で行く醍醐味はこういうところにもあるわけで、キャンピングカーの強みがモロに生かされる点でもある。

そして本日… 
白浜から約40キロのクネクネ道を高野山に向かって走る竜神温泉は、白銀の世界であった。冬の和歌山は雪国、スタッドレスは欠かせない…

【稲垣朝則のオリジナル・ウェブサイト】

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