北海道の「車中泊環境破壊」は、今が過渡期

2012年夏、北海道へのリピーターが愛用している「H0」(ほっ)という雑誌に、衝撃的なコメントが掲載された。

編集部からのお願いです。 
この時期、キャンピングカーで道内を訪れる旅行者が増えていますが、一部のキャンパーの中に、浴室で洗濯をしたり、トイレで食器を洗ったり、休憩所や駐車場を長時間にわたって使い続けるなど、非常に迷惑な行為をされる方がおります。さらには、利用できる「期間」「時期」の条件を確認せずに、期間外、時間外に訪れて「せっかくここまで来たんだから」とごり押しする利用客もおり、せっかく当企画にご賛同いただいた施設様との信頼関係を損なう結果を招いております。

このままですと「一部の」不心得な方の行為が、パスポートファンの楽しみを奪ってしまうことにつながりかねません。この「無料パスポート」企画を存続させるためにも、ルールを守り良識を持ったご利用をお願いいたします。

HO編集長 大鹿寛

情けないとか、もったいないとか、このコメントを見て様々なことを思うわけだが、読者の中には、この事態に憤りを感じると同時に、「ついに、そうなったか…」という思いを抱く人も多いと思う。

なぜなら、上に書かれた場面を、たぶん一度や二度は目の当たりにしたことがあるからだ。

中でも多いのは洗濯だろう。確かにひとり旅の場合は、コインランドリーが使いづらいという事情は理解できる。だが、ホテルや温泉旅館でなくても、入浴施設で洗濯をしている姿というのは、傍から見てもけして心地の良いものではなく、「場違い」という意見には頷くしかない。

まして、その洗濯物を道の駅や無料駐車場などの人目につく場所に干すというのは、常識人には受け入れがたい姿だ。 観光地に来て、まさか道端で人の下着を見せられようとは誰も思っていない(笑)。

遠慮が得意な日本人の中に、お金があるから北海道で遊んでいると自ら公言する人は滅多にいない。しかしキャンピングカーでなくても、避暑を楽しむシルバー世代の車中泊旅行者を、周囲はそんな目で見ている。

事実、北海道で普通に夫婦が1ヶ月間過ごせば、贅沢せずとも旅費込みで30~40万円は必要だ。身なりがどうあれ、潤沢な資金がなければ簡単に捻出できるものではあるまい。ゆえに「節約」自体は、けして悪いことではないと思う。

しかし、それも度が過ぎれば、他人に不快感を与えるだけでなく、

将来、同じように北海道でクルマ旅を楽しもうと日々働き、現在の年金生活を「支えている」現役世代から、その環境を奪うことになる。

それは日本人がもっとも嫌う、「恩を仇で返す」ことそのものだ。

北海道の場合、解決策は明快で弁解の余地はない。 長期滞在がしたいのなら、キャンプ場を利用することだ。そこなら洗濯も乾燥もできるし、炊事もできる。そのうえ、どれだけ滞在しても、不審に思われたり煙たがられることもない…

車中泊だから旅の必要経費に「宿泊費」を計上しなくて良いというのは、1泊1000円以下で利用できるキャンプ場が数多く点在する北海道では通用しない。

1000円が惜しくて出せないというのなら、何もここまで来てもらわなくてもけっこう。それが常識を持つ道産子と、まともな旅人達の「ホンネ」だろう。

ここ数年、筆者は事あるごとに「車中泊環境」という言葉を使うようにしている。

写真は洞爺湖温泉街の噴水広場。
2008年までは車中泊旅行者に開放され、地元の人々がゴミの回収までしてくれていた。つまり地元は「新たな観光客層」として、車中泊の旅人に期待し、歓迎してくれていたのだろう。それは言い換えれば、それまでの旅行者のマナーが良かったことの証ともいえる。

2009年。1年経って来てみると、ご覧の通り車中泊は禁止になっていた。
ここでキャンピングカーが車を洗ったとか、トイレに紙オムツを捨てたからとか、その理由は諸説モロモロあるようだが、いずれにしても複数の要因が重なり、地元の反発を買うことに通じたのだろう。誠意を仇で返すような振る舞いだけに、その怒りは「ごもっとも」と言わざるを得まい。

2012年。噴水広場に隣接する彫刻公園での車中泊も実質的に規制され、いよいよ洞爺湖温泉街の無料駐車場では、車中泊が完全にできなくなった。

すなわち、温泉街では車中泊の「功罪」に対し、この先も「罪」多しと結論づけたのである。 よって、同時に8月号のHoと温泉博士の無料クーポンからも、洞爺湖温泉の名前が消えてしまった。

だがその代償として、平日の温泉街の目抜き通りには、人っ子一人いなくなった…

洞爺湖周辺には、整備されたキャンプ場が点在する。
この曙公園は、湖畔の草地に車の乗り入れが許された1泊1200円のキャンプ場だ。こういう施設がある以上、温泉街の対応は「妥当だった」と筆者は思う。

だが、それと無料クーポン券からの撤退は本来別問題だろう。これだけ時間が経てば、もう冷静に物事が判断できるはずだ。

マナーの悪い車中客は思っていたより少なかった。むしろ逃したのは「食事や土産物にお金を落としてくれる、気のいい客」のほうであったと(笑)。

確かに… 古き良き時代の北海道を知る者にとって、このような車中泊の環境破壊は残念なことだ。しかし、同時にそれによって逆に環境が正常化されるメリットは大きい。

たとえ無料で車中泊ができなくても、無料で温泉施設が使えなくても、北海道の魅力が色褪せることはなく、むしろそのことにより、マナーや礼儀をわきまえない人々が、自らこの地を去ってくれる方がずっといい…

そのいっぽうで、車中泊環境破壊は「過渡期」に入った。と筆者は感じている。

北海道にかかわらず、車中泊の旅行者は、まもなく世代交代が完了する。わかりやすく云えば、これから先は、筆者と同じく若い日に空前の「オートキャンプブーム」を経験しているキャリア・キャンパーが、シニア世代の主流になる。

これはパソコンが操れる世代と、そうでない世代の違いに匹敵する出来事で、計算を電卓ではなくエクセルでする、文書はワープロではなくワードで作るといえば、ピンとくるだろう。要は同じ車中泊でも手法が変わる。

そのシェアーが完全に逆転するまでには、あと5年ほどかかると思うが、年々キャンプと車中泊の使い分けがきちんとできる旅行者が増えてくれば、少なくても道の駅でみっともないことが「やりづらくなる」のは明白だ。そして最後は加齢と相まって自然減少していくに違いない。

ただし簡単にゼロになるとは思わない。犯罪が無くならないのに、マナー違反を自然現象と啓蒙だけでゼロにできると考えるほうがナンセンスであって、大事なのはやはりその摘発だ。

それには施設の管理者が本気にならなければ話にならない。我々にできることは、監視カメラの代わりでしかないのだが、今のように「動かぬ証拠」を抑えても、知らん存ぜぬでは、誰も協力するはずがない。

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