「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、20年以上かけて味わってきた全国のソウルフード&ドリンクを、そのレシピと老舗・行列店を交えてご紹介。
「西郷どん」の頃からあった、鹿児島の黒酢
美容と健康に興味がなくても、「やずや」のおかげで今や黒酢という言葉を知らない人はほとんどいないと思う(笑)。
ただコマーシャルのように、鹿児島に行けばこの「壺畑」が簡単に見られると思っている人はいないだろうか。
答えはNo。
この景色は、わざわざ福山町まで足を運ばなければ見られない。
約200年前に始まったという「黒酢の壷造り」は、世界でも例を見ない薩摩の伝統技術のひとつだが、その誕生には、どうやら「西郷どん」絡みのエピソードが秘められているらしい。
200年前の薩摩藩といえば、財政は火のクルマ。
その再建に駆け回っていたのが、「西郷どん」第3話で藩主の島津斉興(鹿賀丈史)をかばって自害する、調所広郷(【ずしょひろさと】竜雷太)だ。
調所は使命を果たすため、藩の特産品の貿易拡大や、米などの品質改良、さらに薩摩焼の再興などの物産開発に力を注いでいたが、その中には黒酢も含まれていたという。
斉興と嫡男・斉彬の確執に巻き込まれ、ややもすると「悪人」イメージが強い調所広郷だが、その働きがあったからこそ、斉彬の集成館事業は成就し、結果として薩摩藩は明治維新の立役者になれた。
さらに副産物であった黒酢づくりが現在に伝わり、薩摩藩の代わりに、健康食品通販企業の「ドル箱」になっているのだから、世の中は本当に面白い(笑)。
現在の福山町には2軒の黒酢醸造会社があり、いずれも直営のレストランを兼ねた見学施設をオープンしている。
筆者が訪ねたのは、無料で情報館が見学できるうえに、桜島を背景に壺畑が撮れる坂元醸造。
ランチタイムではなかったため、写真を撮らせてもらったお礼代わりに、筆者はくろずソフト300円を注文した。
だが、振り返ると健康商品に目のない家内が、ちゃっかり黒酢を手にしているではないか(笑)。
確かにこれをミルクで割ると、ヨーグルトのようで美味しかった。