「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
2016年にリニューアルされ、混浴から男女別に。
一般的に「川底温泉」というのは、複数の温泉施設がある「温泉地」ではなく、「九重”夢”温泉郷」の法泉寺温泉エリアにある、1軒の旅館・螢川荘(けいせんそう)の大浴場を指して云うようだ。
つまり「螢川荘・川底の湯」と現した方が、初めての人にはわかりやすい。
螢川荘に代表される川底温泉は、九重九湯(ここのえきゅうとう)のひとつに数えられる名湯で、学問の神様で知られる菅原道真公ゆかりの温泉と伝えられ、現在の螢川荘の浴場は、江戸時代の1856年(安政3年)に、本村の庄屋・菅原元徳が、村人のために温泉開発し、石畳の浴槽と湯小屋を合わせて建てたことが始まりだという。
その後、螢川荘は何度か改築されたようだが、驚いたことに大浴場だけは、今でもほぼ当時まま使われている。
こちらがその「川底温泉」。
写真とレポートは2013年当時のものだが、2016年にリニューアルされ、現在は中に仕切りの板を立てて、混浴ではなく男女別になっている。
もともと湯船は3つあり、かけ流しのシャワーを兼ねた「うたせ湯」に近い方から、あつ湯・普通湯・ぬる湯と3段階に分かれている。
それぞれの大きさは、4.5人程度が妥当といったところだろうか。ネットの口コミ情報から推測すると、湯温は一定ではなさそうだが、筆者が入浴した日は、真ん中の湯船が一番心地良く思えた。
ちなみに、当時の浴場には「隠れ場所」めいたところは一切なく、実にオープンな構造となっていたため、もし女性が入湯するなら、かなりの勇気が要ったに違いない。そう考えると、いいリニューアルだと思う。
さて、今にも崩れ落ちそうな木造の建屋と、角のとれた川石が底に転がる石造りの湯船は、確かに他にはない独特の雰囲気を醸しており、写真ではそちらに目がいきがちだ。だが実湯してみて、特筆すべきはその透明度にあると感じた。
くすんだ造りとは裏腹に、その澄み切った温泉は同じ無味無臭でも、明らかに水道水とは異なる滑らかな質感を有しており、来る人に施設の老朽感を忘れさせるに十分な癒しを与えてくれる。
もし川底温泉が濁り湯であったなら、果たして今日まで残されていたかどうかが疑問に思え、これまでに味わったことのない不思議な思いにとらわれた。
ただ、この名湯を後世に伝えるには、今の管理状況では甚だ心もとないように感じたのも事実。
気持ちだけではどうにもならない現実が、ここにはあったのだろう。
【駐車場について】
旅館の隣に、10台ほど停められそうな未舗装の駐車場が用意されている。川下の「せせらぎ温泉」方面からくると、川底温泉を超えてスグのところに、駐車場の案内が建てられているので分かりやすいと思う。
ちなみに、「川底温泉エリア」にあるもう一軒の「せせらぎ温泉」は、今どきの温泉施設だ。
風情よりも設備重視という人には、こちらのほうがお勧めかもしれない。
川底温泉 螢川荘
〒879-4724大分県玖珠郡九重町菅原1453
☎0973-78-8234
入浴料: 500円
営業時間 :8:00~20:30(閉館21:00) 不定休
泉質 :ナトリウム-塩化物泉
pH値 :7.3
源泉かけ流し
露天風呂:なし
貸切風呂: なし