「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
行きたいと思っている温泉地が、車中泊旅行者を歓迎しているとは限らない。
2013年に日本温泉総合研究所が発表したデータによると、国内には3,108ヶ所の温泉地があり、温泉施設の数は21,471軒にのぼる。
さらに、そこでの年間延べ宿泊者数は120,061,329人… 実に日本の総人口を上回る1億2千万以上もの人々が、温泉宿に泊まって心身を癒している。
それを考えると、「温泉めぐり」をライフワークにしている人がたくさんいるのも頷ける。
ちなみに、全温泉施設を1年でめぐるには1日あたり約59軒、もし1日1軒づつなら、実に59年もの歳月を要する。
完全制覇が「事実上不可能な偉業」であることは、数字の上でも明らかだ。
またこのデータが示す通り、我国の温泉産業は「ホテル・旅館への宿泊」を前提に成り立っており、「車中泊の温泉旅」が未だ「例外」の域を出てはいないのも明らかだろう。
ゆえに、すべての温泉地が我々のような旅行者を歓迎しているとは限らないし、車中泊の歴史の中には、人気温泉地との間で幾多のトラブルを生んできた経緯もある。
ここから先は、具体的な事例を挙げながら話を進めよう。
写真は奥飛騨温泉郷のひとつ、栃尾温泉にある「荒神の湯」の無料駐車場だ。
かつては車中泊で訪れてくれる旅人に好意的で、いつも多くのキャンピングカーで賑わっていたが、現在は写真のようにロープが張られ、高さ2.2メートル以下の車両しか入れなくなっている。
こちらは北海道の洞爺湖温泉にある無料駐車場。
奥飛騨温泉郷と同じく、かつては車中泊で来てくれる旅行者を歓迎し、温かく迎えてくれた時代があった。
しかしその好意は一部の旅人によって踏みにじられ、今では憎しみに近い感情に変わってしまった…
しかし車中泊旅行者だけが「連帯責任」を負わされるのは、理不尽極まりない話だ。マナー違反は、あくまでも個人や一部のグループに起因する問題であって、共通の趣味を有する人々全体には当てはまらない。
だが今のところ、そういう車中泊旅行者の「盾となり、鉾となってくれる」組織は存在せず、我々車中泊旅行者は「やられっぱなし」というのが実情だ(笑)。
しかしその一方で、幾多のトラブルを乗り越え、今でも車中泊の旅人を快く受け入れてくれる温泉地もある。
熊本県にある人気の温泉地、黒川温泉はその代表的な温泉地だ。
これではっきりしただろう。
車中泊旅行者ができる「唯一の防衛策」は、まず行こうと思う温泉地のスタンスが、「おもてなし」か「排他的」かを見極め、「ハズレくじ」を引かないことだ。
どんなにネームバリューがあっても、いい温泉旅館や共同温泉が揃っていても、車中泊環境が不十分では満足に至らない。
そのうえ「自分に非がある」わけでもないのに、歓迎されていないとしたら、なおさらだ。
ただし、温泉地の中には「旅館の意思ではどうにもならない」こともある。
たとえば山形県の銀山温泉は、旅館宿泊者のクルマでさえ温泉街の中に停められないほど狭い谷あいにある。
もちろん近くに道の駅もなく、物理的に車中泊で出かけることは不可能だ。
日本にはそういう温泉地が、まだまだたくさん存在する。
とどのつまり、車中泊の温泉旅を気持良く楽しむには、ホテルや旅館に泊まる時とは異なる基準の「温泉地選び」が必要なのである。
まとめとして、温泉地は
❶車中泊で行くことのできないところ
❷行けても歓迎されないところ
❸逆に歓迎してくれるところ
❹そのいずれでもないところ
の4つに分けられる。
ただし歓迎してくれても、旅行者サイドから見て「居心地のいい温泉地」であるとは限らない。
世間の評価を一度脇において、独自の視点から全国の有名な温泉地を評価してみると、意外な事実が見えてきた。
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