「クルマ旅のプロ」がお届けする、車中泊旅行者を取り巻く現状
この記事は車中泊とクルマ旅関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、本当の車中泊クルマ旅を正しくご理解いただくために作成しています。
~ここから本編が始まります。~
車中泊旅行中に出るゴミを、道の駅に捨てても構わないという理由
❶車中泊旅行中に出るゴミは、「家庭ゴミ」ではなく「旅行ゴミ」
❷「家庭ゴミ」を道の駅に捨てるのは、「マナー違反」ではなく「不法投棄」に該当する法律違反
❸道路休憩施設である道の駅やサービスエリアで、「旅行ゴミ」は「持込みゴミ」に該当するのか?
❹車中泊旅行者に「ゴミの持ち帰りがマナー」と云う人ほど、事実を知らない「マナー違反」の張本人
❶車中泊旅行中に出るゴミは、「家庭ゴミ」ではなく「旅行ゴミ」
道の駅では、可燃物のゴミ箱の近くに、こういう貼紙がしてあるのをよく見かけるが、まずここで多くの人は勘違いをしているようだ。
家庭ゴミとは…
家庭で発生した、もしくは一度家庭に持ち帰った、日用品の容器や包装資材など。
スーパーやホームセンターで購入した食品や日用品は、自宅に到着した段階ではまだ「商品」だが、お茶の間で中身を消費した時点で「家庭ゴミ」となる。
ということは…
同じ弁当でも、中身をどこで消費し、どこでゴミに変わったかで、その「扱われ方」は違ってくる。
「弁当」だってこの世に生まれ出た時から、最後は「家庭ゴミ」になると定められた運命ではないのだ(笑)。
だがあなたは、慣れ親しんだ「弁当」の残骸を、何も考えずに「家庭ゴミ」と決めつけてはいないだろうか…
日本の「一般廃棄物」に関する法律上の分類は、大別すると「家庭ゴミ」こと「家庭系一般廃棄物」と、「事業ゴミ」と呼ばれる「事業系一般廃棄物」に分かれている。
事業ゴミとは…
出典:Satisfactory
「事業系ゴミ」は、店舗や会社・公共施設などの事業活動に伴って発生するゴミのこと。事業には営利を目的とする・しないに関わらず、教育・社会福祉事業やNPO法人などの非営利活動も含まれる。
また廃棄物の処理及び清掃に関する「廃棄物処理法」の第3条第1項には、「事業系ゴミ」を事業者自らの責任で適正に処理するように定められており、具体的には事業者が回収・処理にまつわる費用を負担し、「家庭ゴミ」と同じ袋に入れて同じ集積場に出すことを禁じている。
この法律に照らし合わせると
さきほどの弁当をスーパーマーケットのフードコートで食べれば、食べ終わった容器は「事業ゴミ」になるわけで、これに意義を唱えることは誰にもできない。
この話は、ゴミの識別のポイントが「商品特性」ではなく、「発生場所」になっていることを示す分かりやすい事例だ。
車中泊旅行者と道の駅が着目すべき、もっとも大事な点はここにある。
そしてこの真実を、車中泊旅行中に消費するすべての食品や飲料に当てはめれば、それらが「家庭ゴミ」とは異質のゴミに変わることは明白だ。
ここではそのようにして発生するゴミのことを、「旅行ゴミ」と呼ぶことにしよう。
なおキャンピングカーのような居住空間を持つクルマは、そこを家庭とみなす… というような驚くべき発想をする人がいるかもしれないが、
「住所」ではない旅先では、邪道と呼ばれても仕方がない裏技でも使わない限り、行政が回収してくれる「家庭ゴミ」の対象にはなりようがない(笑)。
❷「家庭ゴミ」を道の駅に捨てるのは、「マナー違反」ではなく「不法投棄」に該当する法律違反
ご承知の通り「家庭ゴミ」は、居住している市町村が指定しているゴミ袋に、指定通り分別して、指定の場所に出しておけば、指定日の指定時間内に回収してもらうことができる。
というより、そのように処分するのが住民の義務だ。
すなわち法律で正規の処分方法がある「家庭ゴミ」を、それを無視して道の駅で廃棄することは「法律違反」にほかならない。
だが、中には分かっていて法律を犯す、道の駅の地元住民がいる。
エコバッグに入れたゴミを、道の駅に持ち込んで捨てているこの女性は、まさしくその「現行犯」をしている張本人だ。
彼女は筆者が見ている間に、なんと5つのエコバックからゴミを取り出して捨てていたが、そもそも旅人はゴミをエコバックになど入れはしない(笑)。
つまり道の駅は、家庭ゴミの持込みを「ご遠慮ください」とか「禁止」とか云っている場合ではなく、「見つけしだい不法投棄で検挙する」という強い姿勢を示すのが妥当だし、飲酒運転の撲滅に向けて行われたような罰則制度の見直しを図るなど、本気でそういう人を取り締まれる体制を構築しなければ、この問題の抜本的解決にはつながるまい。
ただし、既に紹介したように「家庭ゴミ」と「旅行ゴミ」は明らかに別物なので、取締りの対象にはならない。
では、それで大手を振って道の駅で旅行ゴミが捨てられるのかというと、もうひとつ「論破」しないといけない問題がある。
❸道路休憩施設である道の駅やサービスエリアで、「旅行ゴミ」は「持込みゴミ」に該当するのか?
近頃は「家庭ゴミ」ではなく、「持込みゴミ」を禁止する旨の表示をゴミ箱の近くに貼る小賢しい道の駅が出てきて、車中泊の旅人を困惑させている(笑)。
だが❶で証明した通り、日本ではゴミの識別のポイントが「商品特性」ではなく、「発生場所」になっている。
つまり途中のスーパーマーケットで買ってきた「寿司パック」を、駐車場に駐めたクルマの中で食べてしまえば、容器はゴミになるが、道の駅に持ち込んだ時は食品だ。
ゴミを持ち込んだのではなく、道の駅でゴミになったのだから、道の駅で買った食品と同様に捨てられる。
屁理屈に聞こえるかもしれないが、それが法律の建付けである以上、受け取りを却下することは、日本のゴミに関する法律を、根底から否定するのと同じだ。
要は子供騙しのような浅はかな知恵が通用するほど、ゴミの問題は簡単じゃない。
❹車中泊旅行者に「ゴミの持ち帰りがマナー」と云う人ほど、事実を知らない「マナー違反」の張本人。
これでゴミ箱を置いてくれている道の駅で、車中泊旅行者が「旅行ゴミ」を廃棄できる正当性は証明できただろう。
またそういう道の駅で、車中泊旅行者が守るべき本当のマナーは「分別」だ。
筆者が思うマナーは、誰もがやろうと思えばできるものであって、物理的にできない人がいることに使う言葉ではない。
だが近頃はそういうことも知らず、ただ闇雲に「道の駅ではゴミ持ち帰りがマナー」と声高に叫ぶマスコミや業界人、そしてそれに感化された旅行者も見かけるが、よく勉強し直してからのほうがいい。
北海道を何度も旅し、既に日本も一周している筆者には、これはそういう旅人に対する「マナー違反」だとしか思えない、許しがたき暴言だ。
そもそも長期の旅では、物理的に「ゴミの持ち帰り」など不可能な話。
その現地でゴミが捨てられずに悩んでいる車中泊の旅人に、若造が机上からダメ押しみたいな説教をタレてどうする。
しかもそういう旅人の中には、酸いも甘いも知り尽くした自営業者や企業の管理職を退職したシニアも多い。
そして大人はこのように思うものだ。
自分ができないことを人に押し付ける無責任な人間の発言に信憑性はなく、それを真に受けるほうもどうかしている。
明日自宅に帰る車中泊の旅行者が、「旅行ゴミを持ち帰りする」のは自由だが、それは「マナー」と呼ぶものではなく、あくまでも「道の駅の負担を軽減してあげるための協力」であって、基本は堂々と捨てさせてもらってかまわない。
❺道の駅には、ゴミ箱を設置する義務があるのかないのかどっち?
最後のヤマはこの話だろう。
その論点はカラスが喜ぶかどうかではなく(笑)、道の駅の事業所としての業務範囲をどう解釈するかにかかっている。
現在、日本中の道の駅のゴミ箱は、以下の4つのグループに分類される。
1)誰でも24時間、用意されたすべてのゴミ箱が利用できる道の駅
2)誰でも可燃物のゴミ箱は営業時間中、空き缶・ビン・ペットボトルのゴミ箱は24時間利用できる道の駅
3)誰でもすべてのゴミ箱が営業時間中にしか利用できない道の駅
4)誰でもすべてのゴミ箱が24時間利用できない道の駅
このような現状を生んでいる根源は、ゴミ箱を設置するかどうかの判断が、個々の道の駅の責任者の判断に、委ねられているからにほかならない。
ゴミ箱を設置していない道の駅が、その「理由の最後の拠り処」にしているのは、道の駅の従業員が出したゴミは事業ゴミとして適切に処理しているが、その他のゴミまで回収する必要があると、法律に書いていないことにある。
と筆者は理解している(笑)。
まさにこれなどは、本音を隠すための幼稚過ぎる「詭弁」というしかない。
その通りならば、ゴミ箱を置いている道の駅は、衛生面・安全面がおざなりになっているか、逆に何らかの方法で解決できていることになる。
そして後者なら、くだらない看板を書く暇があるなら今すぐ現地に赴き、そのやり方を学んでくるべきだろう。
ただコンビニやモンベルのような、民間の商業施設を併設する道の駅がある以上、そこではこの理屈が通用するかもしれない。
だが、屋内・屋外に設けられた「休憩スペース」ではどうなんだ?
誰もの心に引っかかっているのは、「道の駅」が業務要件として義務付けられている「道路利用者のための休憩施設」としての役割だろう。
そしてここを争点にしなければ、事業所である「道の駅」を正しく理解しているとはいえない。
ここでもう一度「事業ゴミ」とは何かを振り返ろう。
「事業系ゴミ」は、店舗や会社・公共施設などの事業活動に伴って発生するゴミのこと。事業には営利を目的とする・しないに関わらず、教育・社会福祉事業やNPO法人などの非営利活動も含まれる。
これが正しいなら、道の駅が物販飲食を除く非営利活動に該当する「道路利用者の休憩施設」として事業活動をする限り、敷地のどこかにゴミ箱を設置する義務があるように思える。
そして筆者だけでなく、全国の道の駅の責任者の中にもそう思う人がたくさんいるから、現在でもゴミ箱を置いている道の駅が、これだけたくさん実在している。
またゴミ箱を置こうとしない道の駅が、連休にこういう事態に陥るのは、そう思っている旅人がたくさんいることの証だろう。
さすがに何でもかんでも民意で決めるというわけにはいかないだろうが、今は終日を通して管理人のいない公園から、ゴミ箱がどんどん姿を消していく時代だ。
ゆえにどこかがその肩代わりとなる、云ってみれば公衆トイレのような「公衆ゴミステーション」を引き受けなければ、今にポイ捨てされたゴミだらけになる町がどんどん増える。
またサラリーマンならよくご存知だと思うが、ちょっと前まで日本では「Customer Satisfaction(略してCS)=顧客満足」という言葉がよく使われていた。
それは裏返せば、「お客様の不満」を解決することが、ビジネスチャンスや信頼に通じることを意味している。
RVパークの躍進も、そのひとつの顕著な事例といえるだろう。
しかし民間企業がやる前に、税金で作ってもらった駐車場やトイレを使わせてもらい、各種様々な補助金を受けることで1200件もの数になった道の駅が、本来なら「公衆ゴミステーション」を率先して引き受けるべき存在だと筆者は思う。
放っておいても…
いずれこの問題は、法定で争われる日が来るだろう。
でなければいつまでも「真面目で誠実な道の駅」が損をする。
ということで、その「真面目で誠実な道の駅」をいくつか紹介したい。できることなら感謝状か表彰状を贈りたいものだ。
❻もっとも時代に逆行しているのが北海道
ここへきて北海道では、
4)誰でもすべてのゴミ箱が24時間利用できない道の駅
の数が増えており、車中泊旅行者もライダーも迷惑を被っている。
「ゴミは持ち帰り」という、現実を無視して建前だけが独り歩きをしている偽マナーが、このまま正当化されていけば、それが本州にまで飛び火する危険は拭えない。
加えて北海道で目立つ、道の駅が地元の行政地区指定の家庭用ゴミ袋を、旅行者に販売するかわりに回収するのも違法行為で、冒頭で「邪道と呼ばれても仕方がない裏技」と紹介した手口である。
なぜなら、道の駅のような事業所は家庭ゴミの回収対象にはなっていない。
その証拠に…
かつて存在した北海道開発局が提唱してきた「エコステーション」は、2022年現在は既に消滅している。
理由はおそらく、事業ゴミの法律に抵触する指摘を受けたからだと思う。
このサービスは一見ありがたく見えるが、そもそも可燃物のゴミ箱を設置していないことに問題がある。
厳しく云えば、それを利用者の便宜を図るという名目でうまくサービスのようにすり替えている、体裁のいい「脱税行為」だ。
北海道をクルマで周る旅人にすれば、それでもありがたいという気持ちはよく分かるが、このやり方を支持することは「越境通学している子供を擁護する」のと同じで、本当の意味での問題解決にはつながらないはずだ。
北海道の東の果てに、こうして頑張っている道の駅がある以上、できないとは云わせない。
見据えるべきは正しい道の駅の姿勢であり、可燃物のゴミ箱はそれを推し量る「いい物差し」といえるだろう。