「クルマ旅のプロ」がお届けする、車中泊旅行者を取り巻く現状
この記事は車中泊とクルマ旅関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、本当の車中泊クルマ旅を正しくご理解いただくために作成しています。
~ここから本編が始まります。~
車中泊環境を守る最良策は、マナー違反のできない状況を社会と旅人で築くこと。
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車中泊環境の現状
昔に比べると減ったとはいえ、未だにゴールデンウィークやお盆休みの「観光駐車場」や「道の駅」では、こういった「車中泊の域」を逸脱した「長期滞在」+「オートキャンプ行為」=「車中泊のマナー違反」が後を絶たない。
こういう行為をなくすために、JRVA(日本RV協会)では「公共駐車場でのマナー厳守10ヵ条」を定め、また筆者も「車中泊の作法」というタイトルの本を執筆して、啓蒙活動を行ってきた。
だがそれだけで、「観光駐車場」や「道の駅」といった「車中泊環境」から、マナー違反が根絶される日が来ると思っている人は誰もいまい。
つまりこの手の対策はもう十分であって、SNSでの書き込みを含めて、”これ以上は見るのがウザいだけ”。
そう思う車中泊の旅人は少なくあるまい。
サラリーマン時代に筆者は流通業に従事してきたが、どれほど努力と投資と注意を払っても、店頭から「万引き」をゼロにすることはできなかった。
それからすれば、今の車中泊業界は「何もしていないのと変わらない」。
店の前を通る中高生に、拡声器で「万引きはやめましょう」と叫んでいるだけで、どうにかなるなら苦労などしない。
有効な対策は、「善人」が「悪人」を凌駕すること
マナー違反を本気で撲滅するには、「当事者のモラル」に加えて「施設の管理強化」と「行政の法整備」、そして「現場に居合わす人間の協力」が有機的に機能することが不可欠だ。
ただ今ここで、それを長々と論じるつもりはない。
云いたいのはただひとつ。
最後に掲げた「現場に居合わす人間の協力」についての考え方だ。
現代は悪事をする人間から見て厄介なのは、この「防犯カメラ」だろう。
「防犯カメラ」は記録するだけでなく、「ここは監視されている」という無言の圧力を犯罪者に与える効果がある。
そして誰もがいいと思う車中泊スポットを公表することは、たとえそこに本物の「防犯カメラ」がなくても、その代わりをしてくれる旅人の増加につながる。
世の中には「いい車中泊スポット」を隠すことで保護できると考える人もいるようだが、残念なことにそういう場所ほど、「ならず者ネットワーク」はあらかた先にキャッチしている(笑)。
「いい車中泊の環境」は誰にとってもいいわけで、できるだけ人混みを避けたい彼らのほうが、情報収集に執着心を燃やしているのは明らかだ。
だが、そこに善良な車中泊旅行者が集まれば、「好き放題」ができなくなり、「ならず者」は居づらくなって去っていく。
それはむしろ、改善というより「奪回」に近いのかもしれない。
ゆえに「これまで空いていたお気に入りの場所が、混雑して使えなくなる」というのは嘆かわしいことではなく、あなたに「先見の明」があると喜ぶべきことだ。
ぜひその素晴らしい眼力で、次々と素敵な車中泊スポットを見つけ、多くの人に広めていただきたいし、その気になれば筆者のような職業を選ぶ道もある。
それには「善人」を守ることが大事
前述したように、車中泊に関わらず環境の維持には、施設管理者による「違反行為の明確化」と「取締強化」が前提になるが、良識ある利用者が増えれば増えるほど、施設管理者への「ちゃんとやってくれないことへの不満」は表沙汰になる。
それが今、富士山で起きているわけだが、注目すべきは世論の動向だ。
「登山者が増えて、ゴミが増える、事故が増える」と云えば、登山をする全員が悪者になるが、「ルールを守って富士山に登っている人が迷惑している」という話になると、登山者は加害者と被害者に分かれる。
であるなら、マスコミは被害者が感じている、施設管理者が「ちゃんとやってくれないことへの不満」にスポットを当てて報道すべきなのに、テレビでは「こんなことをしている、あんなことをしている」というマナー違反行為ばかりが映し出される。
そうなると、「もう富士山へ行くのは控えよう」というネガティブな思いが国内に蔓延し、ちゃんと登山ができる人ほど富士山に足を運ぶ数が減る悪循環を誘発する。
だがあるべき姿は、真逆だろう。
ルールを守らない登山者を、威厳を持って罰する姿を放送することで、良識ある登山者は安心して富士山に行く気になる。
ジャーナリズムは、そうするために誰が何をすべきかを積極的に報道してナンボのはずなのに、今のニュースはYoutubeにも劣るほど浅はかで情けない内容だ。
そんな中でも良識ある登山者は、現場の人間にこれ以上負荷をかけると事態はさらに悪化すると思い、行動を控えているわけだが、本当に必要なのは、手詰まり感を一気に打開する、橋下徹の大好きな「政治判断」であることを心得ている。
それは車中泊も同じだ。
「車中泊をする人が増えて、ゴミが増える、騒がしくなる」と云えば、車中泊をする人全部が悪者になるが、「ルールを守って車中泊をしている人が迷惑している」という話になると、やはり加害者と被害者に分けられる。
ゆえに正しい情報が、SNSのみならず雑誌やマスコミでリリースされれば、今とはずいぶん違う報道内容になるはずだ。
加えて、本来はそれをマスコミにきちんと説明すべき存在があると筆者は思っているが、当事者にその考えはないようだ。
ただハッキリしているのは、大半のRVパークは車中泊の”救世主”ではなく、道の駅に居づらくなった大型キャンピングカーの”駆け込み寺”でしかないということだ。
たとえRVパークの数が道の駅の数を抜いたとしても、守られる車中泊旅行者の「善人」は皆無に等しい。
東日本大震災の直後、東北ではこんなキャンペーンを行っていたのだが、車中泊だからこそできる社会貢献もある。
その旅行スタイルの良さを世間にアピールし、それを正しく担っている旅人を下支えしていかなければ、「善人」が増えていくことなどありえない。
そのことに汗もかかない連中に、筆者は車中泊を語られたいとは思わない。