25年以上の車中泊経験を持つクルマ旅のプロが、2024年2月現在の日本で有効といえる、夏の車中泊を快適にする8つの暑さ対策をまとめています。
「正真正銘のプロ」がお届けする、リアル車中泊入門ガイド
この記事では、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、既に1000泊を超える車中泊旅行を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、四半世紀に及ぶ経験を元に、日本各地を車中泊でめぐるための「know-how」を紹介しています。
~ここから本編が始まります。~
理想の「夏の車中泊の暑さ対策」は、今も昔も自然の力を大いに利用すること。
~プロローグ~
「本末転倒の夏の車中泊マナー」には、暑さ以上にもう”うんざり”。
「夏の車中泊の暑さ対策の基本」は、冷やすことではなく涼しいところに行くこと
夏の車中泊の暑さ対策【番外編】
キャンピングカーのルーフベントの裏技
~プロローグ~
「本末転倒の夏の車中泊マナー」には、暑さ以上にもう”うんざり”。
この記事を更新するに当たり、グーグル検索の上位にランキングされている、「夏の車中泊の暑さ対策」について書かれた、企業が運営しているサイトの記事をいくつか読ませてもらったが、そのほとんどが、”車中泊中のカーエアコンの使用”について、例外なく否定的な見解を載せている。
中には「厳禁」という強い書き方をしている記事もあるが、筆者にはそれが識者が本当によく考えて書いたものとは思えない。
語弊を招かないうちに結論を書くが、もし熱中症にかかって生死をさまようことになるくらいなら、カーエアコンを使うべきだと筆者は断言する。
「熱中症」の恐ろしさは、上の記事に書かれている通りだが、それでなくても今は猛暑日になれば、自宅にこもっているご年配に向けて、ニュースキャスターが「エアコンをつけてください」と注意を呼びかけるご時世だ。
にもかかわらず、周辺への排気ガスと騒音に対する気遣いのあまり、過酷な環境の中でエンジンを切って車中泊をし、命を危険に晒したところで、誰も褒めてはくれない。
それどころか、「それ見たことか!」と一部のマスコミが騒ぐだけだ(笑)。
そして車中泊のベテランたちはこう云う。
気の毒に、世間体だけを気にして作られたような「車中泊のマナー」を真に受けて、何もそこまでしなくていいのに…
暑い日は、カーエアコンをかけたままで車中泊がしたい!
それが偽らざる”車中泊旅行者のニーズ”であることを認めようとしないのは、本当の車中泊の現場を知らない”外野”だけだ。
では、どうするのが一番いいのか?
筆者が思う現時点の正解は、車種にかかわらず「夏は最初から車中泊をしない」ことだ(笑)。
エンジンを切ったままカーエアコンが作動する、画期的な技術が汎用化されれば話は変わるが、残念ながら2024年2月現在の日本には、エアコンなしで真夏に車中泊を快適化できる術は見当たらない。
しかし、それが可能になるかもしれない「兆し」はある。
考えてみれば、ほとんどのクルマに搭載されているカーエアコンが使えれば、何よりそれに勝ることはない。
いっぽうキャンピングカーの世界に目を向けると、近年はリチウムイオンバッテリーの劇的な進化で、大容量のサブバッテリーとソーラーパネルを搭載できる、「バスコン」や「キャブコン」と呼ばれる大型のキャンピングカーは、室外機を使う家庭用のエアコンを、外部電源のない場所でも動かせるようになってきた。
だが、リチウムといえども電池は電池。
バッテリーの容量とエアコンの出力にもよるが、一般的な稼働時間は12時間~18時間ほどと云われている。
このように「車中泊の暑さ対策」のトレンドが、「エアコンの利用」に向かって進み始めているのは明らかだ。
とはいえ…
大半のクルマは、エンジンを切った状態で扇風機は使えても、エアコンが効いた空間での車中泊は、未だ”夢”の域を出ていない。
すなわち現在は、その”過渡期”にある。
であれば、”未来のカタチ”が現実的なものになるまでの間、我々は何を我慢し、何で代用し、何に知恵を絞り、どういう情報にアンテナを張って待てばいいのか…
たとえば”我慢”というのは、夏休みだろうが盆休みだろうが、熱中症の危険があるような時は、レジャーや趣味のための車中泊によるお出かけを控えるか、涼が得られる別の宿泊手段を選ぶこと。
そして実はそれが、人に迷惑をかける可能性を根本的に回避できる、「本当の意味でのマナー」になる。
だが分かっていたとしても、それがいつもできるとは限らない。
ゆえに規則ではなく”マナー”だ。
マナーを”限りなく禁止に近いこと”と説明するのではなく、”やむを得ない時には許されること”に置き換えるだけで、人の受け取り方は大きく変わる。
筆者はそれを世に示すことが、高価な車載用の冷房機器をPRするよりも先に、車中泊の業界が率先して取り組むべきことであり、「ユーザーに寄り添う」ということだと思う。
車中泊のプロでもアマでも部外者でも…
情報を提供する側は、こういうことを「夏の車中泊の暑さ対策」の骨子として盛り込んだプレゼンをしなければ、「机上の空論」にしかならないうえに、読者に的外れな買物をさせたり、将来的には無駄になるものに大きく投資をさせてしまう可能性は否定できない。
そしてその想いは、自らに火の粉がかかるかどうかのリスクに比例する。
腰掛けが腰掛けなりのことしか書けないのは、いつの世でもどの世界でも同じであって、真面目にやっている人間には、それがすぐに見抜けてしまう。
筆者が見るかぎり、車中泊をする人の少なくても9割は、良識をわきまえている。
だが一部のマスコミは、残る1割の人達の行動ばかりを報道し、しいてはそれが”誤った世間の認識”の源泉となって、健全な人たちにまで”肩身の狭い思い”をさせている。
それでは、下世話な週刊誌と実態は何も変わらない。
そのことに「冗談を云ってもらっては困るよ、君。」と、正面から壁になるべき存在が、「車中泊で飯を食っている業界」であることは云うまでもない。
だが…
道の駅での車中泊に対する対応も含めて、今の車中泊の業界に「ユーザーに寄り添う姿勢」を感じている人は、はたして何人いるのだろう?
「夏の車中泊の暑さ対策の基本」は、冷やすことではなく涼しい”ところ”に行くこと
ここから先は、もう”お決まり”とも云える話になるわけだが(笑)、筆者が車中泊旅行者に伝えたいのは”発想の転換”。
つまり現段階では、”どうすれば涼しくできるのか”より、”どこで寝れば涼しいのか”を求めることが重要だ。
ちなみに、”どこ”にはいろんな意味がある。
具体的な夏の車中泊の暑さ対策❶
標高の高い車中泊スポットに行く
万人が想像する、オーソドックスな「車中泊の暑さ対策」はこれだろう。
標高と気温の関係
標高が100メートル高くなると、気温は0.6℃下がると云われている。
仮に海水浴場脇の道の駅が、寝る時間でも30℃あったとしたら、快適に寝られる27℃の環境を得るには、標高500メートルの地点まであがればいいという計算だ。
この話も今はどこにでも書いてあるのだが、具体的に「ここがいいよ」とお勧めできるところまで答えてあげないと、はるばる訪ねてきていただいた読者に、申し訳ないし、信憑性もないだろう(笑)。
たとえば関東地方なら、3日や4日は滞在できるだけの車中泊スポットが揃っている、栃木県の奥日光がお勧めだ。
いっぽう関西では、岡山県の蒜山高原から鳥取県の大山にかけてのエリアが、涼しいだけでなく楽しいと思う。
最後は避暑のご当地・信州だが、誰もがそう思うだけに、車中泊には神経を尖らせている(笑)。
特にビーナスラインに行くなら、連泊はせずに旅してまわろう。
夏の車中泊の暑さ対策❷
冷房の効いた部屋で寝る
「”どこ”にはいろんな意味がある」と前述したが、車中泊はあくまでも”クルマ旅の宿泊手段”のひとつに過ぎない。
つまり、その日・その時の状況に”もっともマッチする宿泊方法”を選べばいいわけで、”常に車中泊ありき”というのは、経験値の少ないビギナーが陥りやすい発想だ。
むしろキャンピングカーに乗るベテランのほうが、割り切ってそれを実践している。
今はどこの地方都市でも、スーパーホテルに代表されるリーズナブルなビジネスホテルがある。
しかも大浴場と朝食のバイキング付きで、ひとりなら5000円もかからないところも少なくない。
付近に道の駅がなく、車中泊でコインパーキングに泊まり、日帰り温泉に入って、翌朝マクドナルドや吉野家で食事をすれば、すぐに2500円くらいにはなるわけで、その差額を「快眠料」に計上できるのなら、けして悪い選択肢ではあるまい。
さすがに東京と京都では、平日でも予約は取れないが、仙台・横浜・名古屋・神戸・広島・福岡・長崎といった繁華街のある街では、あえてこの作戦をお勧めしたいと思うくらいだ。
夏の車中泊の暑さ対策❸
キャンプ場でテントの中で寝る
だがアウトドアが苦にならない人には、別の方法もある。
アスファルトよりは土の上、日向よりは木陰が涼しいことは、子供だって知っている。家族がいるなら、ネオン街より高原キャンプのほうがやはりいい(笑)。
中高年になると、薄いキャンプ用のマットだけではカラダが痛くなるが、車中泊用の分厚いマットを使えば快適だ。
しかもエアを抜けばコンパクトに収納できるこのタイプは、車内・テント・バンガローなどの室内と、使い道も広い。
FIELDOOR 車中泊マット 10cm厚 【Sサイズ/ブラウン】 自動膨張マットレス 連結可能 高密度ウレタンフォーム...
さらにコット(キャンプベッド)を組み合わせれば、筆者のように膝の痛みが気になる人も安心だ。
なお車中泊キャンプに適しているのは、駐車場とテントサイトが分離されている区画オートキャンプ場より、自由にクルマの停め場所を選べるフリーサイトだ。
区画オートサイトの駐車場には、水はけを良くするために、あえて傾斜がつけられていることが多い。
写真は群馬県の浅間山に近い「-be- 北軽井沢キャンプフィールド」。
ここは夏でも涼しく、クルマでも寝られるし、北海道に来たような気分になれるお勧めのキャンプ場だ。
ただしフィールドでは「虫刺され」にご用心。中でもブヨは最強と云える敵だけに、備えは万全にしておこう。
夏の車中泊の暑さ対策❹
キャンプ場でカー網戸を使う
もちろん、キャンプ場なら車中泊時に網戸も使える。
筆者は、ミニバン時代に使っていた「バックドア用の網戸」を、マグネットと洗濯バサミでハイエースのスライドドアに取り付けて使っているが、ここを開けて寝ると、さすがに涼しい。
道の駅で網戸を使うのは慎むべき
今は道の駅で網戸のまま車中泊をする人をよく見かけるが、それは安全上お勧めできるものではない。
本人が被害に遭うのは覚悟の上かもしれないが、それがニュース沙汰になり、まったく無関係の車中泊の旅人が、その巻き添えを食らうのは耐え難い。
さて。
ここまでが「夏の車中泊の暑さ対策」の前半になるので、広告で一息入れて、後半に進もう(笑)。
後半はどちらかといえば「気休め」に近いものかもしれない。
夏の車中泊の暑さ対策❹
エアコンの効いたインフラを活用する
「やらないほうがいい」と分かっていても、遠方への帰省などで、道中にあるサービスエリアや道の駅で、どうしても車中泊をする必要に迫られる時がある。
そういう時は、できる限りエアコンが効いた施設の中で過ごすようにするといい。
特にお勧めなのは休憩施設が充実しているサービスエリアで、次は食事もできる日帰り温泉になる。
写真は「東名高速」の「足柄サービスエリア」下リ・名古屋方面行き。
ここは下リ線だけでなく、上り・東京行きにも、ちゃんとしたお風呂があり、大型トラックが入って来れない普通車専用の駐車スペースも確保されている。
また道の駅と違って営業時間も長く、就寝中にだけエンジンをかけたまま車中泊をするようにすれば、罪悪感をさほど感じなくて済むはずだ。
ちなみに、車中泊向きのサービスエリアが揃っているのは「新東名」のほうだ。
「新東名」では、大半のSA・PAにコインシャワーが用意されているため、一極集中することもない。
なお、道の駅に併設している温泉は閉館時間が早く、それほど有効ではないかもしれない。
夏の狙い目は、深夜まで営業している「スーパー銭湯」だ。
夏の車中泊の暑さ対策❺
接触冷感素材の敷パッドを使う
「クール敷パッド」などと呼ばれる夏用の敷物で、通販だけでなくホームセンターやニトリのようなインテリアショップでも品揃えされている。
製品はピンからキリまであるが、筆者の経験から云うと、5千円近く出して初めて効果がはっきり感じられた(笑)。
下の商品はシングルサイズだが、買う場合はサイズを間違えないようにしよう。
また合わせて、ウェアも速乾性の化学繊維を使った冷感製品にすると効果的だ。
こちらは持参してなくても、「しまむら」や「ユニクロ」などの量販系アパレルショップに行けば手に入る。
なおコットン100%のウェアは、真夏の日本には適さない。
夏の車中泊の暑さ対策❻
充電できる扇風機を使う
この扇風機は、ポータブル電源でなくても、USBで給電するスマホ用のモバイルバッテリーがあれば利用できる。
加えてバッテリーも内蔵しており、自宅で充電しておくこともできる。
夏の車中泊の暑さ対策❼
ハイブリット車に乗り換える
基本的に「カーエアコン」は、エンジンからVベルトで駆動されているコンプレッサーが、冷媒を圧縮することにより、冷風を作り出している。
そのため、トヨタのハイブリッド車の代名詞であるプリウスには、エンジンが切れてもエアコンが使える、「電動コンプレッサー式のカーエアコン」が搭載されている。
とはいえ、それはアイドリングストップの状態時を想定したもので、車中泊時に使いたい「アクセサリー・モード」では稼働しない。
ゆえに、結局はエンジンをかけてエアコンを効かせることになるのだが、その中でダントツの違いを見せているのが、三菱の「アウトランダーPHEV」だ。
このクルマは13.8kWhの大容量バッテリーを搭載している為、エンジンを切っても長時間のエアコンの使用が可能で、ユーザレポートでは、外気温32℃、車内の設定温度27℃で、なんと9時間使用できたという情報もある。
ただ、この分野のエンジンと技術は日進月歩で進化するため、興味のある人はトヨタやホンダでも、ディーラーに直接確認してみていただきたい。
ただいずれにしても、普段使いと車中泊を併用するなら、これからはハイブリッド車を選ぶ方がよさそうだ。
夏の車中泊の暑さ対策【番外編】
キャンピングカーのルーフベントの裏技
大半のキャンピングカーの屋根には、ルーフベントと呼ばれる換気扇がついているが、実はそのファンを逆回しにすると、冷たい外気を車内に吸引することができる。
筆者はこの作戦をよく使うのだが、扇風機とは比較にならないほど涼しい!