「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
金具屋の本当の魅力をご紹介
金具屋の本当の魅力【目次】
1.プロローグ
日本各地の温泉をめぐっていれば、たとえそれが車中泊でも「一度は泊まってみたい」と思うような宿に出会うものだ。
筆者と家内にとって、長野県の渋温泉にある「金具屋」は、そんな温泉宿のひとつだった。
2010年の冬、スノーモンキーで有名な地獄谷公苑の取材で渋温泉街を通った際に、金具屋の重厚感ある和風建築にふたり揃って圧倒され、「一目惚れ」に陥った。
そこで、2011年4月の東北取材に行く途中で、そのささやかな夢を叶えるべく、筆者はこの宿を家内に内緒で予約した。
だが、直前に東日本大震災が発生して取材は中止。急遽まったく逆方向の山口に行くことになった。
しかし縁というのはあるもので、2年後に再びチャンスが訪れ、今度は見事にサプライズが演出された。
2.金具屋の創業エピソード
温泉宿にもかかわらず、「金具屋」という屋号に不自然を感じる人はいないだろうか。
金具屋の創業は1758年。今から256年前の江戸時代・宝暦8年に遡るが、その当時は宿ではなく、馬具の整備や蹄鉄を作る鍛冶屋だったそうだ。
店の前は善光寺と草津を結ぶ草津街道で、渋温泉は当時から志賀高原越えの宿場町として栄えていたが、1754年(宝暦4年)に裏山が崩れ、宿場はほぼ半分が土砂に埋まるという壊滅的な被害を受けてしまう。
その災害復旧中に敷地内から温泉が湧出し、それを機に1758年(宝暦8年)以降、宿屋となった。
前身が鍛冶屋であったため、当時の松代藩主から「金具屋」と命名されたというのが由来だそうだ。
もっとも、こんなことから事細かく書いていたのでは「宣伝料」を頂きたくなってしまうので(笑)、この先は金具屋の9代目となる若大将が書いているオフィシャルサイトでご覧いただくとしよう。
3.金具屋名物「館内重文ツアー」
ここで筆者が紹介したいと思っているのは、部屋でも温泉でも、ましてや料理でもない。
そういう話は「旅行会社」の十八番で、筆者はいつもどおり「一般客と同じように、お金を払って泊まらないと見えてこない切り口」から迫りたい。
そのイチオシが、国の重要文化財に指定されている冒頭の写真で見せた木造四階建ての「斉月楼」だ。
なんと金具屋では、宿泊客を対象にその「内部見学ツアー」をやっている。参加費はもちろん無料。
これは解説を聞いて見れば見るほど興味深く、設計までに宮大工を連れて約1ヶ月間日本国内を周ったという、六代目西山平四郎の熱い想いが伝わってくる内容で、まさに老舗ならではのワクワクするアトラクションだった。
ちなみに、現在の建築基準法では「斉月楼」は建てられない。「燃えたら最後」という誘い文句も、重文らしく十分な説得力を持つものだった(笑)。
4.自家源泉ツアー
金具屋は4つの自家源泉を保持しているが、実はその見学ツアーもやっている。さすがにマニアックなのか、このツアーに参加したのは筆者と家内だけだったが(笑)、おかげで最後に素晴らしいプレゼントをいただいた。
筆者は金具屋のこういう「したたかさ」が大好きだ。
考えてみればパイプの付着物など、通常はゴミでしかない。しかし、それを砕いてお湯に溶かせば、自宅で簡単に高濃度の「美肌の湯」が作れてしまうのだ。素晴らしいリサイクルではないだろうか…
ついでに、下敷きにしている本は筆者の著書。こんな内容がうまいことまとめて書いてあると思っていただければ、それでいいのだが、既に改訂版も完売御礼になっている(笑)。
金具屋には8つの浴室があり、言うまでもなく全てが源泉かけ流しだ。
1泊2日で17湯。温泉好きには「有り余るほどの幸福」かも!(爆)
金具屋
〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町平穏2202
℡0269-33-3131