「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
渋温泉で9軒ある外湯めぐりができるのは、旅館宿泊客のみ
結論から云ってしまうと、上記の理由から渋温泉は車中泊の温泉旅には適していない。
だが渋温泉には、湯田中渋温泉郷で唯一ともいえる「温泉街」が存在しており、鄙びた温泉情緒が楽しめる。
ゆえにここではあえて、温泉宿に泊まってみることをお勧めしたい。
詳しくは後述するが、渋温泉には絶賛に値する老舗の宿がある。
渋温泉の概要と、外湯9湯めぐりの詳細【目次】
1.渋温泉の歴史
1300年前に行基が発見したとされる渋温泉は、戦国時代には武田信玄の隠し湯のひとつだったという。
温泉寺は信玄の寄進によって開かれ、川中島の合戦の折には、傷ついた兵士を療養地として使われた。
また江戸時代には、佐久間象山、小林一茶、葛飾北斎などの文人がこの地を訪れている。
2.苦(九)労を流す「外湯めぐり」
渋温泉には、それぞれ泉質が異なる9軒の共同浴場が存在する。
昔から、それらをめぐって九(苦)労を流せば、厄除け、安産育児、不老長寿のご利益が得られるといわれてきた。
今は各外湯にスタンプが置いてあり、入湯したらこの手ぬぐいに押印する。
最後に温泉街を見下ろす「渋高薬師」に参詣して、印受すれば満願成就。
繰り返しになるが、冒頭に書いた通り、いずれの共同温泉も宿泊客および地元住民専用で、どの浴場にも共通鍵がかけられている。
旅館宿泊者には無料で外湯の鍵が貸し出され、「九つの外湯めぐり」を楽しむことができるしくみだ。
ただし今は、日帰り客用に「九番湯・大湯」が有料開放されており、渋温泉旅館組合事務所または、渋温泉有料駐車場管理事務所にて入浴券を販売している。
入浴券を裏面に記載してある大湯周辺の旅館・商店に提示すると、大湯の鍵を開けてもらえる。
日帰りの入浴時間は10時~16時。料金は500円。他の外湯については引き続き日帰り入浴客の入浴は許されていない。
3.渋温泉へのアクセスと車中泊スポット
最後に。ノスタルジックな石畳がなんともいえない渋温泉街を歩くには、川向の有料駐車場を利用するといい。
橋を渡って温泉街に入ってしまうと、道が細くて往生する。
4.歴史の宿 金具屋
この写真を見て、もしやこれは?
そう感じた方は、スタジオ・ジブリのアニメをよくご存知だ。確かに金具屋の建物には、映画「千と千尋の神隠し」の舞台、油屋を彷彿させる雰囲気がある。
事実、油屋のデザインには「色々な温泉が入っていて特定のモデルはない」とされているが、道後温泉本館やこの渋温泉金具屋、さらには湯原温泉油屋、江戸東京たてもの園の子宝湯、軽井沢の追分油屋旅館など、さまざまな建築物がその素材になっているという。