この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
小梨平から往復約30キロ・14時間。
このページは、2007年8月に小梨平から涸沢を往復した時の記録を元に作成しているが、結論から云うと、小梨平から往復できるのは真夏だけだろう。
日が短くなる紅葉の季節は、小梨平からだと帰りは日が暮れ、真っ暗な道を歩かなければならなくなる。
夏の涸沢トレッキングレポート
午前5時前起床、軽く朝食を済ませる。この日の予定は、往復30キロに及ぶ涸沢往復だ。
小梨平キャンプ場の入浴時間は午後7時までなので、間に合わない可能性が高いため、途中の徳沢ロッジで汗を流すべく、着替えと3食分の食料を40リットルのリュックに詰め込み、6時前にキャンプサイトを後にした。
森の木立からこぼれる朝日の中をどんどん歩き、明神池を越えて6キロ先の徳沢に到着したのは、8時過ぎ。
途中で写真を撮りながら来たため2時間近く要した。普通に歩けば1時間半~45分くらいで到着できる距離だと思う。
徳沢ではパンとソーセージを食べて、これから先の地図を入手した。
次の目的地は約4キロ先の横尾。体力のない女性や、荷物の多いフォトグラファーが、ベースキャンプ地としてよく利用しているテン場だ。
徳沢・横尾・涸沢には、登山客を受け入れてくれる山小屋がある。
ただし山小屋は、基本的に全ての宿泊客を受け入れる責任があるので、GWやお盆、そして紅葉の季節の休日前後は人で溢れ、ひどい場合はまっすぐ仰向けに寝るスペースさえ取れないことも多々ある。
その為、登山客の中にはテントを担いで山を登る人が増えてきた。
今のテントは軽いものなら2名用で2キロを軽く下回る製品もあり、建て方も非常に簡単。
キャンプには寝袋やコンロといったギアが他にも必要だが、経験さえ積めば、テントの方がプライバシーが守れて、快適なように筆者は思う。
さて、下の地図の黄色の部分がこれから進むルートになる。
横尾からは景観がガラリと変わり、道もガレキが多い山道になる。
とはいえ、ちょうど中間地点といえる本谷橋まではさほど登りは入らないので、まわりの風景にカメラを向ける余裕持って進むことができる。
問題は残りの約3キロだ。本谷橋からは一気に角度が上がり、いよいよ山登りが始まる。
特に苦しいのは前半の半分。どこまで続くのかと思うような岩の道だけに、先のことが分かっていなければ、気持ちが折れそうになるかもしれない。
ここでは小刻みに短い休息を挟み、マイペースをキープすることが大事だ。
オーバーペースになると、先の緩やかな道でさえ、息が上がってスローダウンしてしまう。そうなると、もうかなり休まなければ回復しなくなる。
やがて視界が開け、雪渓と遥か彼方に涸沢ヒュッテのカラフルなのぼりが見えてくる。横尾を出て既に2時間以上が経過。
カラカラに乾いた喉は、雪渓から流れる雪解け水で潤した。
そしてクライマックスの大雪渓。
ここまで来て、最後にツルツルすべる雪の上を100メートル以上登るとは!
濡れてしまうため、座って休むわけにはいかないので、かなりきつい。筆者はここでオーバーペースが祟った。
しかし初めて目にした涸沢の感動的な景観が、その疲れを吹っ飛ばしてくれた。
このヒュッテ(標高2309メートル)涸沢から、正面の北穂高岳の山頂(3106メートル)までは約3時間ほどだが、ここから先はきちんとした登山の装備を持つアルピニストの世界になる。
そして、午後2時過ぎ…
涸沢名物のおでんとビールを胃袋に入れて、今度は下山。
次なる目標は徳沢ロッジのお風呂だ。
さすがに下りはカメラをバックにしまい、黙々と歩き続けた。
足の裏をジンジンさせながら、徳沢には5時ちょうどに到着。ここで足を靴から開放し、至福の入浴タイム。腿とふくらはぎには、早くも筋肉痛の兆しが…
そこから残り6キロを再び歩き、何とか日没寸前に小梨平のサイトに帰着。
レトルトカレーを食べ、缶ビールを2本飲んだところで、上高地での目的を達成できた満足感に浸るまもなく、気を失なったように眠りに落ちた。
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