この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
剣ヶ峰登山がすべてじゃない。
深田久弥の「日本百名山」に名を連ねることもあって、ややもすると、乗鞍岳イコール標高3026メートルの剣ヶ峰、ゆえにその登頂こそが目的のように思われがちだ。
しかし、実際はそれだけじゃない。
乗鞍岳は、剣ヶ峰を最高峰とする23の峰と7つの湖、さらに8つの平原から構成されており、同じ「岳」でも槍ヶ岳のような「単独峰の頂き」を指すものではなく、「乗鞍山頂エリア」と表現するほうが実態に則している。
さて。ここからは筆者がこれまで乗鞍岳に4度足を運び、実際に楽しんできたことを紹介していこう。
夏の乗鞍岳の楽しみ方【目次】
1.乗鞍岳へのアクセス
2.高山植物の観察(撮影)
まず乗鞍畳平にあるバスターミナルの南側には、広大な高山植物の「お花畑」が広がっており、1周約30分ほどの遊歩道が整備されている。
例年6月下旬から8月中旬にかけて、ここではハクサンイチゲ・チングルマ・イワギキョウ・リンドウなどが見られる。
あまり紹介されていないが、根気よく探せばクロユリも見つかる。
もし見つからなくても、これを買って帰れば、翌年自宅で「乗鞍の黒百合」を見ることができる(大笑)。
ただし、大半の人が楽しみにしている、高山植物の女王「コマクサ」が咲いているのは「お花畑」ではない。
コマクサが一番簡単に見られるのはココ。
上のマップAの鶴ヶ池沿いにある未舗装の遊歩道の、山側のロープ際に分散して群生している。
ただ、おそらくこれらの株は、人口的に移植されたものだと思う。
本来、コマクサはこういう過酷な場所に咲く花だ。撮影したのはマップDを少し下った登山道から。
3.ライチョウ親子の観察(撮影)
筆者は野鳥の写真を撮るのが好きだが、このワンカットには苦労した。
撮影したのは2003年7月29日。マップBの大黒岳の山頂で三脚を構えて、待つことおよそ10時間… もう諦めて下山しようと思った矢先に、彼女は4羽の雛を連れて姿を現した。
地表の土を掘り起こして虫を探す母鳥。
乗鞍岳一帯には100羽ほど生息していると云われているが、後にも先にも乗鞍岳でライチョウが見られたのはこの時だけ。
立山黒部アルペンルートの途中にある室堂では3度見ているので、ライチョウ狙いであれば、室堂のほうがお勧めだと思う。
4.乗鞍岳トレッキング
トレッキングというのは、登頂にこだわらず、大自然が織りなす景観や現象を、起伏とともに楽しみながら進む、云ってみれば「ちょっとハードな山歩き」。
それが正しい定義だ。
キャッチフレーズに書いたが、ここでは剣ヶ峰の登山がすべてではない。
畳平からわずか15分で登れる魔王岳の山頂からでも、タイミングがあえばこれほど見事な雲海が見られる。
また富士見岳の横にあるマップCの不消ケ池には8月でも雪渓が残り、それがグラデーションのように池に溶け出す珍しい光景が見られる。
有名なのは、岩手県の八幡平頂上付近にある鏡沼の「ドラゴンアイ」だが、ここでもその片鱗だけは伺えよう(笑)。
とまあ、このように大自然が織りなす演出を楽しみながら、無理することなく乗鞍岳をトレッキングするのも、ここでも立派な楽しみ方だと筆者は思う。
時間があれば畳平バスターミナルが主催しているミニガイドツアーに参加する手もあるだろう。
5.剣ヶ峰登山
ライチョウ撮影から約15年。これまでずっと積み残していた剣ヶ峰に登るため、2019年8月のお盆前に急遽足を運んだ。
というのは、緊急で北陸出張が入り、予定していた時期より3週間ほど早く、乗鞍岳を訪ねるチャンスに恵まれたのだ。
だが、さすがに還暦超えで3000メートルの山に挑むには準備が足りなかった。
頂上を目前にしながら、脚に限界を感じ、高山病の初期症状を覚えたことから、登頂を断念した。
そんなわけで、撮影できた最高地点の景観は、マップDの権現池となった。
さて。大した難所もなく1時間半ほどで登頂できる…
オフィシャルサイトにもそう書かれているが、普段からウォーキング等で足を鍛えている中高年には、それが当てはまると思う。
たしかにこの山が登れないようでは、行けるところは限られるだろう。
もしかすると、一番ラクに登れる「日本百名山」かもしれない(笑)。
だが、それでも標高3000メートルの山だ。その高さは槍ヶ岳にほぼ匹敵するだけに、低山とはやはり事情が違う。今回はその登山経験が生かされた。
いずれにしても、現時点での体力・筋力を考えれば、今回は下山して正解だった。それゆえギブアップしたことを、さほど殘念には思っていない。
むしろ今の実力が把握できてよかったくらいだ。還暦とは、もはや中高年ではなく初老だということもよく分かった(笑)。