この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊旅行における宿泊場所としての好適性」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
乗鞍高原に、避暑が目的で車中泊による長期滞在がしたいなら、よく場所を選ぶ必要がある。
思い起こせば、乗鞍高原との「付き合い」はずいぶん長い。初めて訪ねたのは1994年、「20世紀の昭和」だ(笑)。
当時は車中泊をしていなかったが、幼い子どもたちといっしょに乗鞍スカイランで畳平までドライブしたり、スノーボードが禁止だった乗鞍高原のゲレンデに何度も足を運んだ。
だが振り返ると、全てが今とは違っている。
大きな露天風呂が懐かしい湯けむり館は道の向かい側に移転し、乗鞍スカイラインは通年マイカー通行禁止、そしてスキー天国だったゲレンデは、スノーボーダーの楽園になってしまった。
それを考えれば、当時乗鞍観光センターの駐車場で、こんな光景がごく普通に見られていたとしても、さほど驚くことではあるまい。
乗鞍高原の車中泊事情を理解するには、現在だけを見るのではなく、そんな過去から今日に至る「時代と環境の変遷」にも、目を向ける必要がある。
もっともこんな話は、平成生まれのブロガーやユーチューバーに書けるはずもなく、必然的に筆者のようなオヤジ世代の出番になるというわけだ(笑)。
乗鞍高原【目次】
1.乗鞍高原の車中泊事情
ここで、乗鞍高原がどういうところかを簡単に説明しよう。
乗鞍高原は、乗鞍岳の東面・長野県側に広がる高原エリアで、標高1600メートル付近に「のりくら温泉郷」がある。
豊かな自然を生かした観光産業が盛んで、夏は避暑、夏から秋にかけては登山、冬はスキーを目的とする多くの観光客が訪れる。
そのため、ペンション・民宿・旅館・国民宿舎などを合わせると、実に100軒以上の宿泊施設があり、レストラン・そば処・土産屋なども多い。
さて貴方は、そのような土地で暮らしを営む人々が、お金を落とさない車中泊の旅人に寛大でいられると思うだろうか?
その「のりくら温泉郷」の玄関にあたる場所にあるのが、マイカー規制が行われている乗鞍畳平行きのバスターミナルを兼ねた「乗鞍観光センター」だ。
夏は日帰り観光客のマイカー乗り換え用として、また冬はスキー客用に、広い無料駐車場を構えている。
ここに目をつけたのが、キャンピングカーを含む車中泊の旅人だった。
時代は1995年頃。「道の駅なるさわ」の駐車場に洗濯物を干して乗り入れを禁止されたり、草津温泉の「大滝乃湯」の前で堂々と椅子とテーブルを広げて車中泊をするなど、実は25年も前から各地で悪さを働く車中泊の輩はいた。
乗鞍高原と車中泊旅行者のいざこざは、ここに端を発しているのだから根が深い。
節操のない車中泊旅行者たちによってもたらされた、乗鞍観光センターの「苦悩」は、この注意書きに見事に集約されている。
そう一番の問題は、周囲の宿泊施設からクレームが寄せられたことだ。そりゃ、隣人から他人のせいで文句を云われるのだから辛いのは当然だ。
また乗鞍観光センターの「苦悩」には、他にも理由があった。
本来、この駐車場は乗鞍岳をトレッキングする人向けに設けられており、特に夜明け前に出発する「ご来光バス」を運行していることから、むやみに車中泊を禁止すれば、今度は利用者からクレームが出ることを施設側は理解していた。
つまり、彼らが排除したかったのは、山へ行くわけでもなく、日中から駐車場に屯して避暑を決め込む「車中泊の旅人」だけだ。
そして何より大事なことは、今もそれは変わらない… また、同じことは乗鞍高原のすべての無料駐車場に当てはまる。
結論は、避暑目的で乗鞍高原に行く時は、よく場所とやり方を考える必要があるということだ。
乗鞍高原に限らず、キャンプ場以外の道の駅や、無料駐車場における「避暑目的の滞在や連泊」は、もはや北海道でさえ受け入れてくれるところは皆無に等しい。
ということは、これからの車中泊旅行者が、そういう車上生活的クルマ旅を目指さないことが、唯一の抜本的な解決策になるわけだ。
日本人がやれば、外国人も同じことをやる。そうなると、今のような規制で済まなくなるのは目に見えている。
その結果、国民感情は「車中泊全面禁止」に大きく傾くに違いない。
既に道の駅の中には、長野県のビーナスラインにある美ヶ原高原のように、「車中泊はご遠慮ください」と謳う施設が急増している。
これはそれが顕在化してきた兆候で、今後この都合のいい「ご遠慮ください」のフレーズは、数多の道の駅で「流行する」だろう(笑)。
ただ、この「ご遠慮ください」を「禁止」と履き違えて、SNSなどを通じて大騒ぎをするのはバカの上塗りだ。
公示された注意書きをよく読めば、「そりゃ、そういうことは誰が見てもあかんやろ!」ということしか書かれておらず、普通の車中泊旅行者は「的外れで無関係」な話でしかない。
2.乗鞍高原の車中泊スポット
以上のことを踏まえた上で、紹介できるところをリストアップした。
2-1.乗鞍BASE
「いがやレクリエーションランド」が運営する、2018年にリニューアルオープンしたばかりの高規格オートキャンプ場。
電源完備で割安な車中泊専用スペースもある。ここならどれだけ連泊・滞在しても、誰からも文句は云われる心配はない(笑)。
2-2.一の瀬園地 無料駐車場
2018年にキャンプ場が閉鎖され、現在は緑地の無料駐車場として使われている。
今のところ、無料で車中泊できて避暑にも使える場所としては、ここが一番無難だろう。
2-3.やまぼうし 無料駐車場
スキー客用に作られた、未舗装ながら広大な面積を持つトイレ付きの駐車場で、グリーンシーズンは乗鞍エコーラインの臨時乗り換え駐車場と、善五郎の滝見学者用として無料開放されている。
そのため現時点は、ご覧のような避暑を目的とする長期滞在者グループにとって、格好の隠れ家になっているようだ。
だがトイレが閉鎖されれば、たちまちアウト。何かあれば即使えなくなるリスクはあるものの、避暑目的で行きたい人には、現時点ではキャンプ行為もできる「ベストスポット」になっている。
もうやっちゃってる人がいるので、いまさら隠しても仕方あるまい(笑)。あとは地元がどう対処するかだが、明るい未来があるとは思えない。
2-4.乗鞍観光センター 無料駐車場
乗鞍岳及び乗鞍高原の観光が目的の人にお勧め。
「車中泊はご遠慮ください」との表記はあるが、明記されたルールを守れば車中泊はOKだ。
2-5.番所大滝 有料駐車場
番所大滝見学者用に設けられた野外トイレのある有料駐車場で、料金は1日につき、小型車200円、大型車500円。
お金は集金ボックスに入れる。有料ということもあって、利用者はまばら。その意味では穴場といえる。
2-6.三本滝 無料駐車場 ※トイレは夜間閉鎖
駐車場はこのレストハウス側と、エコーラインを挟んだ反対側にもあるが、トイレはレストハウスの中なので、閉館後は使えない。
そのため空いているので、キャブコンのようにトイレがあるクルマに乗る人にはいいかもしれない。ただし夜明け前から「ご来光バス」がやってくるので、朝は静かではないだろう。
2-7.番外編 道の駅 風穴の里
乗鞍高原からは多少離れているが、道の駅が安心でいいという人にはココがある。
3.乗鞍高原の車中泊環境
道の駅を除けば、どこで車中泊をするにしても、温泉に関する心配は不要だ(笑)。以下の記事を参考に、良さそうなところを選べばいい。
何より大変なのは「買い出し」だ。
スキーと登山、そして温泉の宿泊客で栄えてきた乗鞍高原には、「食料調達がしずらい」という難点がある。近くにはスーパーマーケットどころかコンビニもないのだから困ったもんだ(笑)。
ただし、お酒とおつまみだけは手に入る(笑)。
リカーショップ TSUDUKI
☎0263-93-2440
長野県松本市安曇番所39869-19
9時~18時・水曜定休
比較的大きなスーパーは、松本方面に向かって30キロ近く走った、松本電鉄・上高地線の「波田」駅手前の「デリシア」。国道158号沿いの波田町役場交差点を右折し、踏切を超えたスグのところにある。
ここはコインランドリーも併設しているので、長旅の途中で乗鞍高原に立ち寄りたい人には朗報だと思う。