「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
際立つ風情に加え、著名人のエピソードもおもしろい。
蔦温泉旅館のロケーション
奥入瀬渓流館から約6キロのところに建つ蔦温泉旅館は、十和田樹海と呼ばれるブナの原生林の中にある。
宿の周囲には「蔦の七沼」と称される湖沼群が点在しており、散策路として「蔦沼めぐり自然研究路」と「野鳥の森めぐり」の2つのコースが整備されている。
その無料駐車場にはトイレがあり、車中泊も可能なようだ。
駐車スペースは未舗装だが、フラットで車中泊に支障はない。
蔦温泉旅館
大正7年に建築された蔦温泉旅館の本館。
日本百名湯にも選ばれている蔦温泉は、日本に30ヶ所しかない、足元から自噴する「源泉湧き流し」の温泉で、発見は平安時代の1174年とされている。
お湯は無色透明で無臭。pH値は6.9でほぼ中性だが、保湿成分のメタケイ酸の含有量は174.3ミリグラムと比較的豊富で、美肌効果が期待できそうだ。
日帰り客も「久安の湯」と「泉響の湯」に入湯できる。
ただし「久安の湯」は、もともと旅館棟専用の混浴風呂だったため、浴場がひとつしかなく男女時間入れ替え制になっている。
女性:10:00~12:00・21:30~翌朝8:00
男性:13:00~21:00
いっぽうこちらは、天井まで12メートルの高さを誇る「泉響の湯」。
名前は文豪・井上靖が来館した際に、蔦温泉の雰囲気を「泉響颯颯」(せんきょうさつさつ=泉の響きが風の吹くように聞こえてくる、の意)と詠ったことに由来するという。
かつては湯治棟専用の混浴風呂で、4 メートル×8 メートルという大浴場だったが、1996年(平成8 年)に改築し、現在は男女別になっている。
また、湯船の脇にはシャワー室もある。
蔦温泉にまつわるエピソード
大町桂月が愛した旅館
十和田湖や奥入瀬渓流の美しさを世に広め、心奪われる流れや滝・岩に名前をつけた明治時代の紀行作家・大町桂月は、この温泉をこよなく愛し、晩年は本籍を土佐よりこの地に移して、終のすみ家にした。桂月の墓は今も蔦温泉旅館の敷地の中にある。
蔦温泉旅館は、その大町桂月(1869 ~ 1925年)の没後90年となる2015年6月に、資料館を開館。桂月の足跡や蔦温泉が所有する掛け軸などを紹介している。
入場無料
開館時間:7時~21時(日帰り客は入浴営業時間のみ)。
名曲「旅の宿」の舞台
昭和44年に新婚旅行で訪れた作詞家・岡本おさみが、別館客室のイメージをもとにしたためた一篇の詩が、フォークシンガーの吉田拓郎の手にわたって、完成したのがこの曲だ。
「ひとつ泊まってみようかな」という気にさせてくれる名宿だった。
蔦温泉旅館 オフィシャルサイト
☎0176-74-2311
大人800円
10時~16時(受付最終15時30分)