このコーナーには、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、原稿作成のためのメモ代わりに書き残してきた「忘備録」と、旅先で頭に浮かんだ「エッセイ」を収録しています。
角館を深堀りする。
2021年・東北桜前線追っかけ旅(7)【目次】
1.角館には2種類の桜が咲く。
「みちのくの小京都」と呼ばれ、年間約200万人もの観光客が訪れる角館は、明治まで11代にわたって続いた佐竹北家の城下町で、戊辰戦争では目前まで敵が迫るが、かろうじてその戦禍を免れた。
その角館の武家屋敷を春に彩る枝垂れ桜は、都から嫁いできた、二代目義明の妻の嫁入り道具の中にあった苗木がルーツだという。
もうひとつの角館の桜の名所は、檜木内川左岸堤の桜並木で、例年ゴールデンウィーク頃に、約2キロにおよぶソメイヨシノの華やかなトンネルが完成する。
厄介なのは、枝垂れ桜とソメイヨシノの開花時期が少しずれることだ。
筆者は2012年にも角館に桜を求めて来たことがあるのだが、その時はソメイヨシノは満開だったが、武家屋敷の枝垂れ桜は既にピークを過ぎつつあった…
そこで今回は、枝垂れ桜のピークを狙い撃ちすべく、情報収集に工夫を凝らし、しっかりタイミングを見計らって足を運んだ。
大切なのは『角館の「枝垂れ桜」の満開予想』をチェックすること。
ネットに出回っている満開予想は、ソメイヨシノの場合が多いので、混同しないよう注意する必要がある。
また「開花予想」と「満開予想」があることにも留意しよう。
その結果、作戦はご覧の通り大成功。
色鮮やかな枝垂れ桜と、重厚感のある武家屋敷のコラボを、目論見通りモノにしてきた。
こちらが武家屋敷のメインストリート。こういう景観は日本広しといえども他にはなく、本当の京都でも見たことがない(笑)。
そのかわり、檜木内川左岸堤の桜並木は「一分咲き」。
とはいえ、川堤の桜並木は、角館まで来なくても各地に名所がたくさんある。
2.角館観光の落とし穴は、「木を見て森を見ず」
さて、本論はここから。
角館を深堀りする秘訣は、同一コンテンツの重複を避けることだ。
わかりやすく云えば、桜と武家屋敷ばかりを見ていたのでは、「木を見て森を見ず」になるということ。
そのためには、「角館では何が見られるのか」を整理して出かける必要があるのだが、それをわかりやすくまとめている資料は本当に少ない。
類似の施設を複数紹介することで、読者に選択肢を提供するといえば聞こえはいいが、実は同時に迷いまで与えてしまう。
筆者が観光客なら、現地のベテランガイドさんが自信と根拠を持って案内してくれるように、武家屋敷はココ、お土産はココと、多彩な見どころを持つ角館を要領よく周りたい。
今回角館に来た理由は、そういうプロらしいガイドを作り上げることにある。
帰宅後にきちんとした特集ページを作るつもりだが、ここでは少しその片鱗を紹介しておこう。
2-1.武家屋敷
見学可能な角館の武家屋敷には、有料と無料があるが、有料施設の多くは何らかの博物館的な展示物を用意しており、無料施設との明確な差別化を図っている。
ただ江戸時代の武家屋敷は、それほど珍しいものではなく、太平洋戦争の戦火に遭っていない城下町に行けば、類似の施設を見学することができる。
とはいえ、はるばる角館まで来た以上、ひとつくらいは中を覗いて帰りたい。
そこで有料施設を見るなら、この圧倒的な敷地を誇る「青柳家」がお勧めだ。
格式ある青柳家の蔵には、江戸時代の武具や生活用品のほかに、安藤(歌川)広重などの絵画や幕末の写真、さらには昭和のカメラや蓄音機なども展示されており、改めてお武家の暮らしの豊かさを知ることができる。
またそういうものに興味がない人には、無料の見せたい屋敷がある。
写真の岩橋家は、松本家とともに、2002年に上映された山田洋次監督、真田広之・宮沢りえ主演の映画「たそがれ清兵衛」のロケに使われている。
今はアマゾン・プライムに加入している人なら、前夜にクルマの中で映画見てから角館に行くことも可能。本当に便利な時代になったものだ(笑)。
2-2.樺細工
角館には、武家屋敷とともに樺細工を扱う施設が複数存在するが、興味があるなら、無料で見学できる「樺細工伝承館」に足を運ぶといい。
2-2-1.角館の樺細工
山桜の樹皮から作られる樺細工(桜皮細工)は、万葉集や源氏物語にも登場する日本の伝統工芸品で、湿気を保ち乾燥を防ぐ特性を持っている。
江戸時代の中頃に、佐竹北家の庇護のもとで始まった角館の樺細工は、下級武士の手内職として育まれていくが、明治維新を迎え、禄を失った武士たちが、本格的に樺細工の製作に取り組んだことで、博覧会への出品や、皇室への献上品としても採用されるなど、高い商品価値を持つにいたった。
今では全国でも角館だけに、その技術が受け継がれているという。
その他では、「稲庭うどん」の店が角館には多くある。
稲庭うどん
秋田県南部に伝わる手延べ製法による干しうどんで、日本三大うどんのひとつに数えられ、2007年(平成19年)には農林水産省により、「農山漁村の郷土料理百選」に選ばれている。
約350年の歴史を誇る「稲庭うどん」は、江戸時代初期に稲庭地区小沢に住んでいた佐藤市兵衛が、地元産の小麦粉を使って干しうどんを製造したのが始まりとされているが、それを秋田の名物にまで発展させたのは、血縁関係のない佐藤吉左衛門と、その4男の2代目佐藤養助だ。
写真は、今食べられる7代目佐藤養助の「稲庭うどん」。
大阪の人間が食べ慣れている讃岐うどんとは、異質の喉越しの良さが魅力だ。
3.角館の町歩き
基本的に日本の観光地は、電車駅を起点に散策コースが組まれている。
だが角館は、ハイライトといえる武家屋敷と、檜木内川左岸堤のすぐ近くに観光駐車場があるため、云ってみれば「過程を飛ばして結論だけを見ることができる」特殊な場所とも云える。
そこで「角館の王道」を知るべく、駅まで足を伸ばしてみることにした。
角館の駅前で一際目を引く白い建物は、「角館駅前蔵」と名付けられた観光案内所だ。
中にはコンシェルジュ・デスクがあり、角館の歴史を紹介する数々の展示も。やはり本来は、まずここに立ち寄ってから武家屋敷方面に進むほうがいい。
また駅から歩くと、有名な「安藤醸造元」も見つけやすい。
さて。前回に稲庭うどんを食している筆者が、はるばる駅前まで足を伸ばした理由はもうひとつある。
それは秋田名物「きりたんぽ鍋」を本場の店で食べることで、それが駅の近くでできることをきっちり調べてきた。
ところが!
あろうことか、この日は想定外の休業。しかしホームページには「不定休」と書かれているため、どうしようもない(笑)。
仕方がないので、今回来てみてやたらと目立っていた「比内地鶏の親子丼」を、ネットによく出ている店でいただくことに。
若者が稲庭うどんでは物足りないのは分かるとしても、この店の親子丼は中高年に勧められるレベルではなかった。
確かに鶏肉はジューシーで悪くない。また米粒の大きさから察するところ、地元産の「あきたこまち」を使っているようにも思う。
だがダシが潤沢なあまり、シャバシャバしすぎて丼の体を成していない。吉野家では「つゆだく」を注文する筆者も、さすがにこれには閉口した。
しかし1階の土産コーナーには、筆者イチオシの「いぶりがっこチーズサンド」が置いてあり、こちらは探していたものだったので、失点挽回の差し引きチャラ。ということにしておこう(笑)。
ちなみに「いぶりがっこ」とは、燻製をかけた大根の漬物で、秋田の伝統食。チーズにもスモークがあるだけに、両者の相性は抜群にいい。
なおクルマはあれこれ悩むより、8時~16時30分まで普通車1日500円で利用できる、市営桜並木駐車場に停めるのがいちばん楽でいいと思う。
なによりロケーションがよく、土地勘がない観光客でも迷わない場所にある。
そのうえ時間外は無料開放されるうえに、道路の向かいに公衆トイレがあるので、車中泊にも適している。
さくら祭りが開催された2012年は、実際に筆者もここで泊まった。
しかし今回は夕方前に角館を後にし、一路青森を目指すことに。
なぜなら今夜から天候が悪化し、夜半には大荒れとなる予報が出ていた。大雨でも風呂に入れて、最悪2日間足止めを食らっても耐えられる場所はどこだ?
これまでの経験から弾き出された答えは、青森県にある「道の駅 いかりがせき」だった。
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