この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。

内房屈指の観光スポット「鋸山」に、マイカーで登る具体的な方法をご紹介。
「鋸山(のこぎりやま)」【目次】
1.鋸山とは
乾坤山(けんこんざん)という正式名を持つ鋸山は、神奈川県の三浦半島にある久里浜港から、浦賀水道を横切って内房にアクセスする「東京湾フェリー」の入港先、金谷港の背後にそびえる標高約330メートルの低山だ。
洋上からでもはっきり分かるこの断崖絶壁は、実は天然ではなく、人が創り出したものというから驚く。
乾坤山を形成している凝灰岩(ぎょうかいがん)は、かつて「房州石」と呼ばれた良質の石材で、ここには江戸時代から盛んに採石が行われてきた歴史が刻まれている。
採石によって露出した山肌を遠目から見ると、まるで鋸(のこぎり)の歯のように見えることから、いつしか乾坤山は「鋸山」と呼ばれるようになった。
採取された石材は、幕末から明治・大正・昭和にかけて、主に横須賀軍港や横浜の港湾設備、また東京湾要塞の資材として利用されたが、自然保護規制の強化により1985年(昭和60年)を最後に採石は終了。
石切場や石材搬出路の跡は、産業遺産として観光資源になっている。
2.山頂へのアクセス方法は3つある。
東京都心から1時間ほどで来れる鋸山は、手軽なハイキングコースとしても人気があり、いくつかの登山ルートが用意されているのだが、旅人の場合はそこまでしている余裕はないと思う。
ということで、ここではロープウェイとマイカーで、山頂近くまで登りたい人に向けた話をしよう。
実は鋸山の見どころは、日本寺の境内の中にある。
日本寺は約1300年前に、聖武天皇の勅詔を受けた行基によって開かれた、関東最古の勅願所(天皇・上皇の勅命により、国家鎮護を祈願する寺社)で、山の名前に使われている「乾坤」は、「天地」の意味を持つ日本寺の山号でもある。
そのためロープウェイでもマイカーでも、山頂に通じるここから先は、文化財の維持・管理および境内の環境整備・復興のため、別途拝観料おとな700円が必要だ。
理由はともあれ、しっかりお金は取られるのだが、それに見合うだけのものが見られると筆者は感じた。
なお日本寺の境内を含む鋸山では、リードをつなげばペットの同伴が許されている。
ペットを同伴したいなら、このあと説明する「鋸山登山自動車道」でのアクセスのほうがお勧めだ。
2-1.鋸山ロープウェイ
山麓駅からわずか4分ほどで鋸山山頂付近まで行け、窓からは切り立つ採石場の跡が間近に見られる。
料金はおとな片道500円、往復950円。運行時間は通常9時~17時。ただし乗車定員が少ないため、GWや紅葉時期にはかなりの待ち時間が出るようだ。
山麓駅には広い無料駐車場がある。
2-2.鋸山登山自動車道
麓から全長約2.7キロの鋸山登山自動車道が、日本寺の西口管理所の隣にある「有料道路専用山頂駐車場」に通じている。
通行料は1000円なので、夫婦や家族で行くなら、クルマのほうがロープウェイより安上がりになる。
また夫婦2組でいくなら、「山麓無料駐車場」で1台に相乗りしてから登るという節約術もある。
「有料道路専用山頂駐車場」は、未舗装とはいえ駐車料金は無料で、収容台数も120台ほどと大きい。
2-3.ロープウェイと鋸山登山自動車道のどっちがお勧め?
まず前述どおり、複数で行くならコストはマイカーのほうが安い。
またロープウェイは、鋸山まで公共交通機関でやってくる大多数の観光客が利用するため、どうしても混雑しやすい。
もうひとつの観点は、山内の観光だ。
10万坪余りの境内には、日本一の高さを誇る大仏(薬師瑠璃光如来)、千五百羅漢、百尺観音、地獄のぞきなどがあり、すべてを見て回るには1時間半ほどかかる。
個々の見どころに関する説明は、このあと詳しく記載するが、結論から云ってしまうと、拝観料を支払う「日本寺の西口管理所」から先は、ほとんどが下りの道沿いにある。
そのためロープウェイで行くと、マップの大仏広場まで降りてしまうと、帰りはかなり厳しい上り坂を歩かされる羽目になる。
しかしクルマの場合は、鋸山登山自動車道の途中に「大仏口駐車場」と「東口駐車場」があるので、近場を見たらクルマで移動することができる。
もちろんどちらも駐車料金は無料で、再入場時に管理所で拝観券を提示すれば、今度は無料で通してくれる。
ということで、ここで鋸山の一番ラクな観光方法を整理しよう。
1.クルマで鋸山登山自動車道を上り、山頂付近の「有料道路専用山頂駐車場」に停めて、西口管理所から入場する。
2.そこから「百尺観音」と「地獄のぞき」を目指し、反対側から「東海千五百羅漢像道」を回ってクルマに戻る。
3.クルマで「東口駐車場」まで移動し、大仏広場を観る。
筆者は家内とはクルマで、ひとりではロープウェイで鋸山を訪ねているが、実際にやってみると、両者の違いは大きかった。
3.鋸山の見どころ
既にお気づきかもしれないが、ここには「鋸山からの見どころ」と「鋸山の見どころ」の2つの観光スポットがあるが、当サイトでは道順に紹介していこう。
3-1.百尺観音
鋸山=地獄のぞきと思ってやってくる観光客に、衝撃的な先制パンチを食らわせているのが、この百尺観音だ。
房州石の石切場跡に昭和35年から6年の歳月をかけて彫られた磨崖仏は、高さ100尺(約30m)の観音菩薩で、陸海空の交通安全を守るご本尊として崇めらている。
3-2.地獄のぞき
本来の「地獄のぞき」は、鋸山の山頂に幾つかある展望台の通称とされているようだが、大半の人は石切場跡の絶壁の上に、下方前傾に突き出したこの場所をイメージしていると思う。
ただ、この景色は頂上付近のいろいろな場所から見られるので、「地獄のぞき」で怖い思いをしなくても撮影はできる(笑)。
それより、誰もが「地獄のぞき」で撮りたいのは、こういう写真では?
このアングルが撮れるのは、少し手前にある瑠璃光展望台。
さっきの写真は、ここから一眼レフで望遠をかけて撮影している。
ただ手摺がある1番前から撮影すると、他の人のアングルに入ってしまうので、撮るならシャッターを切ったら即立ち退こう。
そこでモニターチェックしてると、気の短いおっさんにドヤされる。特に関東では大阪弁がよく効くようだ(爆)。
3-3.千五百羅漢
「西口管理所」から大仏広場に通じる道沿いに安置されているのは、江戸時代後期に奉納された、1553体の「東海千五百羅漢」と呼ばれる石仏群だ。
表情は実に様々で、その数にも圧倒されるが、中には石仏とは思えないほど超リアルな仏様も。
ただし見終わったあと、「西口管理所」まで戻る上りの石段はかなりきつい。
特に夏場は、ペットボトルの冷たい飲料を持参するほうがいいと思う。
3-4.日本寺大仏
この薬師瑠璃光如来は、江戸時代の1783年(天明三年)に大野甚五郎英令が、27人の門徒とともに岩山を3年かけて彫刻したものが原型とされる。
しかし長年の雨風によって侵食され、江戸時代末期には著しい破損が発生して崩壊状態になっていたが、1966年(昭和41年)に4年にわたる修復が施され、今日に至っている。
ちなみに台座からの高さ31.05mは、奈良大仏の18.18m、鎌倉大仏の13.35mをはるかに凌ぐ日本一を誇っている。
なお、ロープウェイで来てここまで下るなら、山麓駅の駐車場まで歩いて帰るほうが楽かもしれない。


車中泊でクルマ旅 総合案内
クルマ旅を愉しむための車中泊入門

この記事がよく読まれています。




