車中泊旅行歴25年のクルマ旅専門家が、スカイライン・エコーラインで行く夏の乗鞍岳の楽しみ方ついて解説しています。
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この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の紹介です。
~ここから本編が始まります。~
乗鞍岳は、最高峰・剣ヶ峰の登山がすべてじゃない。
乗鞍岳の筆者の歴訪記録
※記録が残る2001年以降の取材日と訪問回数をご紹介。
2002.10.28
2003.07.28
2003.11.03
2007.10.05
2019.08.09
乗鞍岳での現地調査は2019年8月が直近で、この記事は友人知人から得た情報及び、ネット上で確認できた情報を加筆し、2024年8月に更新しています。
夏の乗鞍岳の楽しみ方

乗鞍岳山頂エリアの概要
深田久弥の「日本百名山」に名を連ねることもあって、ややもすると「乗鞍岳」は、標高3026メートルを誇る「剣ヶ峰」の登頂こそが目的のように思われがちだ。
しかし、実際はそれだけではない。
「乗鞍岳」は、「剣ヶ峰」を最高峰とする23の峰と7つの湖、さらに8つの平原から構成されており、同じ”岳”でも「槍ヶ岳」のような”単独峰の頂き”を指すものではなく、「乗鞍山頂エリア」と表現するほうが実態に則している。

出典:乗鞍岳畳平バスターミナル
そこで「畳平」から始まる「乗鞍山頂エリア」を、マップのAからDの4つの区域に分け、その楽しみ方を紹介していこう。
乗鞍岳へのアクセス
乗鞍岳は岐阜県と長野県のちょうど県境に位置しており、バスターミナルがある「乗鞍畳平」まで、岐阜県側の平湯温泉からもしくは、長野県側の乗鞍高原からシャトルバスでアクセスできる。
A.高山植物の観察
まず「乗鞍畳平」にあるバスターミナルの南側には、広大な高山植物の「お花畑」が広がっており、1周約30分ほどの遊歩道が整備されている。
例年6月下旬から8月中旬にかけて、ここではハクサンイチゲ・チングルマ・イワギキョウ・リンドウなどが見られる。
あまり紹介されていないが、根気よく探せばクロユリも見つかる。
もし見つからなくても、これを買って帰れば、翌年自宅で「乗鞍の黒百合」を見ることができるかもしれない(笑)。
ただし、大半の人が楽しみにしている、この高山植物の女王こと「コマクサ」が咲いているのは「お花畑」ではない。
コマクサが一番簡単に見られるのはココ。
上のマップAの鶴ヶ池沿いにある未舗装の遊歩道の、山側のロープ際に分散して群生している。
ただ、おそらくこれらの株は、人口的に移植されたものだと思う。
本来、コマクサはこういう過酷な場所に咲く花だ。撮影したのはマップDを少し下った登山道からだった。
B.ライチョウ親子の観察
筆者は野鳥の写真を撮るのが好きだが、このワンカットには苦労した。
撮影したのは2003年7月29日。マップBの大黒岳の山頂で三脚を構えて、待つことおよそ10時間…
もう諦めて下山しようと思った矢先に、彼女は4羽の雛を連れて姿を現した。
地表の土を掘り起こして虫を探す母鳥。
乗鞍岳一帯には100羽ほど生息していると云われているが、後にも先にも乗鞍岳でライチョウが見られたのはこの時だけ。
立山黒部アルペンルートの途中にある室堂では、冬羽の姿を含めて3度見られているので、ライチョウ狙いであれば、室堂のほうが確率は高い思う。
C.乗鞍岳トレッキング
トレッキングというのは、登頂にこだわらず、大自然が織りなす景観や現象を、起伏とともに楽しみながら進む、云ってみれば「ちょっとハードな山歩き」。
それが正しい定義だ。
キャッチフレーズに書いたが、ここでは「剣ヶ峰」の登山がすべてではない。
「畳平」からわずか15分ほどで登れる「魔王岳」の山頂からでも、タイミングがあえばこれほど見事な雲海が見られる。
また「富士見岳」の横にあるマップCの「不消ケ池」には8月でも雪渓が残り、それがグラデーションのように池に溶け出す珍しい光景が見られる。
有名なのは、岩手県の八幡平頂上付近にある鏡沼の「ドラゴンアイ」だが、ここでもその片鱗だけは伺えよう(笑)。
とまあ、このように大自然が織りなす演出を楽しみながら、無理することなく乗鞍岳をトレッキングするのも、ここでは立派な楽しみ方だと筆者は思う。
時間があれば畳平バスターミナルが主催しているミニガイドツアーに参加する手もあるだろう。
D.剣ヶ峰登山
ライチョウ撮影から約15年。
これまでずっと積み残していた「剣ヶ峰」に登るため、2019年8月のお盆前に急遽足を運んだ。
というのは、緊急で北陸出張が入り、予定していた時期より3週間ほど早く、「乗鞍岳」を訪ねるチャンスに恵まれたのだ。
だが、さすがに還暦超えで3000メートルの山に挑むには準備が足りなかった。
頂上を目前にしながら、脚に限界を感じ、高山病の初期症状を覚えたことから、登頂を断念した。
そんなわけで、撮影できた最高地点の景観は、マップDの「権現池」となった。
「乗鞍岳」には、大した難所もなく1時間半ほどで登頂できる…
オフィシャルサイトにそう書かれているが、普段からウォーキングで足を鍛えている中高年には、それが当てはまると思う。
たしかにこの山が登れないようでは、行けるところは限られるだろう。
もしかすると、一番ラクに登れる「日本百名山」かもしれない(笑)。
だが、それでも標高3000メートルの山だ。
その高さは「槍ヶ岳」にほぼ匹敵するだけに、低山とはやはり事情が違う。
今回はその登山経験が生かされた。
いずれにしても、現時点での体力・筋力を考えれば、今回は下山して正解だった。それゆえギブアップしたことを、さほど殘念には思っていない。
むしろ今の実力が把握できてよかったくらいだ。還暦とは、もはや中高年ではなく初老だということもよく分かった(笑)。