車中泊旅行歴25年のクルマ旅専門家がまとめた、南信州「駒ヶ根」の見どころと車中泊スポットの紹介です。
「正真正銘のプロ」がお届けする、リアル車中泊旅行ガイド
この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の紹介です。
~ここから本編が始まります。~
駒ヶ根には「千畳敷カール」と天然温泉以外に、雨天でも楽しめるファクトリー・ミュージアムとソウルフードが揃っている。
筆者の駒ヶ根の歴訪記録
※記録が残る2008年以降の取材日と訪問回数をご紹介。
2015.03.06
2015.04.02
2015.07.02
2021.03.07
2024.07.22
2024.09.16
「駒ヶ根」の現地調査は2024年9月が直近です。
駒ヶ根 車中泊旅行ガイド

駒ヶ根市のロケーション
文字通り『駒ヶ岳の麓のまち』という立地から、昭和29年の市制施行時に「駒ヶ根」と名付けられたこの町は、長野県南部にある「伊那谷」のほぼ中央に位置し、西に「中央アルプス(木曾山脈)」、東に「南アルプス(赤石山脈)」の3000メートル級の山々を市内から望める、いかにも信州らしい人里だ。
東洋経済が発表した2023年の『全国住みよさランキング』で、「駒ヶ根市」は全国11位、長野県下ではトップに選ばれている。
コンパクトでありながら、観光・商業・農村エリアと地域によって表情が異なる「駒ヶ根」は、クルマで旅をしていても、車窓からそれぞれの魅力が伝わってくるようで退屈しない。
少し余談になるが、
実は「駒ヶ岳」は、「中央アルプス」だけでなく「南アルプス」にもある。
そのため地元では、「中央アルプス」の方を「西駒ヶ岳」と呼び、「南アルプス」の方は「東駒ヶ岳」として区別している。
さらに登山業界では、より分かりやすく区別するべく、「中央アルプス」のほうを「木曽駒ヶ岳」、「南アルプス」側は「甲斐駒ヶ岳」と呼んでいる。
駒ヶ根の見どころ
「駒ヶ根」のランドマークが、「中央アルプス」にそびえる「木曽駒ヶ岳」であることに異論のある人はいないと思う。
そしてその麓に広がる高原エリアには、ロッジやコテージを持つキャンプ場とともに温泉郷もあるので、観光地としての「駒ヶ根」の扱いは、明らかに「リゾート」になっているようだ。
ただアウトドアをするしないにかかわらず、車中泊の旅人にとっての「駒ヶ根」の魅力は、『雨の日でも楽しめるコンテンツ』が揃っていることにある。
首都圏や京阪神から、車中泊のクルマ旅で信州を訪れる人の多くは、アルプスの山々が織りなす絶景を求め、1週間近い日程を確保して来ると思うが、日本は平均すると『3日に1度は雨が降る』と云われている。
ただゴールデンウィークやシルバーウィークは、日ごとに天気が目まぐるしく変わるので、1日雨天をやり過ごせば、また青空に会えることも多い。
「駒ヶ根」には「温泉」のほかにも、有名な企業の工場見学ができるショップ&ミュージアムと、全国的に有名なソウルフードの店があり、仮に急に天候が崩れてきた時でも、途方に暮れることはない。
千畳敷カール
さて。
「千畳敷カール」は、標高2931メートルの「宝剣岳」直下に広がる、壮大なカール地形(半円状の窪地)で、約2万年前の氷河によって削られた跡だ。
初夏まで残雪の山歩きが楽しめ、高山植物の宝庫としても知られている。
標高2612メートル地点にある「千畳敷カール」までは、「中央アルプス駒ヶ根ロープウェイ」が運行しているが、同じように登山することなく到達できる「立山黒部アルペンルート」の最高地点の「室堂」でさえ、その標高は2450メートルしかない。
それより高い雲上の世界を、このような軽装で闊歩できるのは本当にすごいことだ。
ただそれだけに、ここは行くのがちょっと面倒で、思っているよりお金もかかる。
というのは、「駒ヶ岳ロープウェイ駐車場(菅の台バスセンター)」から約1キロ先は、道路交通法に基づき一般車両の通行が通年禁止になっている。
そのため「菅の台バスセンター」で路線バスに乗り換え、「駒ヶ岳ロープウェイ(しらび平駅)まで行く必要がある。
そうなるとハイシーズンは、「菅の台バスセンター」の激混みは必至。
というわけで、その乗り換え駐車場での車中泊が有効になる。
トイレのある駐車場は24時間出入りが可能で、ゲートには2.2メートルの車高制限が記されているが、料金精算機の屋根が出っ張っておらず、通路の幅もハイエースのワイドまでは確実に通れる。
10キロほど離れたところには「道の駅 田切の里」があるが、どのみち駐車料金は発生するので、混雑が予想される時はこちらで車中泊をするほうが確実だろう。
菅の台バスセンター駐車場
営業時間:24時間
駐車台数:300台
普通車800円(24時間)
マイクロバス、キャンピングカーは1000円
☎0265-83-3107(中央アルプス観光)
なお運賃は、路線バスの往復がおとな1660円、ロープウェイ往復はおとな2290円で合わせて3950円、それに普通車の駐車場代・24時間800円が加算される。
つまり夫婦だとトータル8700円になる。
ただし時期によって運賃は変動するので、公式サイトでご確認うえお出かけを。
早太郎温泉
「早太郎温泉」は、中央アルプスの主峰「木曽駒ヶ岳」を望む、標高約800メートルの「駒ヶ根高原」に、1994年に開湯した新しい温泉で、約1200年の歴史を誇る名刹「光前寺」の門前に、「こまゆき荘」「こまくさの湯」「露天こぶしの湯」の3軒の日帰り温泉と、10軒の宿が点在している。
泉質はpH9.2のアルカリ性単純温泉で無色透明無臭。俗にいう「美肌の湯」で柔らかい肌触りが実感できる。
観光ガイドには「早太郎温泉郷」と表記されていることが多いが、入湯できるのは3本の混合泉だけのようなので、実態としては「温泉郷」には当てはまらないだろう。
加えて源泉掛け流しではなく、加温して循環ろ過され、塩素消毒剤も使われている。
ただ現代ではそれが「普通」で、特別悪いというわけではない。
さて。
「早太郎温泉」の名前は、近くの光前寺に飼われていた山犬の「早太郎」に由来すると多くのガイドに記されているが、正直それではピン!とこない。
そこで、もう少し説明を加えておこう。

出典:じゃらん
以下は「日本伝承大鑑」からの転用
ある時、山犬が光前寺の縁の下で子犬を生んだ。住職が手厚く世話をしてやると、母犬は子犬の1匹を寺に残していった。残された子犬は大変賢く、動きが俊敏であったため、早太郎と名付けられた。
数年後、光前寺に一実坊という旅の僧が訪れた。
僧が言うには、遠州府中の見附天神では、毎年祭りの時に白羽の矢が立てられた家の娘を、人身御供として神に差し出す風習がある。
生贄を要求する神がいるのかと思い様子をうかがうと、化け物たちが現れて「今宵今晩おるまいな 信州信濃の早太郎 このことばかりは知らせるな 早太郎には知らせるな」と歌いながら娘を引っさらっていった。
そこで信濃に早太郎という者を探しに来たのであるが、それが光前寺の飼い犬と知って、借り受けに来たのであると。
話を聞いた住職は早速早太郎に言い聞かせ、一実坊と共に見附天神に向かった。
そして祭りの生贄となる娘の代わりに早太郎が箱に入って、夜を待った。
すると化け物たちが現れ、歌い踊りながら箱を開けた。一散に飛び出す早太郎、不意を突かれて慌てふためく化け物。しばらく凄まじい戦いの物音がしていたが、やがてその音も小さくなっていった。
夜が明けて村人がおそるおそる見に行くと、巨大な狒狒(ひひ)が3匹噛み殺されていたのであった。
なるほど、話としてはおもしろいが、それがどうして温泉の名前に結びつくのかが分からない。さすがに『霊験あらたかなお湯』とまで云うのは、気が引けたのかもしれない(笑)。
であれば、これって意味があるのかな。
お湯はいいだけに、むしろ「美肌の湯・駒ヶ根温泉」にしておくほうが、シンプルで余計な詮索を受けずに済むと思った。
駒ヶ根ソースかつ丼
昭和初期から駒ヶ根市内で提供されてきた「駒ヶ根ソースかつ丼」は、ポピュラーな卵とじタイプではなく、千切りのキャベツのうえに、秘伝のソースをくぐらせたトンカツがのっているのが特徴だ。
見た目通りのガッツリ系の食べ物で、ソースや揚げ油の配合は店によって違うが、基本の形はどこも同じで、熱々のカツとひんやりしたキャベツの相性が食をそそる。
あえて「駒ヶ根ソースかつ丼」としているのは、駒ヶ根以外でも「ソースかつ丼」をソウルフードにしている地域があるからで、代表的なところとしては、以下の3つの町が挙げられる。
福井県福井市
「ヨーロッパ軒」が元祖
特徴:キャベツなし、さらっとしたソース
群馬県桐生市
「志多美屋」が元祖
特徴:キャベツなし、さらっとしたソース
福島県会津若松市
「若松食堂」が元祖
特徴:キャベツあり、とろみソース
ちなみに「駒ケ根ソースかつ丼」の「元祖」は「喜楽」という店で、先陣を切って全国各地に出向き、「駒ヶ根ソースかつ丼」を有名にしたのが「明治亭」と云われている。
気になるのは、あってもなくても変わらないように思える蓋だが(笑)、これはカツの下に埋もれているキャベツとご飯を食べる際に、カツが丼からこぼれ落ちないよう、一時退避させるために使うらしい。
写真は筆者が「明治亭」の本店で食べた時のものだが、「明治亭」は本店のほかに、中央アルプス登山口にある「菅の台バスターミナル」の近くにも支店を構えており、登山後にすぐ立ち寄れることから、登山者の人気を博している。
マルス駒ヶ岳蒸溜所
この「中央アルプス」と「南アルプス」の2つのアルプスをイメージしてブレンドされた「TWIN ALPS(ツインアルプス)」という国産ウイスキーの銘柄を製造しているのが、「駒ヶ根」の「菅の台バスセンター」から2キロほどのところに建つ「マルス駒ヶ岳蒸溜所」だ。

出典:本坊酒造株式会社
蒸溜所が稼働している時期は、普段見ることのないウイスキー造りの設備と、糖化・発酵・蒸留という製造工程が見学できる。
またビジター棟では、蒸溜所限定のウイスキーやマルスワイン、南信州ビールの試飲・販売も行われている。
実は「マルス駒ヶ岳蒸溜所」には、2014年に放送されたNHKの朝ドラにまつわる『知る人ぞ知るエピソード』がある。
その朝ドラがこちら。
「マッサン」はニッカウイスキーの創業者「竹鶴政孝」が、英国に留学して本格的なスコッチウイスキーの製造方法を学んで日本に持ち帰り、紆余曲折の末に北海道の余市に自前の蒸溜所を建て、念願のホンモノと呼べる国産ウイスキー誕生にこぎ着けるまでのストーリーを、ノンフィクションに近いかたちで描いた作品だ。
「マルス駒ヶ岳蒸溜所」は鹿児島の総合酒類メーカー「本坊酒造」が1985年に開設した蒸留所だが、顧問としてその立ち上げの指揮を任されたのが、「竹鶴政孝」をスコットランド留学に送り出した「摂津酒精醸造所」の、当時常務を務めていた「岩井喜一郎」氏だ。
そしてその「岩井喜一郎」が「マルス駒ヶ岳蒸溜所」の立ち上げ時に参考にしたのが、「竹鶴政孝」がスコットランド留学で得たウイスキーづくりの報告書「竹鶴ノート」だった。
写真の「ポットスチル」は、ドラマでは「竹鶴政孝」が1924年に立ち上げたサントリーの「山崎蒸溜所」のシーンによく登場していたので、記憶にある人もおられると思うが、ドラマには「岩井喜一郎」氏はどうやら登場していないようで、ゆえにこの話は「知る人ぞ知る」ということになる。
ちなみに「マルス駒ヶ岳蒸溜所」では、2011年に老朽化したポットスチルを更新し、2020年9月に総工費12億円をかけて蒸留設備を一新するなどの、大幅なリニューアル工事を行っている。
養命酒・駒ヶ根工場と、「くらすわの森」
「駒ヶ根高原」にある「養命酒・駒ヶ根工場」は、約11万坪を誇る敷地面積の70%ほどが森林に覆われた、豊かな自然の中に建っている。
中ではシアタールームの大型スクリーンで、製造工程や工場の四季を解説したハイビジョン映像が観られるほか、ショッピングと試飲も楽しめる。
「養命酒」は、伊那谷の「塩沢宗閑(しおざわ そうかん)」という庄屋が、世の人々の健康長寿に尽くしたいという思いから薬酒づくりを始め、1602年にそう名付けたことがルーツだ。
現在の「薬用養命酒」には、「巡らせる」「補う」「温める」「取り除く」の4つの働きに分類された14種類の自然の薬草が含まれ、「駒ヶ根高原」山麓の地下から汲み上げる清らかな仕込み水を使って、じっくりとそれらの成分を引き出している。
筆者は口にしたことがなかったので、一度試飲をと思ってきたのだが、「養命酒」はアルコール14度のお酒なので、ドライバーには無理とのこと。確かに名前には「酒」と明記されている(笑)。
ところで
みなさんは広島県の「鞆の浦」で作られている、「養命酒」によく似た「保命酒」という商品をご存知だろうか。
いずれも飲むと体が温まり、夏バテ予防にもなるとされているが、「保命酒」は「養命酒」とは異なり、医薬品ではなく、あくまでも薬味を漬け込んだ健康酒になる。
また「鞆の浦」自ら「保命酒」のことを、「瀬戸内の養命酒」と呼んでいるように、先に誕生したのは「養命酒」のようで、両者には約50年の開きがある。
たしか筆者が2011年に「鞆の浦」を旅した時には、売っていたおばちゃんが『養命酒が保命酒のマネをした』と云っていたような気がするのだが(笑)、そういうこともあって「瀬戸内の養命酒」と明示するようになったのかもしれない。
くらすわの森
さて。
「養命酒製造株式会社」は創立100周年を機に、「養命酒・駒ヶ根工場」内にある「養命酒健康の森」をリニューアルし、新たに「くらすわの森」をオープンする。
レストランやハム・ソーセージ工房、マルシェ、菓子工房、ベーカリー&カフェ、さらに地元からセレクトしたグッズを揃えたショップが集う「くらすわの森」は、体験を通して“すこやかさ”を提供することを目的にしているとのこと。
ただ「くらすわの森」のグランドオープンは、2024年10月3日の予定で、筆者は同年9月に訪れたため、一部の施設しか目にできていない。
一見した感じでは、軽井沢にあるような垢抜けた空間のようだった。
かんてんぱぱガーデン
1989年に開業した「かんてんぱぱガーデン」は、寒天の国内トップメーカー「伊那食品工業」本社の、約3万坪に及ぶ赤松林の中に広がる「ファクトリー・ミュージアム」のこと。
敷地の中には、山野草や鑑賞花が植え込まれた広い庭園と、オリジナルブランド「かんてんぱぱ」の加工工場及びショップ、そしてさまざまな寒天料理が味わえるレストランなどがあり、入場無料で試食もできる人気のスポットになっている。
海藻の「てんぐさ」を主原料にする「寒天」の正式名は、「寒晒しところてん」。
「ところてん」から水分を取り除いて乾燥させることからそう呼ばれている。
ノンカロリーで満腹感が長く得られることから、ダイエット食としてよく知られており、糖尿病や動脈硬化の予防にも効果があるとされている。
「かんてんぱぱ」は、その寒天を使ったゼリーをメインにしている家庭用のデザートブランドだが、ショップではその圧倒的なアイテム数に驚かされる。
ゼリー以外にも、「プリン」に「ババロア」、「杏仁豆腐」に「わらび餅」等、そのラインアップは幅広く、筆者は試しに「わらび餅」を家で食べたが、食感はスーパーで売っているデンプン粉の「わらび餅」より、歯応えがあって美味しかった。
ちなみに「かんてんぱぱ」は、「パパでも誰でも簡単にぱぱっと作れる」が名前の由来らしい。なるほど、「かんてんパパ」とは書かないところに意味がある(笑)。
駒ヶ根の車中泊事情
「駒ヶ岳」の麓に広がる高原エリアには、キャンプ場と温泉があるので、観光地としての「駒ヶ根」の扱いは、明らかに「リゾート」だ。
ゆえに車中泊もキャンプ場でと思うかもしれないが、公共交通を利用する旅行者がビジネスホテルに泊まるのと同じで、翌日のために一夜を過ごすだけなら、「道の駅」で十分だと思う。
「駒ヶ根高原」の周りには、ご覧の通り7件もの道の駅があるが、まず「木曽路」の3つの道の駅は「権兵衛トンネル」以外に道がないので、直接「駒ヶ根高原」には行くことができない。
また「道の駅みなみアルプスむら長谷」は、どちらかといえば「高遠城址」に行きたい人に適している。
ゆえに「駒ヶ根」観光に好適なのは、「道の駅 大芝公園」「道の駅 田切の里」「道の駅 花の里いいじま」の3つに絞られる。
「道の駅 大芝公園」は、立地上「木曽路」と合わせて「駒ヶ根」を観光する人にお勧めだ。ここは日帰り温泉を併設しているし、駐車場も驚くほど広い。
いっぽう、翌日の朝から「千畳敷カール」を目指す人には、「道の駅 田切の里」が最寄りになる。
最後の「道の駅 花の里いいじま」は、「天龍峡」や「昼神温泉」周辺を観光後に、「駒ヶ根」方面に北上したい人にフィットする。ちなみに筆者は、ここがお気に入りで車中泊することも多い。