この記事は車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
オイルショックの真っ只中
「北の国から」は1981年秋に放映が始まったが、日本経済史における1980年代初頭は、まさに「第二次オイルショック」の真っ只中にあたる。
オイルショックとは…
1970年代から80年代の日本を2度にわたって襲った、原油高騰に伴う大不況。
第一次オイルショック
1973年10月に勃発した、第四次中東戦争による原油高騰が引き金となって生じた大不況。
ちなみに中東戦争はユダヤ人国家イスラエルと周辺アラブ諸国間の紛争で、1948年から1973年までの間に大規模な戦闘が4度にわたって繰り返されている。
当時の日本は列島改造ブームによる地価急騰から、インフレ状況に陥っていた。 そこにオイルショックによる便乗値上げが相次ぎ、インフレはさらに進行。
それにより、1974年の消費者物価指数は23%の上昇率を記録した。
トイレットペーパーや洗剤の買い占めが横行し、「狂乱物価」という言葉はこの頃生まれた。
政府はインフレ抑制のために公定歩合の引上げを敢行し、企業の設備投資を抑制する政策へと舵を切る。
その結果、東京オリンピックから大阪万博へと続いた日本の華々しい高度経済成長は、ついに終焉を迎えた。
第二次オイルショック
1979年のイラン革命により現地の石油生産が中断したため、イランから大量の原油を購入していた日本の需給が逼迫。
加えて1978年末にOPECが、「翌1979年より原油価格を4段階に分けて計14.5%値上げする」ことを決定したため、第一次オイルショック並に原油価格が高騰した。
しかし、第一次オイルショックの経験を生かした日本は、経済に対する影響を最小限度に食い止めることに成功する。
また幸いにも、第一次の頃ほど原油の値上げは長引かず、イランも石油販売を再開したことにより、危機的状況に陥る前に脱出を遂げた。
「なんとなくクリスタル」が売れた時代
オイルショックは、欧米諸国から「エコノミック・アニマル」と揶揄されながらも、破竹の経済成長を果たすことで溜飲を下げてきた日本人が、戦後初めて味わった挫折である。
しかもそれは努力や根性とは全く異質の外的要因から齎されただけに、働き盛りの企業戦士の多くは自信を失い、目に見えない「やり切れなさ」に、きっと心を痛めたことだろう。
そんな社会の変化をいち早く感じ、違う方向に「生きる意味」を見出したのは、団塊の世代の「一回り下」にあたる当時の若者と子供だった。
「北の国から」が船出をしたのは、「クルスタル族」あるいは「オレたちひょうきん族」に代表されるように、難しいことや堅苦しいことよりも、気軽で楽しいことに、若者の気持ちが傾倒しだした時代だ。
案の定… ズシリとした重みを持つ「北の国から」は、スタート当初から苦戦を強いられ、視聴率も一時は1桁台まで落ち込んだ。
そもそも「北の国から」を楽しみに見ていたのは、黒板五郎と同じ「子育て世代」だったはずだ。
「北の国から」にはドラマと同様に我が子と気持ちが同化せず、仕事だけでなく子育てにおいても、ナーバスに陥っていた当時の30代から40代を勇気づける芯の強さが込められていた。
オシャレとは全く無縁の無骨で貧しい黒板家だが、その食卓からは卑屈どころか、むしろ力強さを感じさせる温もりが、ひしひしと伝わってきた。
実はその「厳しくも、ほのぼのとした団欒」こそが、高度経済成長の原動力となった世代が憧れ、夢見た家庭の姿だったのでないだろうか。
分かっていてもその時間を持つことが許されなかった時代に生き、誇りと家族への懺悔の中で揺れる繊細な部分を鮮やかに射抜いた物語が、子育て世代のハートを鷲掴みにしないはずがない。
ドラマの視聴率は尻上がりに上昇し、最終回は20%を突破、平均視聴率でも14.8%を記録。 また視聴者から寄せられた投書は1万通を超えたという。
当時の倉本氏は47歳。それは脚本家というよりもコンセプトメーカーであり、視聴者と同世代で富良野の実生活者でもある同氏が、確固たる自信と覚悟をもって描いた世界だったのだろう。倉本氏は、後日それをこんなふうに語っている。
1982年1月5日 北海道新聞夕刊『北の国から愛をこめて』より 転記
都会は無駄であふれ、その無駄で食う人々の数が増え、すべては金で買え、人は己のなすべき事まで他人に金を払いそして依頼する。
たわいない知識と情報が横溢し、それらを最も多く知る人間が偉い人間だと評価され、 人はみなそこへ憧れ向かい、その裏で人類が営々とたくわえて来た生きるための知恵、創る能力は知らず知らずに退化している。
それが果たして文明なのだろうか。
『北の国から』はここから発想した…
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