「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。

「からまつの湯」は、まさに秘湯、いかにも隠れ湯。
「からまつの湯」は、養老牛温泉の旅館地区から約1.5キロ奥に進んだ標津川の支流、パウシベツ川沿いに湧く混浴無料露天風呂、すなわち野湯。温泉宿と区別するため、地元では「からまつの湯」を裏養老牛(裏温泉)とも呼ぶらしい。
お湯は無色透明で柔らかい。
ただし湯舟は小さく、4.5人が定員といったところだろうか。底には砂利が敷き詰められており、痛くもなく柔らかくもなく、ちょうど頃合いのマッサージ気分で、立っていても気持ちがいい。
しかし、夏は涼んでいるとアブがすぐに飛んでくるので注意が必要だ。
ちなみにアブを叩いて川に落としてやると、すかさずヤマメがライズしてきた。温泉の近くは木が覆い茂っているため竿を出せないが、パウシベツ川の下流は、天然のヤマメがワイルドに食らいつく極上の釣り場らしい。
更衣室は男女に分かれているが、湯舟は1つ。水着は今でも禁止のようだ。
さて、初めて「からまつの湯」に行こうと思った人の多くは、きっと最後の林道に入る案内看板がどこにもないことに疑問を抱くはずだ。
筆者が使っているカーナビ(パナソニック・ゴリラ)でも、すぐ近くまでは行けるが、完璧に現地までの案内はできなかった。
だがそれは、観光客への意地悪が目的ではない。地元の名誉のために、正しい話を記すとしよう。
「中標津町史」によると、「からまつの湯」の泉源は、1973年に山田林業㈱が従業員の為の厚生施設「グリーン・ようろううし」を設立した際に設けられたものだという。
だがその厚生施設は1986年頃に閉鎖され、コンクリートで囲われた泉源は、後に営林署職員の手で造られた、現在の「からまつの湯」に引き継がれた。
その「からまつの湯」は今、地元の住民たちが作る「からまつの湯愛好会」が管理している。
筆者は4度この湯を訪れているが、毎回その行き届いた清掃と、さりげなく飾られた花や下足の設置に、身も心も熱くなる。
しかし、「からまつの湯」は国有林の中にあり、本来は温泉の営業は許可されない。それが2007年頃までは、過去の成り行きから黙認されていたに過ぎなかった。
しかし、2008年に一帯が水源かん養林に格上げされたことから、その存在がクローズアップされ、閉鎖の危機に直面している。
現在の状況は、閉鎖に際して観光課と営林署の間で宙ぶらりんになったまま。不景気による予算不足で、運よく首の皮1枚がつながっているようなものだという…
「からまつの湯愛好会」は、観光課に存続のためのプランを提案している最中で、それを配慮し、ゲートの横にあった写真の案内看板を現在は取り外しているというわけなのだ。
川のせせらぎを聞き、木漏れ日と森から放たれるフィットンチッドを浴びながらの湯浴みは、まさに究極の癒しであり贅沢ともいえる。
こういった素敵な温泉をいつまでも大事にしたいというのは、誰しもの想いであって、行政の人々にもそれが通じることを切に願いたい。
場所 : 北海道標津郡中標津町養老牛
料金 : 無料
営業 : 24時間
休み : 年中無休
泉質 : 弱食塩泉
備考 : 混浴・男女別脱衣所あり
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