車中泊旅行歴25年のクルマ旅専門家がまとめた、2021年春「東北桜前線追っかけ旅」の足跡を、2024年10月に一部情報をアップデートしてお届けしています。
「正真正銘のプロ」がお届けする、リアル車中泊旅行記
この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、これまでの中で特に印象に残った旅の足跡をまとめた旅行記です。
~ここから本編が始まります。~
あり得ない「早咲き」に感謝感激。
車中泊で行く、”東北桜前線追っかけ”旅行記/2021年北海道
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津軽海峡フェリーで函館入港
ギリギリに近いタイミングで青森港から乗り込んだのは、2020年6月に就航したばかりの津軽海峡フェリーの新造船「ブルールミナス」。
筆者は大阪に住んでいるわりに、津軽海峡フェリーを利用する回数が多く、昨年の夏も行きに大間、そして帰りは函館から乗船している。
去年はタイミングが合わず、2016年に就航した「ブルードルフィン」への乗船になったが、今回は一番都合の合う時間帯に、一番乗ってみたい船が当たった。
東北取材を兼ねると、青森から北海道に渡ることになるのは致し方のない話だが、今回はちょっと事情が違った。
実はこれが”帰路”になる。
その詳しい話は最後に書こう。
今回はその真新しい船の「ビューシート」に座り、3時間40分の船旅を読書に充てると決めていた。
船内で目を通したのは、7年前に北海道で出会い、この世界での生き方を現地で直接レクチャーした、佐久間亮介氏の書いた「キャンプ職業案内」。
教え方が良かったのかどうかはわからないが(笑)、佐久間氏は筆者との出会いから7年かけて、教えた通りコツコツと「フリーランスとして生きるための筋トレ」を重ね、ついに本を書くまでに成長した。
彼とは今でも交流があり、昨年からは一緒に仕事もしている。
「キャンプ職業案内」は、佐久間氏がこれまでに培った業界に関わる人たちとの交流を活かし、それぞれの仕事をポジション別にうまくまとめた、いかにも花の東京らしい内容で、おもしろいし、何よりタイムリーな切口だと思う。
とはいえ「プロとしてのあり方」や「存在価値」という厳しい側面にも触れられており、夢見るだけでは成就しない現実をちゃんと伝えている。
そこには食えるまでに7年を要した、彼らしい視点が反映されているのだろう。
実はもう何年も前から、筆者のクライアントはすべて東京の会社だ。
その意味ではコロナ禍が始まるはるか以前から、リモートワークで生きてきたわけだが(笑)、特にマスコミの世界には、東京でしか成立しない仕事がたくさんある。
今はもう、大阪にはバラエティーはできても、30分の深夜ドラマでさえ、制作できる会社がないのかもしれない。
上陸即、松前へ
定刻の13時40分に函館港に到着後は、一心不乱に松前城を目指した。
その間の距離は約90キロ。高速道路がないので2時間は見なければならない。
いつものように途中の道の駅に寄っている間に、もし松前城の営業時間が終わってしまえば、わずか2泊3日しかない北海道での予定が大きく狂う。
ただ、唯一ここにだけは立ち寄る必要があった。
津軽半島の竜飛崎から約19キロのところにある白神岬は、海道最南端の地で、前の海の底を青函トンネルが走っている。
そこをクルマが通れたら…
何度そう思ったかわからない(笑)。
もちろん以前に写真は撮っているのだが、おバカにも35ミリフルサイズのエースカメラで、前日に車中泊の食事シーンを撮影した時に、ホワイトバランスを室内用に変更したまま、もとに戻すのを忘れてシャッターを切ってしまった。
幸いサブカメラでも撮影してあったので、ことなきを得たのだが、北海道ではできるだけ広角の画像のほうがいい。
ちなみに白神岬は「本州よりも南に位置する北海道」だ。
下北半島にある本州最北端の大間崎より、実は15キロほど南にある。
そのせいだろうか、この日はくっきり岩木山が確認できた。何も云わなきゃ、利尻山でも通用しそうだね(笑)。
さて。松前城に到着したのは4時20分。
とりあえず中には入れたが、さすがに日が傾いて来たため逆光がきつく、なかなか思うようには写せない。
筆者にとっては、これが初めて見る北海道の桜だが、咲いているだけでも不思議という時期だけに御の字だった。
どうにかあがいて、お城絡みのカットを抑え、早々と退城。
松前城は天守というよりは櫓に近いので、普通に撮るとショボすぎる(笑)。
実は、松前には道の駅がある。
この時間になれば、普通はもうそこで泊まるのだが、この日は国道を走っていてもハンドルをとられるほどの強風で、海辺での車中泊は避けたかった。
さすがに横転することはないと思うが、何が飛んできてクルマに当たるか分からない。これは、悪天候時の車中泊のセオリーでもある。
だが、さすがに函館まで戻るだけの体力はなく、半分を少し過ぎたところにある「道の駅 きこない」まで引き返し、そこで車中泊をした。
北海道まで来て、なんでココなの?
と思う人がいるかもしれないが、20回も来れば、北海道でもそんなことは思わなくなる。今宵の筆者にとって大事なのは、キレイな景色より、ウォシュレットのあるトイレと、良好な地デジの電波なのだ(笑)。
ついているにもほどがあるでしょ!五稜郭
実は五稜郭は、今回の撮影ポイントで、もっとも筆者が心配していた場所だった。
青森まで来たところで、松前の開花は把握していたが、五稜郭は今日の朝でも「蕾」のまま…
さすがにだめだな、こりゃ。
ただ北海道の桜は、もともと掲載する予定はなく、万にひとつ「撮れた時には考えよう」と思っていた。
どのみち「帰り道」となる苫小牧に行く途中にあるわけだし、まったく期待はしていなかったが、念の為に立ち寄った。
というのは桜以外にも、ここには目的があったからだ。
それにしても…
「小躍りする」とは、たぶんこういう時に使うのだろう。
というか、五稜郭の開花情報を出している人は、いったいどこを見ているの(笑)。
ただ咲いていたのは、わずかに4.5本でここだけだった。
それでも、この写真があるとないでは大違いになる。
それはタワーから見ても一目瞭然。
まさに奇跡と呼ぶに相応しい出来事で、値千金の1枚だった。
これが五稜郭タワーから見える全景。
それが満開を迎えると、こう変わる。
いずれこの光景をライブで見れる日が来ると嬉しいが、今回はその片鱗を見せてもらっただけで十分だ。
ちなみに筆者の写真は、すべてフレーム内に収まっているが、桜の写真は左の外堀が切れている。
これは以前に、18ミリの広角レンズを35ミリフルサイズの一眼レフカメラに装着して撮影した筆者の写真だが、まさにアングルは「瓜二つ」。
やはりすべてをカバーできていない。
ということはiPhone12がそれをも凌ぐ、ハイスペックな広角機能を有している証。
しかも画像は美しく、解像度も高い。
それにしても、とんでもないスマホが出てきたものだ(笑)。たとえ5G回線が使えるのがまだまだ先でも、このカメラ機能があるだけで十分に価値はある。
スマホの話に夢中になって忘れるところだったが、筆者が五稜郭を訪ねた、もうひとつの理由がこちら。
ちょっと函館をかじったことのある旅行者なら、筆者がここに「チャイニーズチキンバーガー」を求めてきたと思うかもしれないが、還暦過ぎた親父が、中高生と同じ目的で行くわけがない(笑)。
おっちゃんのお目当ては、この「ラッピ手羽先盛り合わせ」だ。
「揚げたての手羽」が、8本も入って税込み605円で買えるのは、かなりのお値打ちだと思う。さすが「会長絶対お勧め!」だけのことはあるね(笑)。
食べきれない分はフェリーに持ち込む。
この季節は簡単には傷まないし、船内では電子レンジが自由に使える。
ただし、このメニューは全店展開されてはいないようで、赤レンガ倉庫近くの店で、以前に買おうとしたら置いてなかった。
だがそれが五稜郭の店にあるのも、事前の調査済みだ。
もちろんついでに、ここにも寄った。
ラッピーもハセストも、五稜郭を過ぎるとめっきり店の数が減る。ということを筆者は北海道の人のように知っていた。
いつもは「焼き鳥弁当」を、津軽海峡フェリーの中でいただくと決めているのだが、今回は「道の駅 なないろ・ななえ」で食べることにした。
なぜなら、ここは可燃ゴミが捨てられる。
北海道の道の駅には、ほとんど可燃物用のゴミ箱が置かれていない。
もちろんコンビニの店頭からも、とっくの昔に消えており、ゴミをどこで捨てられるかを事前に知っていないと、旅人はマジで苦労を強いられるのだ。
以上で「2021年・東北プラスα北海道の桜前線追っかけ旅」のすべての予定を完了し、後は明日の19時までに苫小牧港に着けばいいだけになった。
そのため時間があるので、ここから先も国道で進むことにしたのだが、それがまたしても功を奏する。
前述したように、筆者は2000年に初めて津軽海峡を渡って以来、既に20回以上北海道を旅しており、通算の宿泊数も365日を超えている。
ゆえに、このルートも何度か走っているのだが、まだ雪が残る時期に通るのは初めてで、よもやの「新発見」に遭遇する。
だってこの景色はどう見たって、信州白馬から見る「北アルプス」でしょう!
それ以上に驚いたのは、渡島半島から噴火湾超えでニセコの羊蹄山が見えたことだ。この景観は、まるで西伊豆から駿河湾越しに見える富士山そのもの。まさに「蝦夷富士」の名に相応しいものだった。
またこちらはニセコ連山だが、これは能登半島・氷見にある雨晴海岸から、富山湾越しに見る立山連峰を彷彿させる。
いっぽう振り返ると、そこには駒ケ岳の勇姿も大きく見える。
こうして地図を見れば、実はそれほど驚く話ではないかもしれないが、実際に見ると、クルマを停めてしばしの間佇みたくなるに違いない。
そこで、それができる安全な場所を紹介しておこう。
この写真は、道央自動車道(北海道縦断自動車道)の八雲ICと落部ICの間にある、八雲PAに併設された「噴火湾パノラマパーク」から撮影した。
有料道路上にあるが、この景色を見るために1区間だけ走るだけの価値はある。筆者は国道5号沿いからも撮影しているが、クルマの流れが早く危険なので、あまり人には勧めない。
そんなこんなで寄り道ばかりしていたため、この日は目標の室蘭まで足を伸ばすことができず、途中の「道の駅 伊達」で泊まることに。
噴火湾沿いにはいくつか道の駅はあるが、どこも駐車場に傾斜があって、車中泊に適しているのは、ここしかない。
10年ぶりの地球岬
前日に室蘭を目指したのには理由がある。
筆者は2012年に地球岬を訪ねているのだが、以降は足を運べておらず、その間に展望台が改修されたというので、確認するべく足を運んでみることにした。
ただ、楽しみにしていたのは地球岬ではなく、反対側の山を超えたところにあるトッカリショ。これといった特徴のない地球岬の景色よりも、はるかに個性的で面白い。
2012年は天気がもうひとつで、クリア感のない写真しか撮れなかったが、今回はスカッと爽やか(笑)。
北海道は、やっぱりこうでないと。
しかもこの日は貸し切りで、クルマ絡みのカットの撮影にも成功。最終日も朝から幸運が待っていた。
ちなみに「トッカリショ」の語源は、アイヌ語の「トカル・イショ(アザラシの岩)」で、昔はここにも多くのアザラシが集まっていたという。
いっぽう水平線が丸く見えると評判の地球岬だが、地名にそれは関係ない。
名前は「断崖」を意味する「チケプ」に由来しており、「チケプ」から「チキウ」、それが漢字化されて「地球岬」になった。
確かに展望台は白塗りとなり、さらに「恋人の聖地」が設けられていた。
「恋人の鐘」だか「幸福の鐘」だか知らないが、本当にここ要るのかな。
筆者には遠くに見える渡島半島の影を途中でさえぎる、ただただ邪魔な代物にすぎない(笑)。
それより、土木学会選奨土木遺産と、「日本の灯台50選」に選ばれている白亜のチキウ岬灯台のほうが、はるかに素晴らしい建造物だ。
太平洋フェリーで、ホテル療養疑似体験
その後筆者は、「道の駅サーモンパーク千歳」に移動し、そこで北海道の友人としばしのコーヒータイムを楽しんだ後、北の大地を後にした。
ここで冒頭の「帰路」の話をしよう。
実は当初の計画では、往路に仙台までフェリーを使い、北海道には上陸せず、帰路に新潟と富山を取材して帰る予定でいた。
だが、桜前線が加速度的に北上し、到底不可能と思われた北海道の桜の撮影が現実的に見えてきたことと、これまでの経験上、帰路にハードな取材を残すと消化不良になりやすいことを考慮し、大きくプランを修正した。
今回の取材旅で、おおいに満足のいく結果を残せたのは、この変更が大きくモノを云ったのは間違いない。
期待していたGotoトラベルの再開はなかったが、それでもフェリーは苫小牧から名古屋まで、個室をひとり利用しても約4万円で収まったことも大きかった。
この料金なら、高速代とガソリン代と比べても大差はなく、圧倒的に疲労を軽減することができる。
また深夜が苦手な筆者には、乗船が19時、下船は翌々日にはあるが、午前10時20分というのもありがたかった。
加えて太平洋フェリーは、完全ではないものの、ほとんど船内でインターネットが繋がるため、時間を持て余す心配もない。
ただ、船内では人との接触を避けるために、ひたすら部屋に籠もって、食う・仕事する・テレビを見る・そして風呂に入って寝るを繰り返すだけ…
いや、それに加えてマッサージだけはしたかな(笑)。
それにしても、これはコロナに感染してホテル療養をしている人と、ほとんど大差のない過ごし方に思えた。
いい勉強にはなったが、そんな14日間を想像すると、ちょっと筆者には耐えられそうにない。大阪では出発前より大変な状況になっているだけに、帰宅後はひたすら巣ごもりすることになるだろう。
現時点の計画では、7月に今度は新潟港から北海道に上陸する予定でいる。
一刻も早くワクチンの順番が周ってくることを祈るばかりだ。
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