この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊旅行における宿泊場所としての好適性」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
CS(顧客満足)における、当たり前のことを当たり前に。車中泊旅行者の願いはただそれだけ。
乗鞍観光センター
乗鞍観光センターといえば、筆者が子供たちを連れてスキーや乗鞍岳に通ってきた、20世紀からのメジャーな車中泊スポットだ。
かつては誘導する係員さんが、「こちらのほうが静かでいいいよ」と、ふだんはあまり使わない未舗装の臨時駐車場にわざわざ案内をしてくれるほど、車中泊の旅人に親切なところだった。
状況が一変したのは、2008年にカーネルの取材で訪れたころからだ。
トイレには「オートキャンプ禁止、車中泊禁止」の表示がデカデカと貼られ、ついにはキャンピングカー利用禁止の看板まで登場する。
よほど腹に据えかねる輩がいたのだろうが、それは真面目な旅人を、この地から遠ざけることにもつながってしまった…
ゲレンデも温泉も、そしてライチョウが棲み、コマクサが咲く山も、「乗鞍にしかないわけではない」。
いかなる理由があるにせよ、「お前らは来るな!」といわんばかりの態度を取られれば、「誰が来るか、こんなとこ!」となるのが、普通の神経をした旅行者だろうし、見知らぬ者同士でも、こういう排他的態度に対しては、意図せずとも「団結意識」が働く。
だがそれから4年を経て、2018年あたりから少し風向きが変わった。
具体的にここでは何が禁止行為であるかが明記され、代わりに単なる「オートキャンプ禁止、車中泊禁止」のサインは撤廃された。
車中泊に精通する人がこの地に携わってくれたのか、年々減少傾向にある旅行者数回復のための施策なのか、それは筆者にはわからないが、結果的には良いことだと思う(笑)。
数年前の「素人丸出しの管理」に比べると、これは素晴らしい改善だ。
なぜなら、この表示により、実質的に車中泊は解禁されたわけだから…
道の駅を利用する今の大半の車中泊旅行者は、上記の禁止事項などしなくとも、一夜を明かすことくらいは簡単にできる。
もともと多くの人はそうしてきた。つまり、乗鞍観光センターが素晴らしいのではなく、ようやく「CS(顧客満足)」を理解し、「当たり前のことが当たり前にできるようになった」だけに過ぎない。
それもかなり「贔屓目」に見ての話だ(笑)。
奥飛騨温泉郷
しかし、いっぽうの奥飛騨温泉郷では、今もなお改善の様子は見られない。
栃尾温泉の共同浴場「荒神の湯」では、驚くべき暴挙がなされている。
駐車場の入口にわざわざロープを張り、高さ220センチ以上のクルマは、事実上「お断り」にしている。
乗鞍高原と同じく、憎っくきキャンピングカー(爆)を締め出すための「苦肉の策」なのだろうが、これではルーフラックを積んだミニバンまでアウトになる。
やることが幼稚すぎて、奥飛騨温泉郷全体のイメージを落とすことにもなりかねないと思うのだが…
いや、良識あるベテランたちの間では、もうそういう認識が定着しているに違いない。
最低と揶揄される「あかんだな駐車場」のあり方を含めて、高山のお役人さんは、一度くらいはトンネルの向こうの松本市まで視察に行ってきたほうがいい。
ガソリン代と高速道路の料金だけでなく、生活に関わるあらゆる料金が高騰する中、日本人旅行者は100円にさえシビアにならざるを得ない状況に立たされている。
かといって、世界遺産でもないようなところに、いつまでも気前のいい中国人や近隣諸国の旅行者が来てくれる保証はあるまい。
東海北陸道が全線開通した現在は、高山から白川郷に直進し、魚のおいしい氷見や能登半島の和倉温泉に抜けても旅行は成り立つ。
すなわち冷静かつ客観的にみれば、奥飛騨温泉郷は既に「わざわざ不便な国道でアクセスしてくれる日本人に、養ってもらっている観光地」でしかない。
もっと云えば奥飛騨温泉郷から多くの観光客が出かけているのは、お隣の長野県にある上高地や乗鞍岳だ。
そちらが変わろうとしていることに、もっと敏感でなくて本当にいいのか?
もはや態度を改めたところで、手遅れになるまでにさほど時間的猶予があるとは思えない。
少なくても筆者の気持ちの中では、既にカラータイマーが点滅している(笑)。
奥飛騨温泉郷 車中泊旅行ガイド
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