この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
誰もが「こんな雛飾りは見たことがない!」と驚く、素戔嗚(すさのお)神社の雛段飾り
「素戔嗚神社の雛段飾り」【目次】
「素戔嗚神社の雛段飾り」 ルーツは徳島県の「ビッグひな祭り」
プロローグ
稲取の「雛飾り」と云えば、本来はこの「吊るし雛」が有名で、毎年「河津桜まつり」の時期には、セットでマスコミに取り上げられることが多い。
稲取にすればいい気はしないかもしれないが(笑)、「2本柱」というのは旅行業界にとっても、観光客にとっても魅力的な話であることに間違いはない。
だがここに来て、その「稲取の顔」が変わりつつある。
そのニューフェイスが、こちらの「神社の階段雛飾り」だ。
2018年はちょうど祭りの時期に伊豆周辺を取材していたのだが、夕方のローカルTV放送で、各局ともにこの光景を大きく取り上げていたため、そこまで云うならと足を運んでみることにした。
なるほど!
確かにインパクトは絶大。メディアが飛びつくはずだ(笑)。
「素戔嗚神社の雛段飾り」 アクセス&見学方法
カーナビの目的地は「素戔嗚神社」ではなく、この「雛の館むかい庵」。
理由はこの前に見学客用の無料駐車場があるからだ。
2022年2月更新
Googleナビで「素戔嗚神社」に合わせてみたら、坂の上の本殿にガイドされた。
この日は運良く、たまたま4.5台が駐められる駐車場が空いていたのでどうにか切り返せたが、もし満車なら立ち往生してしまうところだったので、くれぐれもご注意を。
この先の道は普段は通れると思うが、マジで狭いうえにこの時期は歩行者が多く、車両進入禁止は妥当な対応だと思う。
こちらが「雛の館むかい庵」の無料駐車場で、約30台が駐められる。
「雛の館むかい庵」の隣には、簡易トイレが用意されている。
稲取には他にいい車中泊スポットが見当たらず、どうしても車中泊がしたいという場合は、ここがいいかもしれない。トイレは24時間使えるかどうかわからないが、出入庫はできそうに見えた。
ただし駐車場にはかなり傾斜があり、比較的フラットなのは海側の松の木の前あたりになるだろう。
なお、駐車場と反対側の「雛の館むかい庵」の隣には、オーシャンビューの洒落たカフェレストラン「キッチンZEN」があるほか、漁港の近くにも食事処が数件ある。
☎0557-55-9171
ランチ 12:00〜16:00
ディナー19:00~21:30
定休日 水曜日、日曜ディナータイム
更新情報 ここまで
スマホがあれば上の方法で確実に辿り着けるが、カーナビを使用される場合は以下の点にご注意を。
他のサイトによく記載されている0557-95-2901の電話番号は、稲取温泉旅館協同組合のもので、電話番号検索でセットすると違う場所に案内される。
電話番号で入力する際は、「稲取ホンダモータース☎0557-95-2040」にするといい。「雛の館むかい庵」は、その少し漁港寄りのところにある。
なお駐車場は、緑色の建物の「稲取漁協無料休憩所」を挟んだ手前にもあり、こちらに停めるほうが素戔嗚神社には近い。
後述するが、筆者は「雛の館むかい庵」ではなく、近くにある「文化公園雛の館」の見学を勧めるので、素戔嗚神社のみが目的であればこちらの方が楽でいい。
クルマを駐めたら素戔嗚神社までは徒歩で行く。
駐車場から少しだけ漁港に戻ったこの交差点から、坂道を5分ほど歩くだけなのでそれほど大変なことではない。
ほどなく「雛段飾りの会場」に到着。
平日でもツアー客が頻繁に来るので、運が悪いとこうなる(笑)。
だが、彼らは次の予定があるのですぐに移動する。
そこでその合間を利用して、先に上からの眺めを見にいこう。
といっても、もちろんこの階段は登れない(笑)。
先ほどの鳥居の脇に本殿に向かう通路があり、道案内が表示されているので迷うことはない。
ただご覧のように迂回して途中、クルマが通る生活道路を歩く。そしてこの道が、冒頭の「車両進入禁止」の道だ。
そこからは稲取温泉街が見渡せる。
所要時間は5分ほどだが、坂がきついので景色を眺めて一息つこう。
「素戔嗚神社の雛段飾り」 日本一のなりそめ
せっかく来たので本殿に参拝を。
というより、ここは本来それをしに来るところだ(笑)。
この神社は江戸時代初期の1617年に創建され、ヤマタノオロチを退治したスサノオノミコトを祀っている。
ということは、スサノオは雛祭りと何か関係があるのだろうか…
答えはNo。
実は「神社の階段雛飾り」を行っているのは稲取だけではない。
写真は同じ伊豆半島の伊東温泉にある佛現寺の写真で、こちらも118段あって壮観だし、途中にカーブがあるので一味違った写真も撮れる。
調べてみると、この「118」という数字に意味があるらしい。
素戔嗚神社で「階段雛飾り」が始まったのは2014年からだが、当初は段数が少なく徐々に増やして117段までになった。
町はこれで「日本一!」と思ったようだが、思わぬライバルが出現する。
そこで「負けてなるものか!」と一段増やし、現在は「日本タイ記録」ホルダーとして、この両者が頑張っているわけだ。
どうやら真相はそのあたりにあるらしい。
つまり「神社」と「階段雛飾り」に関連性はなく、まさに「インスタ映え」を狙った今どきらしいイベントだった(笑)。
「素戔嗚神社の雛段飾り」 夜や雨の日はどうしてるの?
さて。野外に飾る以上、突然雨が降ることも強風が吹くこともあるはずだが、その素朴な疑問の答えは、実に分かりやすい場所に置いてあった(笑)。
よく聞かれるからなのだろうが、本当にご苦労様だと思う。
と同時に、このイベントは今後末永く続くのだろうか? 老婆心ながら、そう危惧せざるをえない。
現在は地元の人たちが当番制で毎日準備と片づけをしてくれているというが、その主な役割を果たしているのは「ご隠居様」たちであろう。
しかし見るからに、階段雛の出し入れは、シルバー世代にはけっこうきつい仕事のように思える。
期間限定とはいえ、本当に奉仕で継続していけるのだろうか。
そう思う背景には、このイベントを維持するべき「理由の希薄さ」がある。
稲取の「吊るし雛」は、一種の伝統行事・伝統工芸で「文化継承」という大義名分がはっきりしている。
その意味では、もはや単なる観光資源というレベルではあるまい。
それを如実に物語っているのが、まつりのメイン会場となる「文化公園雛の館」の展示だ。
冒頭で、「雛の館むかい庵」ではなく、近くにある「文化公園雛の館」の見学を勧めると書いたのは、展示内容が遥かに充実しているからに他ならない。
同じ300円なら、やはり本館を見るほうがいい。
2022年更新
こう書いた以上、いったい素戔嗚神社では毎日どうやって「階段雛飾り」を並べているのか… それを探りに4年ぶりに現地を訪ねた。
まず驚いたのは、主体になって頑張っているのは中年と若手だったこと。町内の人だけでなく、たぶん今は役場からも応援が出ているようだ。
そしてよく見ると、雛人形は「セット」化されており、1段に1セットづつ置いていく仕掛けになっていた。
なるほど、これなら作業は1/5くらいに軽減される。考えましたな~(笑)。
さすがに雨天時は中止するそうだが、それでもこれを約1ヶ月間にわたり、1日に2度やるというのは、想像するだけで大変だ。
その努力の結晶がこの景観。
オリンピックや大河ドラマもそうだが、やはり舞台裏を知ることで得られる感動は大きい。陳列は9時過ぎから始まるようなので、興味があればぜひ。
見たら、稲取でちょっとはお金を落としていこうという気になれる(笑)。
更新情報 ここまで
「素戔嗚神社の雛段飾り」 ルーツは徳島県の「ビッグひな祭り」
さて。
筆者が調べた限り、雛段飾りのはじまりは1989年に徳島県勝浦郡勝浦町で開催された、「ビッグひな祭り」にあるようだ。
さらに全国勝浦ネットワークの縁で、2001年に千葉県勝浦市が徳島県勝浦町から、およそ7000体のひな人形を里子として譲り受け、同じく「かつうらビッグひな祭り」がスタートした。
さらに2012年には和歌山県東牟婁郡那智勝浦町にて、南紀勝浦ひなめぐりが始まるなど、徐々にその輪は広がっている。
「素戔嗚神社の雛段飾り」 今後の存在価値は?
一般家庭の雛段飾りは、7段が最大級。
この画像を見ていただければわかるように、本来人形が並ぶのは5段までだが、7が縁起が良い数字との理由から、下2段には料理が並ぶようになったという。
わが家にもあるが、狭い団地ではそれを出すだけで6畳の間が半分近く占拠される。しかも娘が嫁入りに持参するかといえば「No」。
孫娘が生まれても、「雛祭りは実家でするからね」ときたもんだ(笑)。
仮に自宅にあったとしても、現代の共働き世帯が、休日に雛人形を出したり片づけたりする時間は惜しいに違いない。
それなら、こういったイベントで壮観な様子を眺めるほうがいいのは当然だ。
筆者夫婦がこの世から去れば、遺品整理の対象となるに違いないこの雛人形だが、娘が持っていかないのなら、お炊き上げではなく、こういったイベントに寄付するほうがいいと筆者だって思う。
各地で何万何千と云う数の雛人形が集まる理由は、たぶんそのあたりにあるのだろう。それが町おこしに役立つとなればなおさらのこと。
なかなかうまいところに目を付けたものだと感心した(笑)。
PS
幸いなことに、うちの娘は家を買った時に「ひな人形」を引き取ってくれた。彼女にも娘がいるので、うちの雛人形たちはもう一世代無事でいられる。
めでたしめでたし(笑)。
もっとも、世の中には「ひな人形は引き継いではならない」という言い伝えもあるようだ。ただ少なくても筆者はこう思う。
確かにヤマタノオロチを退治した素戔嗚命には、それが転じて「厄除け」のご利益があるとされている。
なるほど、であれば「素盞嗚神社」の「雛人形」たちはみな、「お祓い」を受けているから大丈夫という美談が成り立つわけで、「雛の段飾り」をするうえで、稲取の素盞嗚神社には、ライバルの伊東温泉にある佛現寺が太刀打ちできない「大義名分」があるといえる。
筆者なら、ここを強く訴求するけどね(笑)。
ただ…
ちょっと日本の神様のことを勉強すれば、「古事記と日本書紀は矛盾の巣窟」であることに気がつくわけで、筆者はこの手の話を、江戸時代に寺社仏閣と人形屋が結託して作った「銭儲けの話」だとしか思っていない。
そう、平賀源内の「土用丑の日」となんら変わりはしないわけだ(笑)。
興味があれば、こちらもぜひ。