この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。

下田を彩る「日米和親条約」と「日米通商条約」
下田が「日本開国の舞台」と呼ばれる所以【目次】
ペリー艦隊が日本にやってきた本当の理由
1854年(嘉永7年)4月に、アメリカの黒船艦隊率いるペリー提督が、この地に上陸したことから、下田は「日本開国の舞台」とよく云われる。
だが、その「真意」をご存知だろうか?
残念なことに、下田を紹介している観光ガイドの多くは、その「真意」に触れることができていない。
それどころか、「日本開国の舞台」という書き方では、了仙寺で締結された「下田条約」と「日米和親条約」を混同する人が出るのは当然だ。
文字数に制約のある書籍や雑誌はともかく、ウェブはもう少し掘り下げないと、下田の上っ面を舐めたことにしかならない。
日米和親条約
「日米和親条約」は、下田にペリーが上陸するひと月前に締結され、幕府はその中で「下田」と「箱館(現在の函館)」の開港を約束している。
ゆえにペリー艦隊はスムーズに下田に入港できたわけだが、「日米和親条約」の協議が行われたのは、現在の神奈川県横浜市にある「横浜開港資料館」が建つ場所だ。
ここに幕府が応接所を設置し、約1ヶ月にわたる協議の末、全12箇条からなる日米和親条約が締結された。
その経緯から、「日米和親条約」は「神奈川条約」と呼ばれることもある。
ついでに書くと、ペリー艦隊が日本に来たのはこの時が2度目。
1年前に浦賀に現われ、久里浜に上陸してフィルモア大統領の親書を渡し、開国・通商を迫ったが、幕府側が1年の猶予を求めたため、素直に退散した。
しかし香港で12代将軍家慶(いえよし)の死を知ったペリーは、機会到来と判断し、わずか半年後に再び来航。
そして今度は、首尾よく江戸湾への入港に成功した。
つまり過去の経緯からすると、下田はペリー艦隊が上陸した「3番目の港」だ。
ただ、正式な条約締結後の上陸ということで、幕府側との最初の会見日には祝砲を響かせ、軍楽隊の高らかな演奏とともに、この「ペリーロード」を行進し、了仙寺へ乗り込んだ。
ちなみに世の中では、この事件から明治維新までを「幕末」と呼んでいる。
吉田松陰、下田に現る。
実は日本にも、ペリーの下田上陸を待ち望んでいる男がいた。
長州藩士の「吉田松陰」は、大胆不敵にも、共の金子重輔とともに岸から小舟で黒船に乗り込み、アメリカまでの密航を直談判する。
しかし、ふたりの願いは聞き入れられず、下船後自ら幕府に身柄を委ねた。
その後、吉田松陰は30歳でこの世を去るまで、身柄を拘束されながらも、松下村塾を通して、後の明治維新で重要な働きをする多くの若者たちに、思想的影響を与えていくことになるのだが、その話は以下の記事にまとめている。
下田条約の功と罪
さて。実は横浜で締結された日米和親条約では、細かい点がほとんど決められていなかった。
下田ではその細部を詰めるための交渉が行われ、十日間にわたる協議の結果、下田条約(全13箇条)が締結された。
大事なのはここからだ。
下田条約では、「遊歩権」と呼ばれるアメリカ人が下田の町中を自由に歩く権利が与えられ、やがて船員と下田の町民たちは「異文化交流」を通じて、互いの国への理解を深めあうことになる。
下田が「日本開国の舞台」と呼ばれる理由のひとつはそれだ。
写真の「欠乏所跡」は、入港してくる外国船に、薪・水・食料・石炭などを供給していた場所で、貝細工や瀬戸物、反物なども売られていたという。
しかもそれらは、国内よりもずっと高値なうえに、日米通貨の交換比率は、米貨のほうが安く評価されていた。
しかし4年後、日本はその下田に駐在していたハリスから「高いしっぺ返し」を喰らうことになる。
それが悪名高き不平等条約として、明治維新以降も長年にわたって苦しまされる「日米修好通商条約」だ。
豪腕ハリスの圧力に屈したのは、大老になったばかりの井伊直弼だった。
だが、天皇の許しを待たずに調印したことにより、尊王攘夷派の批判を受け、権力を背景に「安政の大獄」を強行する。
しかしその弾圧が尊王攘夷派の怒りを暴発させ、ご存知のように「桜田門外の変」で暗殺される。
こうして一連の歴史の流れを見てみると、「下田」がまるで「起爆剤」のように、幕末の日本に絡んでいるのがよくわかる。
「日本開国の舞台」と呼ばれる2つめの理由は、「倒幕に直結する出来事の発端が生じた場所」であること。
「開国」とは単なる「貿易港の開放」ではなく、幕藩体制の瓦解、つまり「明治維新」を意味している。
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