「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
現在は営業しているが、保存修理工事中。
道後温泉は日本書紀にも登場するわが国最古級の温泉で、白浜、有馬と並ぶ日本三古湯と呼ばれている。
その道後温泉の「象徴」とされる本館は、温泉街の中心にある共同浴場で、戦前に建築された歴史ある近代和風建築として、1994年に国の重要文化財に指定されている。
共同浴場番付では、東の湯田中温泉大湯と並ぶ西の横綱に番付けされているほか、2009年3月に選定された「ミシュランガイド・観光地日本編」においても、3つ星を獲得している。
最新の工事情報 2019年2月
道後温泉本館は2019年1月15日から、大規模な保存修理工事に着手している。工期は約7年の予定で、その間も閉館はせず、一部営業しながら工事を進めるとのこと。
写真は2019年2月の九州取材時に立ち寄った際に撮影したもの。この時点で正面玄関は閉鎖され、北側の入口から出入りするようになっていた。
取材時はまだ工事が始まったばかりだったが、本館にあわせて、周辺のホテルも改修を進めるところがあるようだ。工事の進捗状況は、こちらのホームページで確認できる。
なお、この記事は改修工事以前に執筆したもので、改修工事中、さらに工事終了後に内容が合致するかどうかはわからない。それを承知の上で「昭和~平成の道後温泉本館記録」として、この記事をインターネット上に残すことにしている。
道後温泉 入湯パーフェクトガイド
お勧めは、「霊(たま)の湯」
「道後温泉本館」は大きな建物なので、入口に料金の支払い窓口がある。何も知らずに行くと「なんで、こんなに料金がいっぱいあるんだ?」となるわけだが、本館には大きく2通りの入湯方法がある。
「神の湯」の入湯だけなら400円と格安だが、筆者のお勧めは1200円の「霊の湯二階席」だ。
同伴者がいれば、個室の休憩室が使える1500円の「三階席」のほうがいいかもしれない。車中泊だし、ここまで来たらちょっと奮発して、ささやかな贅沢を楽しもう(笑)。
「神の湯」は、銭湯感覚の気軽さで大盛況
道後温泉本館の構造は、一階に「神の湯」と「霊の湯」、二階に「大広間の休憩所」と「又新殿」、そして三階に「個室の休憩所」と「ぼっちゃんの間」がある。
こちらが「神の湯」の男湯。露天風呂はなく、イメージは銭湯に近い。もちろん石鹸・シャンプーは置いていない。
お湯は無色でほんのり香りがし、舐めると多少塩分を感じる。
源泉かけ流しだが、塩素系の消毒剤が使用されているようだ。多い時は1日に3000人ともいわれる数が入湯するだけに、それはいたしかたのない話だろう。
なお男湯の「神の湯」の浴室は、西と東の2つがあり、東の男湯には源泉が引かれていた跡が残されている。
こちらは「神の湯」の女湯。道後温泉本館は男女交代制ではなく、残念ながら東西2つの浴室があるのは男湯のみ。
こちらの壁には、道後温泉に伝わる「白鷺伝説」と「玉の石の神話」が砥部焼陶板で描かれている。
「霊の湯」の魅力は、温泉館らしいサービス
「霊の湯のコース」は、まず休憩室に案内され、用意された浴衣に着替えて「霊の湯」に入ることになる。
こちらが三階の個室。二階の大広間とひとり300円しか変わらないので、湯上がりに寝転びたい人には、断然こちらがのほうがいい(笑)。
なお、希望するなら無料で「神の湯」に入ることも可能だ。それからお茶とお菓子が出され、又新殿(ゆうしんでん)のガイドを受ける。
「神の湯」に比べると、「霊の湯」はこじんまりしていて落ち着ける。
道後温泉本館には、「又新殿(ゆうしんでん)」と呼ばれる日本で唯一の皇室専用浴室があり、有料で御影石の最高級品、庵治石を使った浴槽の他、控え室、トイレ等の見学ができる。
「霊の湯」はそれがセットになっているのも、お勧めしている理由のひとつだ。
ちなみに、又新殿にはこれまでに10人の皇族が入浴しているそうだが、本館の老朽化もあり、ここ50年ほどは使用されていないという。
「坊っちゃん」と「千と千尋の神隠し」
道後温泉本館は、地元では「坊ちゃん湯」の名で親しまれている。
夏目漱石が松山中学の英語教師として赴任したのは、本館が完成した翌年。小説では「住田の温泉」として描かれているが、漱石がその建築に感嘆し、東京に比べても「温泉だけは立派だ」と絶賛した話はあまりにも有名だ。
その名残として、三階には漱石ゆかりの資料が置かれた「坊ちゃんの間」が残され、一階の「神の湯」男湯浴室内では、主人公が湯船で泳いで注意の張り紙をされたことにちなんだ、「坊っちゃん泳ぐべからず」の札を今でも見ることができる。
また一階の廊下には、映画で放映された各俳優たちの記録が展示されている。なお「坊っちゃんの間」とこのパネルは、入館すれば誰でも見ることができる。
また、道後温泉本館は宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」に登場する「油屋」のモデルの1つである。
油屋は木造による重層構造の共同湯として描かれており、実際に製作スタッフが道後温泉に逗留し、近代和風建築である本館のスケッチを行った記録もあるそうだ。
スタジオ・ジブリ側は道後温泉本館がモデルであるとは明言していないものの、「大いに参考にした場所」として紹介している(笑)。
駐車場は向かいの山の上にある。
最後は駐車場についてだが、道後温泉本館の向かいにある冠山の頂上部に市営駐車場が用意されている。市内から来ると、駐車場の入口ゲートがカーブを曲がってスグのところにあるので、注意していないと通り越してしまう。
PS 道後温泉本館の解説のお勧めサイト
長らく当サイトにお付き合いいただいたオマケとして、道後温泉本館にまつわる様々な逸話をコラム形式でわかりやすく紹介しているサイトを紹介しておこう。
見やすく、読んで楽しい観光ガイドの手本のようだ。
道後温泉本館
愛媛県松山市道後湯之町5-6 ☎ 089-921-5141
【入浴料】
神の湯・階下:大人400円
神の湯・2階席:大人800円
霊の湯・2階席:大人1200円
霊の湯・3階個室:大人1500円
又新殿観覧料:大人250円
営業時間:6:00~22:30(閉館23:00)・無休