「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
2つの源泉「鶴の湯」と「塩浸の湯」を引く湯治場
坂本龍馬ゆかりの湯治場
1866年(慶応2年)の3月(新暦5月)に、京都にいた坂本龍馬が妻のお龍とともに霧島を訪れ、塩浸温泉で都合18泊に及ぶ湯治を行ったという話は、龍馬フリークでなくても、大河ドラマ「龍馬伝」を見ていた人には周知の話だと思う。
そうなった経緯は添付の記事で詳しく触れているが、確かにここには、1806年(文化3年)頃に発見された「切り傷に効能がある」と評判の温泉が湧いており、「鶴の湯」と呼ばれていた。
少し余談になるが、霧島市は2008年に放送された「篤姫」で、大河ドラマがどれだけ観光客を呼べるコンテンツであるかを、よく学習したようだ(笑)。
「龍馬伝」の放送が決まると、老朽化していた「塩浸温泉福祉の里」の温泉施設を前年の3月末に閉鎖し、新たな入浴施設と公園、さらには坂本龍馬に関する歴史資料館を急ピッチで整備。
そして2010年(平成22年)5月1日には、「塩浸温泉龍馬公園」として装い新たにオープンしている。
筆者がこの地を初めて訪ねたのは、その翌日のことだった。
「鶴の湯」と「塩浸の湯」
次に、真新しくなった温泉館を紹介しよう。
浴場は内風呂のみで露天はなく、「龍馬の湯」「お龍の湯」ともに2つの源泉が引かれている。
温泉の生い立ちと成り行きからして、注目はもちろん「鶴の湯」だ。
小さい方の湯船に注がれている「鶴の湯」は、鉄分を含む炭酸水素塩泉で、明らかに茶色がかっている。
それは「信玄の隠し湯」と呼ばれる下諏訪の「毒沢鉱泉」、あるいは竹田勝頼が、長篠の合戦後に真田昌幸に命じて整備させた「伊香保温泉」の湯を彷彿させるものだった。
両者はいずれも戦傷を癒す場で、西郷どんが龍馬にこの湯を勧めたのは、もっともな話だと確信した。
いっぽうの大きい湯船に注がれているのが「塩浸の湯」。
浴室に張られた説明によると、岩に白い塩のようなものが付くことからそう呼ばれるようになったそうだが、色の違いが分かりやすいよう、写真には同じお湯が使われている足湯の写真を用いている。
さらにこのお湯は、当時龍馬が使ったと伝わる河原の浴場にも注がれている。
ここで疑問が浮かんだ。
さて、龍馬はどっちのお湯で湯治をしたのだ?
答えは「分からない」(笑)。
どの資料も核心部分については曖昧で、決め手と思える情報を見つけることはできなかった。
ただ常識からすれば、名湯「鶴の湯」で湯治をしたと考えるのが本筋だろう。となると、龍馬風呂には茶色のお湯が入ってなければ、つじつまが合わないことになる。
考えられるのは、当時はここに「鶴の湯」が引かれていたか、龍馬が湯治をしたのは別の浴場だったか、もしくはいつの間にか「鶴の湯」と「塩浸の湯」が混同してしまったという3つのうちのどれかだと思うが、歴史家が断定できないものを、素人が詮索しても仕方がないので次に進むが、この話にはどうも釈然としないところがある(笑)。
2016年 追記
2010年に「塩浸の湯」が注がれていた「河原の浴場」の様子が変わっていた。表示はともかくとして、お湯の色が違うようだ。
もしかしたら「鶴の湯」に変わっているとか…
もしそうだとしたら、絶対誰かに指摘されたのだと思う(笑)。
塩浸温泉龍馬公園
今度は公園の話をしたい。
まずこの「坂本龍馬・お龍新婚湯治の碑」は、2010年のリニューアル以前からここにあった。
建てられたのは1989年(平成元年)11月23日。実はその翌年に、西郷隆盛の生涯を描いた大河ドラマ、「飛ぶが如く」が放送されている。
原作は司馬遼太郎、西郷どん役に西田敏行、大久保利通役が鹿賀丈史。ちなみに、このふたりは「西郷どん」にもナレーターと島津斉興役で出演している。
ただ、またしても龍馬の顔が釈然としない(笑)。
坂本龍馬と云えば、この顔ぜよ! そう云いたいのは筆者だけではないだろう。
龍馬はここでの湯治中に、近くの犬飼滝や和気神社にも足を運んでいるのだが、当時は比較的平坦な川沿いに設けられた現在の国道223号がなく、ふたりは山越えで往復していた。
龍馬とお龍が歩いた、当時のままの石段が公園の裏手に残る。
時間があれば、ふたりにならって108段を登ってみるといい。ただ、筆者は現代人らしくクルマを使った(笑)。
歴史資料館「この世の外」
「変な名前!」と思うのが普通だが、実は龍馬フリークにだけその意味が分かるという「謎かけ」が仕組まれている。
「筆まめ」で知られる坂本龍馬の書簡は、現在139通が確認されているというが、中でも多いのは姉の乙女に宛てたものだ。
その中の霧島旅行中に送った手紙に、「げに、この世の外かと思われるほどのめずらしきところなり」という一節がある。
資料館の名はそこに由来するわけだが、観光客には「どーでもいいですよ~」という話だね(笑)。
ただし、資料館にはちょっと嬉しくなる展示があった。
それはあの有名なフレーズ「今一度日本をせんたくいたし申し候」が記された手紙のレプリカである。
先ほどの手紙と同様、姉の乙女に送られた手紙だが、ここ以外では高知の坂本龍馬記念館でしか見たことがない。ちなみに原本は、ともに京都国立博物館に所蔵されている。
駐車場とアクセス
最後に駐車場を紹介しておこう。
ごらんの通り、第1駐車場は国道223号沿いにあるが、10台程度と小さいうえに奥行きが浅く、通行量の多い時間は気を使う。
なお、大きなキャンピングカーは、牧園1区公民館前にある第2駐車場(15台程度)が利用できる。
塩浸温泉龍馬公園
〒899-6507鹿児島県霧島市牧園町宿窪田3606
☎0995-76-0007
営業時間:9時から18時(月曜日は17時まで)
入浴料金:360円