「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。
「九重”夢”温泉郷」は、これぞ「クルマ旅ならでは」といえる温泉めぐりが味わえる場所
「九重”夢”温泉郷」のあらまし
「九重”夢”温泉郷」は、大分県の九重町に点在する温泉地の総称で、かつては「九重九湯(ここのえきゅうとう)」の名で親しまれていた。
「九重”夢”温泉郷」にある個々の温泉の歴史は古いが、どこも規模が小さく、交通の便にも恵まれなかったため、長きにわたり利用客はハイカーや登山客がメインだったという。
しかし「九重”夢”大吊橋」の完成で、状況に変化が生じた。
2007年10月、九重町観光協会はPRを見直し、上記のマップに記載された温泉の新しい統一名称を公募。
その中から、町を代表する名所となった大吊橋と同じ「夢」という文字を含む、「九重“夢”温泉郷」に決定した。
しかし、前述した物理的な問題は解消されず、「重“夢”温泉郷」は今でも「九重九湯」の時代とほとんど変わっていない。
「九重”夢”温泉郷」の実情
さて。筆者は上のマップに記された12の温泉地のすべてに足を運んでみたが、「温泉郷」と呼ぶには、一体感というか連帯感のようなものは希薄で、正直なところ「九重“夢”温泉郷」という名前だけが先走っている感じだ。
理由は、各温泉館の姿勢にもあるのだろう。
「温泉さえ良ければ、お客は来てくれる」。
それで本当に「湯守」が務まるのならかまわないが、そうはいかないから名宿はPRにお金をかけている。
つまり、しっかりしたホームページも作って、熱心にPRしている側の立場からすれば、そういうことに力を入れる気が感じられない施設と「足並みを揃えてやろうと云われてもねぇ」… という気になるのは当然だ。
だが、それは我々にはどうすることもできない話。
ゆえに「九重“夢”温泉郷」という「くくり」を気にせず、「やまなみハイウェイ付近にある個性的な温泉」を、好きにまわるというスタンスのほうがスッキリする。
そこで、泉質の良さが感じられるところを赤、ロケーションのいいところを緑で区分けし、お勧めのところは別途詳細ページを用意してみた。
1.「九重”夢”温泉郷」 龍門温泉
ランドマークは2段で流れる「龍門の滝」。その近くに設備の好対照な2つの温泉館がある。キャンプができるなら、ここはけっこう楽しいかも。
2.「九重”夢”温泉郷」 水分温泉
「水分温泉」は国道210号沿いの水分(みずわけ)峠にある一軒宿「民宿水分」のことで、現在、水分温泉に入湯できる唯一の温泉施設になる。入浴料金は300円。お湯は無色透明の単純硫黄泉で、pH3.1の酸性湯。
ここには珍しいペットのお風呂がある。日帰り料金は1匹500円で、形状は写真の浅いプール。入浴料が人間より高いのにはちょっとビックリ!(笑)。
3.「九重”夢”温泉郷」 壁湯温泉
壁湯温泉とは、300年以上前から自噴しているこの「洞窟温泉」のこと。それを湯守りしているのが、「日本秘湯を守る会」に名を連ねる旅館福元屋だ。
4.「九重”夢”温泉郷」 川底温泉
菅原道真公ゆかりの温泉と伝えられる古湯。無味無臭の澄み切った温泉は、滑らかな質感で心地良い。なお、近くにはもう一軒「せせらぎ温泉」がある。
5.「九重”夢”温泉郷」 宝泉寺温泉
「九重九湯」と呼ばれた頃からの主力温泉地で、泉源は70ヵ所以上、やわらかい泉質が特徴だ。温泉宿や共同浴場はすべて源泉かけ流しで、写真の石櫃をそのまま湯船にした薬師湯・岩露天風呂が特に有名。
筆者が入湯したのは「季の郷山の湯」。洞窟風呂・岩風呂・うたせ湯など、寛ぎの趣向を凝らした複数の湯殿が楽しめる。
【営業時間】13:00〜21:00 不定休
【料金】 おとな500円
【泉質】 弱アルカリ単純泉
【問い合わせ】0973-78-8111
6.「九重”夢”温泉郷」 九酔渓温泉
紅葉で有名な九酔渓(きゅうすいけい)にあり、「九重”夢”大吊橋」からもっとも近い温泉地。橋の見学ついでに立ち寄るにはいいと思う。
温泉に入れるのは、一軒宿ながら、旅館、離れ、ロッジなどの様々なタイプの宿泊施設に加えて食事処がある「渓谷の宿 二匹の鬼」と、大浴場のほかに趣向が異なる6つの貸切風呂を持つ「ホタルと絶景の宿 つれづれ」だ。
7.「九重”夢”温泉郷」 筌の口温泉(うけのくちおんせん)
筌の口温泉といえば、黄土色の炭酸泉が注がれた共同浴場で有名だが、実は長湯温泉や七里田温泉を凌ぐ泡付きの天然炭酸泉が湧く、小さな温泉館がある。
筌の口温泉 共同浴場
平成6年に改築された小奇麗な共同浴場。まさに温泉!といわんばかりの造りで、浴槽が中央にドンと居座っている(笑)。
浴槽には折出物がこびりついており、温泉成分の濃さはひと目でわかるが、鉄分を多く含むお湯は、薬のような独特の匂いがした。炭酸泉と聞いたが、湯温が高いせいか、泡付きはほとんどない。
シャワーはもちろん、脱衣所にドライヤーもないので、髪を洗うのには適さない。この手の温泉に慣れていない女性は、隣接する新清館(日帰り入浴500円)か、下の「馬子草温泉きづな」に行くほうがいいだろう。
【料金】 おとな200円
【営業時間】00:00~24:00 ※水曜日21:00~22:00、土曜日5:00~8:00は清掃のため利用不可 不定休
【泉質】 ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉 ※pH6.6
【問い合わせ】0974-79-2381(くじゅう飯田高原観光案内所)
8.「九重”夢”温泉郷」 馬子草温泉
馬子草温泉(まごそおんせん)には2軒の宿があるが、日帰り入浴ができるのは「きづな」のみ。開設当初は企業の保養施設だったらしいが、現在は一般の人も利用できる。
「きづな」のお湯は黄色の土類重曹泉で、泉質は先に入湯した筌の口温泉と似ているとのことで、入湯はしなかった。
だがこちらには露天風呂があって、景観は圧倒的にいい。しまった!(笑)。だからホームページくらいはちゃんと用意をしていただきたい。
【営業時間】9:00~21:00(受付終了)
【料金】 入浴料 500円
【泉質】 炭酸水素塩泉 ※pH値は未確認
【問い合わせ】0973-73-3517
9.「九重”夢”温泉郷」 湯坪温泉
湯坪温泉が注目されるようになったのは、昭和50年代に地元の農家が民宿を始めたことがきっかけと云われ、現在では20軒近くが「湯坪民宿村」を形成し、手頃な宿泊料金と、新鮮な野菜や山菜料理が人気を集めている。
10.「九重”夢”温泉郷」 筋湯温泉
阿蘇くじゅう国立公園内にある、標高約1000メートルの湧蓋山(わいたざん)の山麓にある温泉地で、約30軒の旅館ホテルが存在する。ちなみに山の反対斜面は熊本県の「わいた温泉郷」だ。
筋湯温泉では「日本一の打たせ湯」を謳っており、とりわけ有名なのが、こちらの共同温泉「うたせ大浴場」。
ただし音と飛沫がきつく、落ち着いて入浴できる感じではなかった。
筆者が気に入ったのは、静かな露天の岩ん湯。ここには4軒の共同浴場がある。
11.「九重”夢”温泉郷」 九重山・長者原温泉
写真の「九重星生ホテル 山恵の湯」は、「やまなみハイウェイ」の人気スポット・長者原にあるリゾート系の日帰り温泉施設で、「九重”夢”温泉郷」の中では異色の存在といえる。
12.「九重”夢”温泉郷」 寒の地獄温泉
長者原にある「寒の地獄温泉」は、江戸末期の1849年(嘉永2年)に開湯した秘湯を守り続ける、昭和3年創業の老舗温泉旅館のこと。現在の建物は2002年にリニューアルされている。
名物は別棟にある14℃の冷鉱泉で、入湯できるのは7、8、9月の夏場のみ。そのため秋からGWに九州を周る筆者は、未だ入湯できていない。
入浴料:500円
営業時間:10:00~13:00 水曜定休
駐車場:30台
なお2018年からオフシーズンは、足湯での入湯が可能になっているようだ。足湯の営業時間は10時~15時まで。