「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、20年以上かけて味わってきた全国のソウルフード&ドリンクを、そのレシピと老舗・行列店を交えてご紹介。
吾亦紅は、「蕎麦屋」らしく「一本筋が通った」名店。
小国郷には、「そば街道」と呼ばれる通りがある。
都会に住む我々にすれば、この手の「ストリート」は、往々にして先にディベロッパーが「そば街道という通り」を整備し、そこに店を誘致するのが定石だが、どうやらここでは違うようだ。
「吾亦紅(われもこう)」のオフィシャルサイトには、以下のような説明がある。
阿蘇山系からの湧水と、自然溢れる環境が蕎麦づくりに最適だったことから、10年前から点々とお店が出来、そば街道が誕生しました。
何事においても小理屈から入りたい「中高年の親父」にとって、このアプローチは実に愉快な気分にしてくれるものだった(笑)。
よし、今日のランチはこの店で決まり!
君、単純と云うなかれ。吾亦紅は、そば街道屈指の行列店だった。
これは吾亦紅の「裏口」なのだが、「そば街道」に面した「表玄関」よりも、こっちのほうが断然雰囲気はいい。
中央に囲炉裏を配した店内は、蕎麦屋によくある「ありふれた和風の内装」ではなく、テーブル席を中心にしたモダンな「田舎づくり」で、BGMもなく、静かで落ち着ける空間を演出している。
我々がオーダーしたのは、こちらのセット。筆者はメニューと同じ「冷」を、家内は「温のとろろそば」を注文した。
本音を云うと、この日は寒く、筆者も「温」を頼みたかったのだが、食べたいものを食べていたのでは仕事にならない。
プロは、その店で食べるべきメニューを賞味してナンボのもの。妥協は許されない(笑)。
ちなみに筆者は、北海道なら幌加内・新得、東北は岩手の盛岡、山形の尾花沢、そして信州全域、さらに伊豆では修善寺、近畿では出石、そして島根の出雲にいたる、それなりに名のある店の蕎麦を、10年以上かけてひと通りは食している。
吾亦紅のそばは、思った以上に歯ごたえがあった。
それをコシとも呼ぶが、コシはブツブツ切れない程度にあればいいわけで、噛み切るのに力が要るとなると、もはや歯ごたえの域になる。
筆者のように入れ歯のある中高年は、そうなるとこの量を食べるのは億劫だ。
ただ… これには理由があるのかもしれない。
讃岐のうどんもそうだが、「冷」では固すぎてうまいとは思えない麺が、温になるとちょうどいいコシになって、どんどんいけるようになる…
家内の「温」そばが、まさにそうだった。
前述したようにこの日は寒く、もし「温」がよく出ることを見越して、そばを打っていたとしたら、そりゃ~もう「手打ち」にしてやりたいほど、憎らしい配慮と褒めるしかない(笑)。
なんてことを思いつつ、
頑張って全部食べ終わったところにでてきたのが、この葛切りだ。
「吾亦紅」自慢の一品だが、これまた歯ごたえのいいこと(笑)。
家内はおいしい美味しいと喜んでいたので、「温そば」との相性は抜群だったようだが、こっちは一生懸命アゴを動かしすぎて、味わう余裕はなかった。
それより筆者の印象に残ったのは「そばがゆ」。他ではあまりセットメニューを頼まないからかもしれないが、初めて食べた感想は、仄かな苦味に、ほどよくダシの効いた上品な味わいで、なんとも清々しかった。
総括すると、量としては十分で、観光地であることを加味すれば1850円は納得の代金だと思う。ただし繰り返しになるが、冬場は、ここでは「温」そばがいいことをお忘れなく!
さて、最後に見逃せないのが駐車場だ。
常にクルマで動くことが多いうえに、大型のキャンピングカーユーザーがたくさんいる車中泊の旅人にとって、広くて平面の駐車場の有無は、時によっては「味」よりも優先したい場合がある。
「吾亦紅」は、駐車場にも及第点があげられる。