この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
歴史に満ちた、薩摩半島の底辺を横断する。
この写真は指宿と枕崎を結ぶ国道226号で撮影したもの。
開聞岳をバックにインスタ映えする写真が撮れる場所は、「瀬平自然公園」あたりになる。
ただ「瀬平自然公園」からの景観はたいしたものではなく、ここは車窓からの景色がメイン。指宿方面から来る場合は少々面倒だが、一度Uターンして見るだけの価値はあると思う。
番所鼻自然公園
江戸時代に薩摩藩の番所があったことから、その名がついた番所鼻自然公園には、日本地図作成のために立ち寄った伊能忠敬が、「天下の絶景なり」と賞賛した逸話が残る。
伊能忠敬が番所鼻を測量で訪れたのは1810年、66歳の時というから驚く。
忠敬の全国測量は隠居後の55歳から始まり71歳まで続けられたが、地図の完成を見ることなく、73歳でその生涯を閉じた。
伊能忠敬については、つい先日NHKの「英雄たちの選択」で紹介されたばかりだが、その素晴らしい生き様は、いつか機会があれば紹介したい。
タツノオトシゴハウス
番所鼻の海域にはタツノオトシゴが生息しており、公園の一画には日本で唯一のタツノオトシゴ観光養殖場がある。
このCMに覚えがある人もいるのでは? 写真をクリックすると、Youtubeから消されないかぎりCFも見られる(笑)。
釜蓋神社
スサノオノミコトを祀る釜蓋神社(かまふたじんじゃ)の正式名は、射楯兵主神社(いたてつわものじんじゃ)で、置いてある釜の蓋を頭にのせ、鳥居から拝殿まで落とさずに歩くことができれば、願いが叶うとされる。
写真は筆者。芸能人やスポーツ選手も訪れるというので、試しにやってみたら、なんと1回でできてしまった(笑)。
チャレンジは無料。回数制限無しなので、お時間があればどうぞ。
枕崎
指宿の市街地から枕崎までは、約40キロ・1時間ほど。
ここまで紹介してきた観光スポットに立ち寄りながら来ても、ランチタイムには到着できる。そこでグルメの話から始めよう。
枕崎と云えば「鰹(かつお)」。
ただし有名なのは「タタキ」より、江戸時代から作られてきた、伝統加工食品の「鰹節」のほうだ。
傷むのが早い鰹は、冷凍技術が進むまで、近海で捕れたものしか生で食べることができず、「地産地消」するしかなかった。
しかも枕崎は遠洋漁業が中心の町である。
生の鰹の典型とされる食べ方に「タタキ(藁焼き)」がある。
だがそれは、漁場が近く近海漁業が主流の、土佐の「おはこ」としてテレビで紹介され、一躍有名になった。
そこで枕崎の漁師たちは、大型船内での冷凍に賭ける。
そして試行錯誤の末に、「ぶえん鰹」を編み出した。
昔から枕崎では、塩をしていない新鮮な魚を「ぶえん(無塩)」と呼んでいた。
その「ぶえん」鰹を食べさせてくれる店があるというので訪ねてきた。
暖簾をくぐったのは、枕崎駅前にある味処「一福」。
特産の鰹をメインに、刺身や煮物、塩焼きなど、素材の持ち味を生かした料理が食べられる地元の人気店だ。
家内は手堅く、鰹のタタキ定食を注文。
見た目から、鮮やかな赤身の色と弾力のある食感は伝わると思うが、切り身には鮮度の良いカツオが持つ、ほんのり甘い脂の味がしっかり残されていた。
まさに「ぶえん」、生臭さとは「むえん」だ(笑)。
いっぽう筆者は、「枕崎鰹船人めし」なるものに興味が湧いた。
「枕崎鰹船人めし」は「枕崎市通り会連合会」の登録商標で、「富士宮やきそば」と同じくレシピに決まりがある。
1. 枕崎産鰹節と昆布の合わせ出汁を使用
2. トッピングにかつおの切り身(ぶえん鰹、生かつお)を使用
3. 枕崎産のかつお節をトッピングにも使用
近頃流行りの「新作ご当地グルメ」だが、なかなか手が込んでいて面白い。
温かいご飯のうえに、細切れのぶえん鰹のヅケ、細かな鰹節、さらに鰹せんべいがのせられ、それに枕崎特産の「本枯節」でとったダシをかける、まさに「鰹づくし」の丼めし。
最初はダシをかけずに、ヅケとご飯を薬味とともに少し食べてみたが、それでも十分においしい。ヅケにしてあるところが効いている。
さらにダシをかけると、そこに芳醇な香りが上乗せされて、いよいよ手が止まらなくなる。
ルーツは「漁師めし」ということだが、云ってみれば素材はどれも「端物」。肉で云うなら「ホルモン」だ。
つまり売り物にならない部分だけを使った「賄い」なので、金はかからず・旨いうえに・早く食えて・お茶さえ要らない。
いやはや、実に理にかなった料理じゃないか!こいつは1本取られたね(笑)。
その後、「白波」でお馴染みの薩摩酒造・明治蔵に立ち寄り、枕崎を後にした。
火之神公園
「火之神公園」は、枕崎市街地から4キロほど南下した岬の先端に広がる公園で、敷地の中に展望台・キャンプ場・プールなどの施設がある。
また眼の前に立つ高さ42メートルの立神岩の周辺は、絶好の磯釣りポイントになっており、休日は多くの太公望で賑わっている。
平和祈念展望台(戦艦大和殉難鎮魂之碑)
広い「火之神公園」の一画には、戦艦「大和」をはじめ、沖縄海上特別攻撃に向かった第二艦隊の「殉難鎮魂之碑」が立つ。
1945年4月1日に米軍が沖縄本島へ上陸したことを受け、旧海軍は戦艦「大和」を沖縄に突入させるべく、随伴艦9隻を含む海上特攻隊を出動させた。
しかし7日に、この動きを事前に察していた米軍から、鹿児島県沖の東シナ海で攻撃を受け、戦艦「大和」を筆頭に6隻が撃沈され、約7200の将兵のうち4000人あまりが戦死した。
日本が命運を賭けて建造した戦艦「大和」は、その真価を発揮する暇もなく海に散り、この展望台の沖合約200キロ・水深345メートルのところに今も眠っている。
なお、枕崎周辺には道の駅がなく、車中泊にはここの駐車場か「台場公園の第二駐車場」を利用する人が多いようだ。
坊津(ぼうのつ)
薩摩半島の西南端にあり、奈良時代に鑑真が上陸するなど、古くから海上交通
の要地として知られていた。
中世以降は、島津氏の中国・琉球貿易の根拠地となり、江戸時代後半には、薩摩藩の財政再建を支える密貿易港として栄えた。
丸木崎展望所
坊津と東シナ海が一望できる展望台。港を囲む入り組んだリアス式海岸の様子が伺える。ただ景観は噂ほどではなく、ここは歴史的価値を見聞するところだと思う。