この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、現地取材を元に「車中泊ならではの旅」という観点から作成しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
悪路を避けて、名物の沈下橋だけを選んで進む
沈下橋とは
「沈下橋」とは、河川行政用語でいう「潜水橋」が公式の名称で、文字通り川の増水時に水没することからそう呼ばれる。
じつは現在、日本全国には410ヶ所もの沈下橋が架かる場所があるという。
その中で1番多いのが高知県、さらに高知県下で、もっとも多く沈下橋が架けられているのが四万十川になる。
四万十川に沈下橋が多い理由は、川の氾濫よりも、高度経済成長期に流域の交通手段が水運から、陸路に変わったことと大きく関係している。
インフラ整備が急がれる中、橋脚が低く、欄干がなく、橋長も短い沈下橋は、建設費を低く抑えるための「切り札」だった。
四万十川には今も60余りの沈下橋が確認されているが、「四万十川沈下橋保存方針」の対象とされているのは、本流22、支流26の合計48橋のみになる。
四万十川の沈下橋をめぐるベストルート
建造物が好きで、48の沈下橋をすべてまわりたいという人を止めはしないが、これまで四万十川を6度訪ねている筆者には、何度めぐっても見分けがつかない沈下橋がほとんどだ(笑)。
ゆえにここでは、国道381号と441号でアクセスできる5つの橋をピックアップして紹介したい。
ただし順序は、四万十川の下流に架かる、国道441号沿いの「佐田沈下橋」が最初で、中流域の国道381号にある「茅吹手沈下橋」を最後にするほうがいい。
高知方面から来ると、いわゆる逆まわりで効率の悪いコース取りだが、あえてそうする理由は、国道441号は道が狭くてカーブが多く、もっとも絵になる「佐田沈下橋」を最後にすると、着くまでにくたびれて、感動が薄れてしまうからに他ならない。
足摺岬まで行く人なら、帰路に通ればロスは少なくて済むはずだ。
また「道の駅よって西土佐」までの沈下橋を見て満足したら、そこからオレンジ色で示した国道320号に乗り換え、愛媛県の宇和島を目指す手もあるし、もう少し進んで「道の駅四万十とおわ」で折り返し、それから国道320号に抜けてもいいと思う。
なお梼原から「道の駅 四万十大正」に至る国道439号は、国道441号以上とも思える「酷道」なので、キャンピングカーには勧めない。
さて、ここからは個別の沈下橋を紹介していこう。
四万十川の筆者特選沈下橋 目次
沈下橋❶ 佐田沈下橋
最下流にあるもっとも長い沈下橋。
沈下橋❷ 勝間沈下橋
橋の袂でのんびりできる「おおらかさ」が魅力。
沈下橋❸ 岩間沈下橋
中流域に架かるフォトジェニックな沈下橋だった。
沈下橋❹ 長生沈下橋
もっともワイルドなアングルが望める沈下橋。
沈下橋❺ 茅吹手沈下橋
自然豊かな四万十川と人の関わりが、穏やかに伝わる沈下橋
沈下橋❶ 佐田沈下橋
最下流にある、もっとも長い沈下橋
「佐田沈下橋(さたちんかばし)」は、四万十川の最下流に架かる、全長291.6メートルの一番長い沈下橋。河原から撮ると、その長さが強調できる。
下流に架かる「佐田沈下橋」ならではの光景。
「貸し切り」になる早朝に撮影。高所恐怖症の筆者にとって、たとえこの高さといえども、欄干のない橋を渡るのは気持ちのいいものではなかった(笑)。
なお「佐田沈下橋」には団体客が次々とやってくるので、日中にクルマで渡るのは難しい。
周辺にカーナビの目印になる建物はないが、県道340号沿いに観光バスが止まる広い無料駐車場がある。ただ現在は、グーグルナビでここまで行ける。
また対岸の佐田展望所には、トイレ付きで10台ほど止められる駐車場もある。
沈下橋❷ 勝間沈下橋
橋の袂でのんびりできる「おおらかさ」が魅力。
珍しい3本の橋脚を持つ「勝間沈下橋」は、手前に広大な河原があり、のんびりするには絶好のロケーションにある。映画「釣りバカ日誌 14」のロケ地にも使われたが、筆者が監督でもここを選ぶと思う(笑)。
長さ171.4メートルで「佐田沈下橋」のほぼ半分。手前の河原で順番待ちもしやすく、クルマで沈下橋を渡ってみたい人には、この「勝間沈下橋」が一番お勧めだと思う。
近くには10台ほど停められ、トイレの併設された駐車場がある。
ただ、このあたりで車中泊がしたい人には、2.6キロほど離れたところに「四万十カヌーとキャンプの里かわらっこ」がお勧めだ。
沈下橋❸ 岩間沈下橋
中流域に架かるフォトジェニックな沈下橋だった
全長120メートルの「岩間沈下橋」は、長すぎず短すぎず、四万十川流域で暮らす人々の暮らしの一部によく溶け込んだ沈下橋として、CMや雑誌もよく登場していた。
だが平成29年11月の大雨で橋の一部が陥没し、一時期通行ができなくなっていた。
しかし、生活道路としての有用性に加え、文化遺産や観光資源としての存在価値を判断する「四万十川沈下橋保存方針」の対象になっていることから、2020年6月に訪ねた際には修復工事が完成していた。
「岩間沈下橋」は、少し離れた国道441号沿いに、展望所を兼ねた広い駐車場が設けられており、そこから季節の花を交えた写真が撮れる。
ゆえに筆者は立ち寄って来たのだが、こうなると正直云って辛い(笑)。
地元住民の立場になれば、生活道路が急ピッチで修復されたことを喜ぶべきで、橋の色までかまってられないのは重々承知だが、時間が経過して馴染むのに期待するしかないだろう。
冒頭でもふれたが、この先で国道320号に乗り換え、愛媛県の宇和島方面を目指す人とはここでお別れになる。
まあ「沈下橋」というのは「選んでコレ」だから、3つ見たら十分という気がしないでもない(笑)。
沈下橋❹ 長生沈下橋
もっともワイルドなアングルが望める沈下橋
「長生沈下橋(ながおいちんかばし)」までくると、明らかに四万十川の様相が変わり、荒々しい岩が顔を見せてくる。
国道381号には沈下橋に向かう導線があり、ここから俯瞰で撮影できる。
「長生沈下橋」は横長の広い河原に面しており、地元では子供たちが川に飛び込んだり、キャンプやカヌーなどを楽しむ、川遊びのメッカになっている。
沈下橋❺ 茅吹手沈下橋
自然豊かな四万十川と人の関わりが、穏やかに伝わる沈下橋
正式名は「新谷橋」だが、四万十町の昭和地区に近い茅吹手(かやぶくて)にあることから、地元では「茅吹手沈下橋」の名で親しまれている。
1997年(平成9年)に、加山雄三夫妻を起用したJR「フルムーン」のCMに使用されたことで一躍有名に。云ってみれば、四万十川と沈下橋の「火付け役」的存在だ。
確かに遠くから見ると、自然豊かな四万十川と人の関わりが、なんとも穏やかに伝わってくる。
この写真は、国道381号にクルマを停めて撮影した。