この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の紹介です。

「軍艦島」の見学には、事前に知っておくべき”鉄則”がある。
今、この記事をご覧いただいている人の多くは、既に「軍艦島がどういうところ」であるかはご周知だと思うが、その上手な見学方法について話す前に、初めてという人に免じて、どうか軽い「復習」にお付き合い願いたい。
ただ、面倒なら2項目の「廃墟が一転、世界遺産に!」から読んでいただいてもかまわない。
軍艦島<目次>
軍艦島とは…
「軍艦島」は長崎港の南西約19kmの海上に浮かぶ島の俗称で、正式名は「端島(はしま)」という。
幅160m、長さ480m。東京ドームのグラウンド約5個分という小さな島だが、江戸時代後期に石炭が発見され、明治23年からは三菱の手により、本格的な海底炭坑として良質な製鉄用原料炭を供給してきた。
防波堤がぐるりと島を囲み、高層アパートが立ち並ぶその外観は、当時三菱重工業長崎造船所で建造中だった日本海軍の戦艦「土佐」に似ていることから、大正時代に「軍艦島」のニックネームがついた。
最盛期には5,200人もの人々が暮らし、日本初の鉄筋コンクリート造りの高層集合住宅をはじめ、小中学校・購買部・飲食店・映画館・娯楽施設・病院などの都市機能に加えて、いかにも三菱らしく、当時の最先端技術で作られた電化製品が各家庭に配備されるなど、世界でも例を見ないような炭鉱都市としての栄華を誇っていた。
ちなみに当時の人口密度は「日本一」。実に東京の9倍を超えていたそうだ。
だが、石炭から石油へと転換した国のエネルギー政策の煽りを受けて、昭和49年に無念の閉山。以降「無人島」となり、長らく放置されることになる。
廃墟が一転、世界文化遺産に!
ご承知の通り、「軍艦島」は2015年に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成要素として世界文化遺産に登録された。
ただ「軍艦島」に関心を寄せる人の中には、「世界遺産」になったからというよりも、まるでマチュピチュのように「大繁栄から滅亡に近い道」を辿ったこの島の運命に、どこか惹かれるものを感じる人もあるだろう。
余談になるが、そもそも江戸時代後期の石炭と云えば、ペリー提督率いる黒船の燃料で、「黒船」と云えば坂本龍馬、「龍馬」と云えば亀山社中、そして「亀山社中」と来れば、三菱財閥の創業者・岩崎弥太郎…
「軍艦島」が長崎に作られ、巡り巡って三菱が引き受けることになったというのも、きっと何かの縁に違いない。
さて、本題に入るとしよう。
軍艦島ツアーは2種類ある?
2017年6月現在、軍艦島ツアーを行っているのは、認可を受けた「軍艦島クルーズ株式会社」・「やまさ海運株式会社」・「株式会社シーマン商会」・「株式会社ユニバーサルワーカーズ」の4社と、漁船の「第七ゑびす丸」の5件で、それぞれ1日2便ずつ、合計10便が軍艦島を往復している。
4社は長崎港から、「第七ゑびす丸」のみ軍艦島に近い野母崎から出港する。
各ツアーに共通しているのは、軍艦島に着岸して規定の見学ルートを周る点だが、ツアー内容をよく見ると「上陸」と「上陸・周遊」の2つがある。
実は、世界遺産登録後の軍艦島は、上陸しても上のマップの赤いラインを往復し、第1・第2・第3広場でガイドさんの説明を聞くしかできない。
ということは「ほとんどが見られない」に等しいわけだ。
そこで「島全体が見たい!」というリクエストに応えるべく、海上からの周遊ツアーが追加されたのだろう。
周遊ツアーは4社全てが取り入れているが、中には「上陸」と「上陸・周遊コース」に分けている会社もある。
筆者が乗船したのは、軍艦島を「右回り」と「左回り」してくれる「やまさ海運株式会社」のマルベージャという船だが、実はこの「左右・両周り」がミソなのだ。
軍艦島の海域は晴れていても波が荒く、年間で100日ほどは上陸できない日があるという。
つまりこのツアーは、上陸できる日でもクルージング中にデッキの上を「立って歩く」ことが難しく、そのうえ満席ともなれば人の頭が邪魔で反対側の景色はほとんど見えない。
だが左右から周回すれば、どちらの席に座っていても「よく見えない」というリスクからは解放される。
行きに軍艦島がよく見えるのは、進行方向に向かって「右側」の座席だ。
しかしそこに座るには、まずチケット売り場に並んで、いち早く発券してもらい、今度は速やかに船の前で並んで乗船開始と同時に乗り込み、席を確保しなければならない。
予約は乗船定員であることを保証してくれるだけで「指定席」ではない。
そこまでやるのは、よほどの人では?
それは大きな認識違い。
「国民総インスタグラマー時代」の人気スポット観光は、もはやどこもが「行列のできるラーメン店」と変わらない(笑)。
やまさ海運株式会社のオフィシャルサイトはこちら。
なお、5社の料金やサービスの比較を知りたい人は、今流行りの「おまとめサイト」でどうぞ。「軍艦島ツアー 比較」をコピーして、Googleの検索欄にペーストすれば、そういうページはいくらでも表示される。
船からは、「見学不能」の世界遺産が見られることにもご注目!
冒頭で、世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」 の話に少し触れたが、実は長崎には「軍艦島」のほかに、旧グラバー邸など8つの構成要素がある。
その中の「長崎造船所 ジャイアント・カンチレバークレーン」は見学不可なのだが、この船からならよく見える。
また、三菱長崎造船所の様子もよく見えるが、肝心の「第三船渠」は認識することができなかった。
実は、これらは対岸にあるグラバー園からも見ることができるのだが、せっかく大枚をはたいて乗るのだから、クルージングの出だしから「世界遺産見物」を存分に楽しもう。
車中泊旅行者にとっておきの朗報
最後は、キャンピングカーはもとより、ハイルーフ車やルーフボックスを積んだマイカーで、軍艦島を訪れる人に向けた「耳寄りな話」を記載しよう。
軍艦島ツアーのサイトを見ると、クルマは長崎港ターミナル横の県営駐車場に置くよう案内されているが、行ってみるとそこは「やはり」立体駐車場だった。
「やはり」というのは、かつて「ランタン・フェスティバル」で長崎を訪れた際にも、同様の説明で苦い思いをしたことがあったからだ。
そのため今回は、こういう事態を予測して、出港の2時間近く前に現地入りし、駄目なら近くで駐車可能な平面駐車場を探そうと思っていた。
読者の中には、なぜ事前に電話で「近くの平面駐車場の場所」を確認しないのか?と思う人がいるかもしれないが、筆者のハイエースの車高は約2.4メートル、それに対し、平面駐車場の高さ制限は、高いところでも2.3メートルまでが大半だ。
つまり「数値上は入庫できない」。
そのため探してもらっても、「入れる駐車場は見つかりません」という返事が返ってくるのは当然だ。
その返事は間違いではないのだが、正しいとも限らない…(笑)。
実際は写真の通り、スレスレの程度に多少の差はあれど、まあ必ずといっていいほど停められる。
しかしそれは、このページのようなサイトを見つけるか、現地に行って確かめる以外には知る由もない話である。
というわけで、有料だが車中泊もできる長崎市内の平面コインパーキングを紹介しておこう。

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