「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。

「杖立て温泉」は、こいのぼりの季節に行きたい小国郷の古湯
杖立て温泉のロケーション
国道212号沿いに位置する「杖立て温泉」は、「黒川温泉」「わいた温泉郷」とともに「小国郷」の中核をなす古い温泉地で、「道の駅小国」から9キロほどのところにある。
温泉街の一部は大分県日田市にまたがっており、「大分自動車道」からアクセスすることも可能だ。
「杖立て温泉」の歴史
伝承によれば「杖立て温泉」は1800年の歴史を誇る湯治場だが、最初にこの名湯を世に知らしめたのは、地名の由来にもなっている、弘法大師が詠んだとされるこの和歌だ。
「湯に入りて 病なおれば すがりてし 杖立ておいて 帰る諸人」
確かに、杖が要らなくなるほど膝や腰の痛みがとれるというのは、名湯と云わずしてそう感じさせる、いかにも空海らしい機転の効いた発想だ。
伊豆の修善寺や和歌山県の橋杭岩など、日本各地にある弘法大師ゆかりの地には、浮世離れした逸話が残るが、いかにも人間臭い和歌が残されているのは、おそらく「杖立て温泉」だけだと思うので、これが本当の話だったら嬉しいね(笑)。
いっぽう後世になってから「杖立て温泉」を有名にしたのは、この景色。
現在はゴールデンウィークの風物詩として、河を跨いでこいのぼりを泳がせる光景を各地で見かけるが、「杖立温泉」はその発祥地とされている。
4月1日から5月6日まで続く「杖立て温泉」の「こいのぼり祭り」は、昭和55年頃に始まり、当初は40匹ほどだったというが、現在では3000匹~3500匹が杖立川を泳ぐように掲げられ、全国から観光客が訪れる。
その姿はまさに壮観で、「鯉だけに、密度が濃いほうが恋しく思えてくる」。
残念だが、弘法大師ほど気の効いたセリフは、筆者ごときの凡人には思い浮かばなかった(笑)。
2020年夏の大洪水で被災
さて。杖立川を挟む温泉街には、大型旅館やこぢんまりした湯治宿が19軒存在しているが、2020年の夏に洪水と土砂崩れで被災したのは、記憶に新しいと思う。
筆者は過去に3度「杖立て温泉」を訪ねているが、直近に訪れたのは被災から約5ヶ月を経た2020年の年末。
もちろん傷跡は今でも残ってはいるが、温泉街は想像よりも復興が進んでいる感じがした。
これは阪神大震災や大阪府北部地震で感じたことだが、マスコミは視聴者に強いインパクトを与えたいために、被害の大きな場所ばかりを報道したがる傾向がある。
だが実際に現地に足を運んでみると、違う印象を受けることも多い。
特に2020年は、新型コロナウイルスとの二重の災難に遭遇しているだけに、筆者は頑張っている現地の姿をお届けしたい。
それは視聴率とか販売部数競争などとは縁遠い、個人が勝手にやってる無料観光ガイドの特権でもある(笑)。
「杖立て温泉」の名湯
古い歴史を持つ「杖立て温泉」には、湯治場風情が残る「元湯」「薬師湯」「御前湯」「流泉湯」「第二自然湯」の5つの共同温泉が今も健在だ。
ただし被災の煽りで、2020年12月現在、「元湯」と「流泉湯」は未だ復旧の目途が立っていないようだ。


なお、残念ながら「杖立て温泉」は、元湯とここにしか入湯できていない。なぜなら当時の筆者は、まだ杖がいるほど膝も腰も痛くはなかった(大笑)。
「杖立て温泉」の名物
高温の温泉が湧き出す「杖立て温泉街」を歩くと、あちこちで写真のような「むし場」に出くわす。
「別府温泉」や「わいた温泉郷」では、「地獄蒸し」と呼ぶ「温泉蒸気蒸し」は、野菜の旨みをとじこめ、肉からは余分な油を落とすヘルシーな料理法として知られているが、「杖立て温泉」では、その「蒸し料理法」を一味違うかたちで活用し、独自の名物を生み出している。
それがこちら。
なるほど、確かにプリンも「蒸して作るグルメ」のひとつ。しかも冷やして食べれば、いい湯上がりのデザートになる。
写真は入湯した「米屋別荘」の「杖立てプリン」。どうやら、まんまと術中にはめられたようだが、筆者はこういうトラップは嫌いじゃない(笑)。
「杖立て温泉」の車中泊事情
さて。「杖立て温泉」の無料観光駐車場は、観光案内所の前の坂を、川に向かって少し降りたところに用意されている。
ここには公衆トイレと足湯、さらに日帰り温泉が目の前にあるのでロケーションとしては最高なのだが、肝心の路面が波打っていて車中泊はしづらい。
しかし、トイレの横の道からもう一段川べりに下がったところに、平坦で雰囲気の良い駐車場がある。
ただしゴミは持ち帰り。
当たり前だが、当たり前のことが当たり前にできない人が現れると、ここにもまた車中泊禁止の札が立つ日がやってくる。
そうならないようにするには、許されている間に、マナーのいい車中泊旅行者たちに、ここで車中泊ができることを積極的に拡散することだ。
筆者の経験からすると、輩たちは目立つところを避けて行動する特性がある。つまり良識のある人だけで未来永劫占拠しちゃえば、こんなみっともない問題は起こらない。
実を云うと、筆者はそれこそが「究極の車中泊スポット浄化作戦」だと思っているのだ(笑)。

あとは車中泊するしないに関わらず、誰にでもよくわかる「禁止事項」を目立つところに立てて、ルール違反行為がひと目で分かるようにし、通報先を明記しておけば、心あるいい人がきっとアクセスしてくれる。
しかも今は動画を添付すれば、事後でも確実にアウトにできる時代。ほかに必要なのは、強面のガードマンたったひとりだけなのでは(笑)。
ちなみに、お気に入りの車中泊スポットを口外せず隠しておくみたいな一昔の考えは、SNS全盛の現代には通じない。
しかもそういう情報は、輩のほうが遥かによく知っていると思う(笑)。
小国郷 車中泊旅行ガイド
