「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、10年以上かけてめぐってきた全国の温泉地を、「車中泊旅行者の目線」から再評価。車中泊事情や温泉情緒、さらに観光・グルメにいたる「各温泉地の魅力」を、主観を交えてご紹介します。

大人なら、気取らず・煽られず「静かで田園的な湯布院」を嗜む旅がしたいもの。
別府温泉の奥座敷
「湯布院」の町は別府市内から、国道11号・通称「やまなみハイウェイ」を50分ほど走った、小さな盆地の中にある。
大正時代には、別府八湯に「湯布院」と「塚原」を加えて、「別府十湯」と呼ばれた時期があり、静かで田園的な温泉地だったという。
だが、「全国あこがれ温泉地ランキング」等々、各旅行社が主催するさまざまな「人気コンテンスト」で、常に上位に名を連ねる現在の「湯布院」は、悪く云えば「若い温泉おのぼりさん」が闊歩する、まるで旧軽井沢のようだ。
それは目抜き通りの「湯の坪街道」を歩けば、一目瞭然(笑)。
とはいうものの、可処分所得の高い都会の若者達とバブリーなインバウンドが、「湯布院」の経済をまわしているのは紛れもない事実で、勢いを失いつつある中流中高年が、それを嘆いたところでどうなるわけでもない。
ならば、彼らとは違う「湯布院」の旅を見出そう。

ゆふいん・湯布院・由布院?
このように町の名前の表記が統一されていないのは、マスコミ泣かせの典型で、特にライターは一番イライラするのだが(笑)、とりあえずこのサイトでは「湯布院」で統一している。
表示が違う理由
「湯布院」は昭和30年に、「由布院町」と「湯平町」が合併して誕生した地名で、地元では「湯平町」を含む場合は「湯布院」、含まない場合は「由布院」と区別をしているようだ。
例えば高速道路のゆふいんインターチェンジは「湯布院」、JRのゆふいん駅は「由布院」と、なるほど表記が異なっている。
ただ時が流れるにつれ、「湯布院」と「由布院」を分けて考える地元住民も少なくなり、また観光客にすれば、「湯布院」のほうが見た目から温泉地であるとわかりやすく、ブランドイメージの高揚にも通じている。
いっぽう行政機関では、波風の立たないひらかなの表記が増えつつあり、マスコミもそれに順次対応し始めている。
温泉地としての湯布院の魅力
「湯布院」は、湯平温泉・塚原温泉とともに国民保養温泉地に指定されており、由布岳(火山:標高1,584メートル)の麓にある金鱗湖周辺と鳥越周辺に、端正な温泉旅館が点在している。
団体客で賑わう別府温泉郷とは違い、湯布院はもともと大型ホテルや歓楽街のない山里の鄙びた温泉町で、昭和40年代から歓楽色を排した、女性が訪れたくなる環境整備を続けてきた。
しかるに、湯布院にも別府温泉郷にあるような共同浴場はある。
ただ現在のような状況では、住民が大事にしてきた共同温泉を閉ざしてしまうのも当然だろう。
お勧めは温泉旅館の庭園風呂
いっぽう湯布院には、温泉宿が贅と趣向を凝らした素晴らしい庭園風呂がたくさん存在する。もちろん中には宿泊者しか入湯できない高級旅館もあるが、日帰り客にこういう景観を見せてくれる宿もある。
クルマ旅の旅行者が、別府温泉と一味違う温泉旅を楽しむには、この使い分けが大事。狙うのは温泉街から少し離れた、隠れ家のような温泉宿だ。
もちろん、こういう場所にもチャラ男とギャルはやってくる。
しかし行く時間帯を少しずらせば、そこそこ高い確率で遭遇は避けられる。
中高年が行くならランチタイムがお勧めだ。その頃若者は、食べログで検索した人気の店先に並んでいる(笑)。
エピローグ
おんせん県・大分の懐は深い。
湯布院から「やまなみハイウェイ」で九重に南下すれば、今度は「筋湯温泉」や「川底温泉」といった名湯が集まる「九重”夢”温泉郷」が始まる。
さらに南下して熊本県に入れば、黒川温泉も待っている。
湯布院は確かにいいところだが、車中泊の旅人には「九州で一番いい温泉地」というわけではないと思う。