「道後温泉本館」の、”行く前に絶対知っておきたい楽しみ方と見どころ”を、経験豊かな「車中泊旅行家」がご紹介しています。
「クルマ旅のプロ」がお届けする、車中泊で訪ねた名湯レポート

この記事は、1999年から車中泊に関連する書籍を既に10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「車中泊旅行家・稲垣朝則」が、独自の取材に基づき、全国の温泉地の車中泊事情や温泉情緒、観光、グルメにいたる魅力を再評価し、「車中泊旅行者の目線」から紹介しています。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。

~ここから本編が始まります。~
「道後温泉本館」は、温泉館というより”重要文化財”。入湯だけなら安くて空いている「椿の湯」がお勧め。
道後温泉駐車場 DATA
道後温泉本館
〒790-0842
愛媛県松山市道後湯之町5-6
☎089-921-5141
無休
※毎年12月に大掃除のため、1日臨時休館あり
「道後温泉駐車場」の筆者の歴訪記録
※記録が残る2008年以降の取材日と訪問回数をご紹介。
2010.07.08
2011.01.23
2012.03.17
2012.11.23
2013.10.13
2014.01.16
2016.01.01
2018.05.10
2019.02.05
2025.02.10
※「道後温泉駐車場」での現地調査は2025年2月が最新です。
「道後温泉本館」入湯の秘訣

「道後温泉本館」の歴史とトリビア
1906年(明治39年)に発表された、「夏目漱石」の小説「坊っちゃん」の中に、「ほかの所は何を見ても東京の足元にも及ばないが、温泉だけは立派なものだ。」と記されている「住田の温泉」が、
1895年(明治28年)に「漱石」が松山中学の英語教師として赴任した前年に、建て直されたばかりの「道後温泉本館」だ。
城大工を棟梁に起用し、約20ヶ月の工期をかけて改築された「道後温泉本館」は、総工費13万5千円を投じた一大事業で、それは現在の貨幣価値に置き換えると、約35億円に匹敵する。
確かに『伊予の小さな城下町』にとって、それは町の財政が傾くほどの金額だった。
しかし当時の「道後温泉」は、江戸時代初期の1635年に、松山藩主に封ぜられた「松平定行」が施設の充実を図って以降、大きな改修は行われておらず、老朽化が進むいっぽうで、そのまま放置できる状態ではなかったのだろう。
無謀な投資と非難が渦巻き、町長の「伊佐庭如矢(いさひわゆきや)」は命の危険を感じるほどだったというが、『100年の後までも、他所が真似できないようなものを作ってこそ、はじめてそれが物を言うことになる』という強い意志を貫き、地元が誇る名湯の再建を成し遂げた。
かくして誕生した木造三層楼の新しい「道後温泉本館」は、当時でも大きなインパクトを与える出来栄えだった。
それは東京からきたばかりの「夏目漱石」まで、虜にしてしまったくらいなので、けして大袈裟な話ではあるまい(笑)。
さらに「伊佐庭」は、「道後温泉」へ鉄道を引き込むべく、「道後鉄道株式会社」を設立し、一番町~道後、道後~三津口間に「軽便鉄道」を走らせ、客を「道後温泉」へと送り込んだ。
「伊佐庭」の思惑どおり、大躍進を遂げた「道後温泉本館」は、増改築を繰り返しながら、明治・大正・昭和・平成にわたって多くの人々から親しまれ続け、「共同浴場番付」において、東の「湯田中温泉大湯」と並ぶ、”西の横綱”に番付けされるまでの存在となる。
そして築100年を迎えた1994年に、国の重要文化財となった。まさに「伊佐庭如矢」の予言が的中したかたちだ。
さらに2009年には経済産業省の「近代化産業遺産」にも選出され、同年3月には「ミシュランガイド(観光地)日本編」において、2つ星を獲得している。
ちなみに「道後温泉本館」を訪れた有名人は、「伊藤博文」「板垣退助」などの政治家、「小林一茶」「与謝野晶子」「種田山頭火」などの文人、「北里柴三郎」「志賀潔」などの学者など、数え上げればきりがないのだが、その中には「昭和天皇」も含まれている。
国の重要文化財に指定された理由には、「道後温泉本館」が日本で唯一の”皇室専用の浴室”を構えた温泉館であることも、無関係ではないのだろう。
皇室専用の浴室「又新殿」
こちらが1899年(明治32年)に完成した、皇室専用の浴室「又新殿(ゆうしんでん)」で、桃山時代の建築様式を模して建てられ、建材、調度品ともに厳選された材料が使用されているほか、御影石の最高級品「庵治石(あじいし)」を使った湯殿が設けられている。
なお「又新殿」の見学には500円が必要だが、後述する「霊の湯」はそれが含まれたコース料金になっている。
「坊っちゃん」の間
「道後温泉本館」は、地元では”坊ちゃん湯”の名で親しまれているが、3階には「夏目漱石」ゆかりの資料が置かれた「坊ちゃんの間」がある。
また1階の「神の湯」男湯浴室内では、小説の主人公が湯船で泳いで注意の張り紙をされたことにちなんだ、「坊っちゃん泳ぐべからず」の札を今でも見ることができる。
その1階の廊下には、改修前は映画に登場した各俳優たちの記録も展示されていたが、現在は神話の絵に変わっている。
なお「坊っちゃんの間」は、入館すれば誰でも無料で見ることができる。
「千と千尋の神隠し」に登場する「油屋」のモデル?

出典:THE GATE
「道後温泉本館」は、「スタジオジブリ」の映画「千と千尋の神隠し」に登場する「油屋」のモデルのひとつといわれているが、確かに見れば「なるほど」だ。
「油屋」のモデルには、他にも「四万温泉」の「積善館」や、「湯田中・渋温泉」の「金具屋」などが挙げられており、筆者はいずれにも足を運んでいるが、最初に映画を見た時に、真っ先にアタマに浮かんだのは「道後温泉本館」だった。
「油屋」は、木造による重層構造の共同湯として描かれており、実際に製作スタッフが「道後温泉」に逗留し、本館のスケッチを行った記録が残るとか。
「スタジオ・ジブリ」は、「道後温泉本館」が「油屋」のモデルであるとは明言していないものの、「大いに参考にした場所」として紹介している(笑)。
「道後温泉本館」の料金システム
「道後温泉本館」には、入口に料金の支払い窓口がある。
何も知らずに行くと「なんで、こんなに料金がいっぱいあるんだ?」と戸惑うことになるわけだが、ここまでお読みになられた方は、もうその理由がお分かりだろう。
要は「道後温泉本館」には、『温泉入湯中心の料金』と、『重要文化財としての温泉館を楽しむコース料金』の、大きく2通りの料金設定がある。
●温泉入湯中心の料金
①「神の湯」階下(60分)/700円
6時~23時(札止 22時30分)
②「神の湯」二階席(60分)/1300円
6時~22時(札止 21時)
●温泉館を楽しむコース料金
「神の湯」の入湯含む
皇室専用浴室「又新殿」の自由観覧込み
お茶とお菓子のサービス
貸浴衣・貸タオル・貸バスタオル付き
③「霊の湯」二階席(60分)/2000円
6時~22時(札止 21時)
④「霊の湯」三階個室(90分)/2500円
6時~22時(札止 20時30分)
※「神の湯」「霊の湯」ともにシャンプー・コンディショナー・ボディーソープ・ドライヤー(無料)あり
さらに2024年の改修工事以降は、「坊ちゃんの間」や休憩用の「個室」がある3階に、それまでは従業員用に使用していた大部屋が、新たに貸し切りの休憩室として加えられている。
設けられたのは、定員18人の「しらさぎの間」と定員10人の「飛翔の間」だが、さすがにそこまでは当サイトでの案内には不要だと思うので割愛している。
興味のある方は公式サイトで確認を。
初めての人にお勧めは「霊の湯」

出典:共同通信社
「道後温泉本館」で700円支払って「神の湯」にだけ入湯するのは、どうかと思う。
最大の理由は、それなら地元の人用に作られた、450円で利用できる「椿の湯」に行くのと、ほとんど変わらないからだ。
「道後温泉」のお湯は、いわゆる『美人の湯・美肌の湯』と呼ばれるアルカリ性単純泉で、ph値は約9.1。
無色透明・無臭で、加温・加水をしていない「源泉かけ流し」だが、共通の源泉から配湯されており、共同浴場のみならず、ホテル・旅館も泉質はかわらない。
しかも利用人数が多い、共同浴場では塩素消毒を施しているようだ。
なお男湯の「神の湯」の浴室は、西と東の2つがあり、東の男湯には源泉が引かれていた跡が残されている。
改修前はいずれも400円で入湯できたが、改修後は「道後温泉本館」にのみシャンプーとボディーソープが用意され、700円に値上がりした。
「何も考えないで来るおのぼりさん」は、それでも『道後温泉本館の温泉に入ってきた』ことに満足を得て帰るのかもしれないが、お湯はどちらも同じなので、車中泊旅行者が”お風呂代わり”に利用するなら、正直「神の湯」はバカバカしい(笑)。
いっぽう、ひとり2000円と一見値が張って見えるが、その中身をよく知れば、明らかにお値打ちであることがわかるのが『③「霊の湯」二階席(60分)』だ。
これは改修前の2013年にひとりで利用した時の写真だが、現在は700円の「神の湯」にも入れて、500円の「又新殿」も見学でき、浴衣もお茶とお菓子もついているうえに、タオルとバスタオルまでセットになっている。
改修前はなんとそれで1200円だったことを思うと、さすがに「高くなったなぁ」と思わざるを得ないが(笑)、それでもこれは「道後温泉本館」の本質を知って来てくれるお客様に対する、”感謝のプライス”だと筆者は思う。

出典:毎日新聞
こちらが中央に置かれた湯釜に彫られた「大国主命」と「少彦名命」の二神像で有名な「霊の湯」の女子浴室。

出典:いよネット
残念ながら「道後温泉」の浴室は”男女交代制”ではなく、男子浴室に神様はいないのだが、「又新殿」ができた1899年(明治32年)に、皇室の随伴者や上客用の浴室として作られたものだけに、「神の湯」よりも寛げる贅沢なつくりになっている。
「神の湯」が芋の子を洗うほど混んでいても、「霊の湯」は貸し切り…
極端に云えば、それほどまでに混み具合は違っている。
ちなみに『「霊の湯」二階席(60分)』より制限時間が30分長い、3階の『「霊の湯」三階個室(90分)』は、料金が500円しか変わらないので、同伴者がいる人と、湯上がりにゆっくりと寝転びたい人には断然おすすめだと思う。
というわけで、
2025年2月に、改修工事を終えたばかりの道後温泉に家内を伴って足を運び、3階の『「霊の湯」三階個室(90分)』を実体験してきた。
個室は3畳ほどしかないが、ふたりなら問題なく寛げる。
今はお菓子に、名物の「坊ちゃん団子」が使われていた。
筆者がいちばん驚いたのは、「又新殿」の見学にガイドさんがつき、撮影もOKになっていたこと。ガイドさんは本当によく道後温泉のことをご存知だった。
いずれにしても車中泊だし、ここまで来たらちょっと奮発して、ささやかな贅沢を楽しもう(笑)。
道後温泉本館の駐車場と車中泊事情
「道後温泉本館」の横にある小高い丘(冠山)の上に、普通車100台が収容できる松山市営の「道後温泉駐車場」がある。
場内には24時間使えるウォシュレット付きのトイレと無料の足湯もあり、車中泊も可能だ。
なお「道後温泉本館」に行く際には、館内に設置されている認証機に駐車券を通すと、最初の1時間が無料になるので、駐車券を忘れずに持参しよう。
「道後温泉駐車場」のアクセスマップ
クルマでのアクセスを想定して、「道後温泉駐車場」にご案内。
車中泊で楽しむ、道後温泉
車中泊でクルマ旅 総合案内
クルマ旅を愉しむための車中泊入門

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