25年のキャリアを誇る車中泊旅行家が、2021年春に出かけた「東北桜前線追っかけ旅」の足跡を旅行記にまとめています。
なおこの記事は、2025年5月に一部情報をアップデートしてお届けしています。
「正真正銘のプロ」がお届けする、リアル車中泊旅行記

この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、これまでの中で特に印象に残った旅の足跡をまとめた旅行記です。

~ここから本編が始まります。~
数々の「ドラマ」を生んだ、米沢・天童温泉・銀山温泉をめぐる
車中泊旅行記「2021年・東北桜前線追っかけ旅」/第4話 山形編
10年来の悲願だった「愛の兜」との対面
「道の駅 喜多の郷」から、国道121号で約40キロ・50分のところにある米沢は、米沢城があった「松が岬公園」に、桜を含めた見どころが集中している分かりやすい町で、会津と同様、2012年に桜の撮影は終えていた。
大河ドラマを見ている中高年なら、もうよくご存知だと思うが、米沢城はあの「伊達政宗」が生まれた場所で、若き政宗は米沢から会津を攻めて一度は手中に収めるが、天下人となった秀吉に召し上げられ、宮城の岩出山城に転封される。
そこから仙台に進出し、陸奥の覇者となるのはもう少し先の話だ。
その後の米沢は、秀吉から120万石の高待遇で会津に迎え入れられた、上杉景勝の家老・直江兼続が守っていたが、秀吉がこの世を去り、本性を露わにした家康と対立を極めた上杉家は、関ヶ原の合戦後、わずか30万石に減封され、会津若松城から兼続のいる米沢城へと追いやられた。
この時代の上杉景勝・直江兼続主従を描いたのが、大河ドラマ「天地人」だ。
「天地人」は、主役の直江兼続を爽やかな妻夫木聡が演じ、その少年時代に名子役の加藤清史郎くんを配したことで人気が高まり、最高視聴率26.0%、平均視聴率 21.2%という高い視聴率を記録。
他にも兼続の妻を常盤貴子、上杉謙信に阿部寛を登用するなど、当時の若手俳優を数多く起用した面白い作品だったと思う。
ドラマの中で、直江兼続は戦場に「愛」の文字が飾られた兜をかぶって登場するのだが、それは実話で、本物が上杉神社の宝物殿「稽照殿(けいしょうでん)に保管されている。
実は筆者はそれが見たくて、以前に2度足を運んだのだが、1度目は東日本大地震の復旧工事、2度目はコロナ禍による臨時休業に阻まれ、いずれも成就しなかった。
ただ宝物なので、どのみち撮影できるわけでもなく、「もういいかな」という気になっていたのだが、喜多方で朝ラーを食べたことが幸いし、本来なら開館前に通過してしまうはずが遅れて、3度目の正直で本物との対面を果たすチャンスが舞い込んだ。
実物は思ったより小さく、引き締まったものだった。しかし400年以上前に実在したあの武将が、実際にこの兜をかぶっていたかと思うと、ゾクゾク感は止まらない。
大河ドラマってのは、そういうところがすごいのかもしれないね(笑)。
さて。
江戸時代の上杉家は困窮に苦しみながらも、13代に渡って米沢の地を守り続け、やがて明治維新を迎えるが、その間の最大ともいえる財政危機を立て直すのが、9代目の藩主となった上杉鷹山だ。
領地返上寸前の米沢藩再生のきっかけを作り、江戸時代屈指の名君としてケネディー大統領も尊敬していたという、鷹山のこの名言を知らない日本人は、たぶんいない。
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」
桜と将棋の名所、天童温泉
続く目的地の天童温泉に行く前に、筆者には立ち寄っておきたい場所があった。
奥の山をズームアップすると、とんでもない場所に建っているのがわかる「山寺」こと「宝珠山 立石寺」は、860年(貞観2年)に第三世天台座主・慈覚大師円仁が開いたと伝わる、東北を代表する霊山だ。
根本中堂には、慈覚大師作と伝わる木造薬師如来坐像が安置され、伝教大師・最澄によって比叡山から立石寺に分けられた「不滅の法灯」を、織田信長に焼打ちされた延暦寺の再興時に、分け返したという逸話が残されている。
筆者は2010年に、一番上にある「奥の院」まで登って参拝を済ませているのだが、山寺にはその寺歴よりも有名な話がある。
「奥の細道」の道中で、友人・清風がいる尾花沢に立ち寄った松尾芭蕉は、山寺を訪ね、参道の途中にある「せみ塚」で、この名句を詠んだ。
閑さや 巌にしみ入る 蝉の声
「月日は百代の過客にして…」の序文から始まる「奥の細道」は、日本の古典紀行記の代表的な作品だ。
当時46歳だった芭蕉は、弟子の曾良を伴い、松島(宮城県)・平泉(岩手県)・象潟(秋田県)を主たる目的地として、 東北から北陸にある歌枕や史跡を辿りながら、終着点の大垣まで、5ヶ月で約2400キロにも及ぶ長路を旅している。
紀行を通じて諸藩の事情に精通する松尾芭蕉の真の素性が、実は公儀の隠密だったという話もあるようだが、目の届かない陸奥の情報を幕府が欲しがったのは、まんざら嘘ではなかっただろう。
ところで。
実は筆者も芭蕉にあやかり、俳句をやってみようと思って、「プレバト」でお馴染みの夏井先生の本を買ってはみたが、どこを見て歩いても、さっぱりいい句は浮かばない(笑)。
ただ、同じように史跡をめぐってこの国を歩いた、旅人の大先輩である松尾芭蕉には関心があり、その足跡をできるだけ辿ってみたいと思っている。
ちなみに芭蕉は、平泉からこの「山刀伐峠(なたぎりとうげ)」を命からがら超えて、尾花沢にたどり着いた。
ただ当時、芭蕉が死ぬ思いでヤブコキした山も、今はトンネルで通り抜けられるため、こういう話を知らなければ、前を通っても何の感慨も得られない(笑)。
その山寺から、約8キロのところにあるのが「道の駅 天童温泉」だ。
この道の駅は、仙台から蔵王を抜けて日本海側の鶴岡に行くにも、会津から秋田県の横手を抜けて、青森方面に北上する際にも利用しやすい、まさに東北国道旅の要衝に位置している。
ゆえに筆者は3度も泊まっているのだが、上記の理由から、いつも「旅の宿」にしているばかりで、道の駅には詳しくても「天童温泉」のことをまったく知らずにいた。
そこで今回は、近くに桜の名所があるというので、明るい時間から現地に入り、周囲をしっかり散策してきた。
桜の季節のイチオシは「舞鶴山公園」だ。
本来なら、ここで「人間将棋大会」が開催されるが、去年・今年はコロナウイルス感染防止のために中止。それでも十分見応えのある景色だった。
いっぽうこちらは、どのガイドにも紹介されている天童温泉の名所のひとつで、駅の近くを流れる倉津川沿いに、しだれ桜の並木が全長1.4キロにわたって続いている。
橋ごとに将棋の駒のモニュメントが置かれているというので、期待して行ってみたのだが、駒の向きと桜並木が並行で、駒の周りには余計な表示物が無造作に立てられているため、これが精一杯の写真になる。
しかもスマホでこのフレーミングができるのは、超広角モードが搭載されたiPhone11以降のモデルくらいしかない。
「インスタ映え」が死語になりつつあるとはいえ、もう少し観光客の心理を読んだ手を打ってこそ「将棋の町」。
せっかくタダで、町の美しい景観を数多の人が紹介してくれるというのに、こんな写真しか撮れないのでは、そのチャンスを自ら放棄しているようなものだ。
筆者が行政の責任者なら、プロカメラマンに駒の位置を決め直してもらうけどね。
その気になれば、これほど天童よしみに似てる「お子ちゃまモデル」が探せるのだから、やる気になれば造作もないことに違いない(笑)。
なおこの日は月曜日で、天童温泉界隈の日帰り温泉は、ことごとく休み。
観光地なら普通はずらして休むでしょう!
そんなわけで、今回は近くの温泉が開いていた「道の駅 河北」に移動して泊まった。
翌日天山温泉を出た後、筆者はまっすぐ銀山温泉に向かうつもりでいる。
今回のカーネルでは「桜と温泉」をテーマにした東北の話を書きたいと思っているが、いくら東北の桜が美しいと云っても、さすがに10ページにわたって「桜」の写真ばかりが並んだのでは飽きてしまう。
筆者にとって「理想のクルマ旅」は、「幕の内弁当」のようなものになる。
そのためには、温泉風情の薄い天童温泉だけでは明らかに物足りなかった。
「おしん」の舞台、銀山温泉
天童温泉からクルマで約1時間のところにある銀山温泉は、まるで映画のロケセットのような、大正時代のノスタルジーを今も漂わせている温泉場だ。
しかも、ここは桜どころか、まだ雪がたっぷりと残ったまま。
また銀山温泉は、国民的ドラマと称される「おしん」の中で、母親が芸者として出稼ぎに来た温泉としても知られている。
それゆえ、若き日の泉ピン子を知るシニア世代にお勧めしたかったのだが、少し前までこの素晴らしい温泉地は、車中泊の旅人にとって厄介な問題を抱えていた。
猫の額ほどの狭い土地に作られた銀山温泉街には駐車場がなく、宿泊客用の駐車場でさえ離れた場所にあって、そこから旅館がマイクロバスで送迎するほどだ。
そのため日帰り客は、1キロほど手前に用意された無料の共同駐車場にクルマを置いて、そこから歩いて行くしかなかった。
だが2020年8月、その必要がなくなった。
現在は2キロほど手前にある「大正ロマン館」から、銀山温泉まで往復300円で送迎してくれるシャトルバスが運行している。
今回はそのバスに実際に乗ってみて、「銀山温泉半日ツアー」が可能かどうかを試してみるために足を運んだ。
結果は上々。
3時間ほどで温泉街をそぞろ歩きし、いで湯に浸かってランチを食べて戻る、車中泊ならではの「銀山温泉めぐり」を、近いうちに紹介できる日が来るだろう。
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車中泊で行く、”東北桜前線追っかけ”旅行記 2021

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