この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の紹介です。

津和野は、さだまさしの名曲「案山子」の情景が宿る町
津和野 車中泊旅行ガイド【目次】
津和野のロケーション
津和野は山口県との県境に近い、島根県西部の緑豊かな山々に囲まれた盆地の中にあり、今でも隠れ里的な雰囲気を色濃く残す小さな町だ。
同じ島根県にあるとはいえ、かの有名な出雲大社からは約170キロ。ノンストップで来たとしても3時間半はかかる。
ちなみに津和野観光協会によると、津和野までのマイカーアクセスは、関西方面からは中国自動車道「六日市IC」から約1時間、九州方面からは同じく中国自動車道の「小郡IC」から約1時間20分となっている。
ゆえに松江・出雲と抱き合わせで旅をするのは難しく、むしろ山口市内や萩との組み合わせの方がフィットする。
昔から「萩・津和野」とはよく云ったもので、津和野から萩の城下町までは約50キロ、1時間半足らずで行くことが可能だ。
いっぽう国道でアプローチするなら、山陽・山陰のどちらからも9号線を走るのが無難だと思う。
このあたりまでくると、国道が「酷道」である可能性は否定できない(笑)。
気分は今も「アンノン族」
まず多くのガイドブックは、津和野駅から通じる城下町時代の古い佇まいを残した殿町通りにスポットライトを当て、今なお「山陰の小京都」と持て囃している。
確かにそこには、藩校養老館跡・郡庁跡・津和野藩家老多胡家表門・カトリック教会といったノスタルジックな建物が点在し、通りに沿って流れる掘割は、それらを映し出すとともに、色鮮やかな錦鯉たちのいい棲み家にもなっている。
だがそれは、クルマを持たない若い旅行者に向けて発信された、津和野の偏った観光情報でしかないし、意味も分からないまま写真だけ写したところで、「映え」るものにはならないだろう。
たとえば殿町通りで一際目を引く「津和野カトリック教会」は、実はキリスト教布教のためというより、この地で信仰を貫いた殉教者たちの冥福を祈るために建てられたということをご存知だろうか。
津和野には、あまり触れられたくないキリシタンにまつわる「黒歴史」もある。
それはさておき。
そもそも「山陰の小京都」というフレーズは、1970年代の中頃から1980年代にかけて流行した、「アンノン族」とリンクしている。

出典:男子専科
「アンノン族」とは、ファッション雑誌やガイドブックを片手に、一人旅や少人数で旅行する若い女性を指した俗語で、旅行の主役として女性が重視される最初の契機となった時代に登場してきた。
ちょっとカテゴリーは違うが、現代のキャンプ女子みたいなものかもしれない。
またそれを後押ししたのが、当時の国鉄が国内各地の美しい風景をポスターにあしらった「ディスカバー・ジャパン」のキャンペーンだろう。
これもまた、テレビが絡んだ今の仕掛けと似たようなところがあると思うわけだが、いずれにしても我々は、個人旅行を後押しする気風が高まっていた時代に思春期を迎えた、ハッピーな「三丁目の夕日世代」といえる。
そんなわけで…
当サイトにお越しの方の中には、津和野には行っていないが、「昔はアンノン族だった」という人も少なくないと思う(笑)。
そこで当時のエッセンスを残しつつ、行動範囲の広い中高年の車中泊旅行者に喜んでいただけそうな、津和野の見どころをいくつか紹介していこう。
中高年が津和野で親しみを感じるところ
さて。
かつてそんな「アンノン族」を
♪同じようにジーンズ来て、アンアン・ノンノ抱えた 若いお嬢さんたちが今 シャッターを切った♪
と、歌に描いたシンガーソングライターがいる。
彼はまたそれとは別に
♪元気でいるか、町には慣れたか、友達できたか…♪
で始まる名曲を発表しているが、その「案山子」の一節に以下のくだりがある。
♪城跡から見下ろせば、青く細く川、
橋のたもとに作り酒屋のレンガ煙突…♪
実は、この情景は故郷の長崎ではなく、なんとこの「津和野城の城跡」から見たものだったというから驚いた。
本人のインタビューによると、津和野城の石垣に生えている松の木が、遠くの町へ行って頑張っている子ども達に語りかけるというかたちで、「故郷を大切にしよう」と呼びかけている曲なのだとか。
音楽というのは時に個人の強い記憶とリンクする。
「母一人子一人」で育った筆者にとってこの曲は、学生時代に故郷で待つ母を思い起こす情景そのものだった…
続いて紹介したいのはSLだ。
写真の「SLやまぐち号」は、JR西日本が山口線の新山口駅 – 津和野駅間で運行しているが、津和野駅は発着駅なので、停車時間が長く、間近で見られるだけでなく、なんとコックピットにも乗せてもらえる。
これは鉄ちゃんでなくても、ワクワクする体験に違いない(笑)。
現在運行しているのはC57 1とD51 200で、1日1往復。
筆者は津和野に3度足を運んでいるが、運良く両方を撮影している。
「SLやまぐち号」は津和野に午後12時58分に到着し、15時45分に発車するので、見たいなら午後から津和野駅に行こう。
また駅前には広いコインパーキングがあるので、実際に乗車してプチなSL旅を楽しむことも可能だ。
筆者たちは途中の長門駅までSLで行って、帰りは在来線で戻ってきた。
駅弁を食べると、さらに旅行気分は盛り上がる(笑)。
津和野では「うどん」にご注目。
食べ物の話が出たところで、最後はグルメで締めくくろう。
白壁土蔵と田園風景がウリの津和野では、やはり和食に目が向くわけだが、頑張っているのはうどん屋だ。
津和野駅の近くで一際目立つ「みのや」の名物が、「しこたまうどん」800円。
しこたまとは「どっさり」とか「いっぱい」と同じ意味を持つ言葉だが、その名の通り、いろいろな具材が入っていて、楽しく食べられる。
しかし見た目はゴチャゴチャしておらず、麺も細めで仕立ては実に上品だ。
小京都ではなく本当の京都なら、おせち料理の如く、それぞれの具に入れている意味をこじつけ、もったいぶるかもしれないが(笑)、そこまでしないところも奥ゆかしくていい。
そしてこちらは「ふきめし定食」750円。
なかなか都会ではお目にかかれない素朴なメニューで、食べログでも一緒にオーダーしている人が多いようだ。
さすがにいい大人が、うどんだけじゃなぁ~ってか(笑)。
こちらの「つるべ」は、2022年4月に津和野を訪れた時に偶然見つけた、手打ちうどんのこだわり専門店。
軒先に「お急ぎの方はご遠慮下さい」と書いているくらいなので、なかなかの頑固者がやっているに違いないと、期待を抱いて暖簾をくぐった。
季節柄、ちょうど旬を迎えている山菜うどん850円を注文したが、出てきてビックリ! 大盛りサービスかと思ったほどだ。
だが、これがシャキシャキしていて、喉越しのいい自慢のうどんと見事にマッチ。
大将の思惑通り、あれよあれよの完食だった。
うどんにあまりコシがないのも、山菜との相性がいい理由のひとつだと思う。さぬきより、氷見うどんに近い感じだった。
ちなみにつゆは若干甘めだが、それは山陰地方特有の醤油によるものだろう。
帰宅後カレーうどんが人気ということを知ったが、もし最初からそれを調べていたら、この店には行かなかった。そういうものは都会で食べればいいからね。
津和野の車中泊事情&車中泊スポット
正直なところ…
「津和野で車中泊をするメリットはあるのか?」と問われたら、「SLやまぐち号」に乗るか、じっくり博物館を観るか、マニアックな史跡でも訪ねて歩かない限り、観光に丸1日要することはないと思う(笑)。
ゆえにいつもの筆者なら、「ここで車中泊をする理由は見つからない」と書くわけだが、なぜか津和野には朝の情景に惹かれるものがある。
そのゆっくりと時間が流れるような雰囲気を味わうために、この町で車中泊をしてみるのは悪くない。
幸いにも津和野の郊外には、温泉が併設する道の駅が2つあるので、車中泊で困ることはないだろう。
津和野 車中泊旅行ガイド


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