この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100ヶ所の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
倉敷に現存する江戸時代の町家建築
大橋家は大原美術館を設立した大原家と双璧をなす倉敷の大地主で、その邸宅は、中に入り座敷に上がって見学ができる、倉敷唯一の町家建築として国の重要文化財に指定されている。
格式・品格ともに、リノベーションされた他の町家とは明らかに「別格」。
ここを見ずして、江戸時代の倉敷は語れない。
現存する建物は、江戸時代の後期にあたる寛政7年(1796年) – 寛政10年(1799年)に建設されたとされている。写真は旧街道に面した「長屋門」。玄関ではなく「門」だ。
通常、長屋門は倉敷代官所の許可がなければ、町屋に使用することは許されなかった。
それを聞くと、大原家と共に「新禄」と呼ばれる新興勢力を形成して、倉敷の発展に貢献し、水田や塩田開発、さらに金融業で大きな財を成した、「豪商」大橋家への興味が湧いてくる。
さて。長屋門をくぐると受付があるので、そこで入館料550円を支払うと、約2分間のガイドを放送してくれる。
外観だけでなく「放送」というのもなかなかレトロ。しかも2分というのが絶妙にいい(笑)。
ここで注目すべきは倉敷窓、倉敷格子、塗屋造りといった倉敷独特の建築様式。
それがどういうものかは、パンフレットに詳しく書かれているので、ここでは割愛させていただく。どうしても気になる人は、最後にここをクリックしよう。
母屋に入る前に順路で案内されるのがこちらの蔵。
季節がら江戸時代の雛人形が飾られていたのも良かったが、筆者は別の展示?に注目。ここはふだん外壁として見ている「なまこ壁」を、内側から見ることができる。
母屋の座敷。部屋は他にもあるのだが、ここだけでも襖を外せば何畳になるのかわからない。
寺院の「庫裡」を思わすほど広い台所。そりゃ蔵がないとお米がすぐになくなってしまいそうだ。
というより、この家にはいったい何人が暮らしていたんだろう。
そんなことに思いを馳せながら、「町家もええなぁ~」と家内に話したところ、「うちの財力では暖房代も賄えないわよ!」と、予想外の角度から豪速球が返ってきた(笑)。
重伝建や重文に指定されれば、改修等の費用は補助されるようだが、そこで暮らすとなれば、恐れ多くてエアコンはつけられそうになく、冬は灯油ストーブか温風ヒーター、夏は扇風機で空調することになるのだろう。
そうなると筆者が大橋家の子孫でも、やっぱり最後は持て余して、市に寄付してしまうかもしれない。
倉敷だけでなく、合掌造りや町家造りを持ち主が手放すのは、住んでみないとわからない諸事情があるからと聞く。
町家建築を保存するには、行政に寄付するか、民間にリノベーションしてもらうのが最良なのかもしれない。
であれば美観地区の姿は理想的ともいえる。中には「ちょっとやり過ぎ」と思う店もあるのだが(笑)、世の中はよくできているものだと感心した。
なお、大橋家住宅は美観地区内の外にあるが、歩いて行ける。倉敷ロイヤルアートホテルに隣接しているので、それを目印にするといいだろう。
大橋家住宅
〒710-0055岡山県倉敷市阿知3-21-31
086-422-0007
入館料:大人550円
9:00~17:00(4月~9月の土曜日は18:00まで)
12月~2月の金曜日(祝日開館)、12/28~1/3、3月~11月は休館日なし