この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
ミステリアスな逸話から誕生した社殿
実在人物が「神様」として祀られているのは、武田信玄、徳川家康、吉田松陰など、特に戦国時代以降はさほど珍しいことではない。
だが、平安時代に生きた菅原道真(すがわらみちざね)ほど、ミステリアスな逸話の残る歴史上の人物はいまい。おそらくその理由は、功績に対して不遇過ぎた晩年の人生に起因している。
菅原道真が最初に神として祀られた地は、故郷の京都ではなく福岡だった。
道真の死から2年後の905年(延喜5年)に、近臣の味酒安行(うまさけやすゆき)が埋葬した地に祠を造り、天満大自在天神と名づけたことが始まりとされている。
とはいっても、格式の上では京都の北野天満宮が「本宮」になる。
写真は重要文化財の三光門。豊富な彫刻の中に日月星があることから、そのように呼ばれている。
さて…
道真亡き後の京都では、日食・月食や干ばつ、洪水、疫病が流行り、「道真の祟り」という噂が流れていた。
そんな折、道真をおとしめた政敵・藤原時平とその娘、さらに道真左遷の片棒を担いだ藤原菅根が相次いで死んだ。さらに続けて、左遷に関わった時平一族、そしてその血族の皇太子までが不慮の死を遂げる。
さすがに朝廷も道真鎮魂のために腰を上げざるを得なくなり、位を右大臣に戻し、従ニ位から正ニ位に昇進するなどの措置をとったが、全く効果は見られなかった。
そして930年(延長8年)6月、今度は御所の清涼殿に落雷があり、大納言の藤原道貫ほか5名が焼死する。時の醍醐天皇はショックの余り体調を崩し、帝位を譲った七日後にこの世を去った。
それから10余年の月日が経った942年(天慶5年)、右京七条に住む多治比文子(たじひのあやこ)という少女に、道真から託宣があり、5年後にも近江国の神官の幼児である太郎丸に同様の託宣が下った。
「私はこの世にあった時、よく右近馬場に遊んだものである。思わぬ禍に遭い左遷され、京に帰ることも叶わなかったが、こうして時々京に戻ってみると、胸内の怒りが薄れてゆく気がする。
今の私は天神の号を得て、国を鎮護せんと思っている。どうかこの地に祠を構えて、私が京に滞在するための便を計って欲しい」…
947年(天暦元年)、ついに朝廷は託宣に基づき現在の京都北野に菅原道真を祀る社殿を造営。
さらにその後、政敵であった藤原時平の甥の藤原師輔が、自らの屋敷を寄贈し、壮大な社殿に作り直された。そして永987年(延元年)、初めて勅祭が行われ、一条天皇から「北野天満宮天神」の称が贈られる。
国宝の本殿は、1607年(慶長12年)に豊臣秀頼が造営したもので、八棟造と称される絢爛豪華な桃山建築。境内は道真が愛でた梅と紅葉の名所になっている。
また毎月25日は縁日で、境内には多くの露店が立ち並び賑わいをみせる。この日は宝物殿も特別公開されるようだ。
道真の御霊としての性格が薄れ、学問の神として広く信仰されるようになったのは、さらにそれから500年を経過した江戸時代以降のことだという。
それにしても、ニッポンの歴史は長く、そしてミステリアスだ。
なぜなら、まだこの話には続きがある…
平安時代から、京都には町の辻々に「鬼神像」と呼ばれる木製の人形を置いて、遠方から舞い込む邪気を祓う慣習があったといわれる。
それがなんと平成14年の北野天満宮1100年大萬燈祭の際に、本殿の奥にあった長持ちの中から発見された。
鬼神像は北野天満宮の宝物殿に保存されており、筆者は幸運にも「特別展」でそれを目の当たりにすることができた。
鬼神像13体はいずれも憤怒の表情をしており、「道真のたたり」と無関係であるようには思えなかった。北野天満宮の宝物殿は300円にしては中身が濃く、時間があればお勧めだ。
なお、北野天満宮には豊臣秀吉ゆかりの「もみじ苑」と呼ばれる庭園があり、ライトアップも行われるとのこと。残念ながら、筆者もそこまでは見ていない。詳しくは下のオフィシャルサイトで確認を。
なお駐車場は半舗装で、木が覆いかぶさっている。キャブコンは通れないかもしれないので、事前に確認を。
北野天満宮オフィシャルサイト
〒602-8386 京都府京都市上京区馬喰町
電話: 075-461-0005
参拝時間:午前5時半~午後5時(10月~3月) ※無料
宝物殿の見学時間:午前9時より午後4時まで
拝観料:300円
駐車場:無料 午前9時より午後5時まで
※毎月25日は、縁日のため駐車不可
PS
筆者はどうも菅原道真と縁があるらしく、特に望んで行くわけではないのだが(笑)、ゆかりの深い2つの神社にも参拝をしている。
京都に残る菅原道真の生家 菅原院天満宮