この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
この城は、かつての「伏見桃山城キャッスルランド」のランドマーク・タワー
こんなに桜がきれいで立派なお城が、なぜゆえに「穴場」なんだ!
筆者もそう思ったのだが、この話にはちゃんとした理由がある。
「伏見桃山城運動公園」に建つこの見事な城は、豊臣秀吉・徳川家康が築城した「伏見城」とは全くの別物だ。
「洛中洛外図」に描かれた伏見城を参考に、5重6層の大天守と3重4層の小天守、さらに櫓(やぐら)門を持つ伏見城のレプリカが建てられたのは、最初の東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)。
「伏見城花畑跡」に造成された遊園地「伏見桃山城キャッスルランド」のランドマークとして、高度経済成長期にふさわしい6億円もの巨額を投じ、鉄筋コンクリートで建造された。
だが時が流れた2003年1月、「伏見桃山城キャッスルランド」は、バブル崩壊の傷跡を引きずる経営母体の「近鉄」によるリストラの一環で閉園となった。
さいわい、模擬天守は市民運動によって保存されることになり、無償で京都市に贈与され、敷地を含めた周辺は「伏見桃山城運動公園」として再整備される。
しかし、模擬天守は耐震基準を満たしていないことから非公開になっており、バリアフリー対応などを含めると、改修には数億円がかかるという。
そのため具体的な改修のめどは未だ立っておらず、たまに映画やドラマの撮影等に活用されている程度。
正直云って、京都市も「持て余している」感じだ。
そういった経緯から、ここはツアーに組み込まれることがない。
由緒ある寺社仏閣が有り余る京都では、いくら桜が見事でも歴史的価値のない「伏見桃山城」のランクは低い。
同時に駅からも離れており、電車利用の観光客からも敬遠される。
しかし地元住民にすれば、鴨川の堤と同様、お花見の場所と歴史的価値がリンクしている必要はない。
桜が豊富なうえに空いていて、広い芝生と安い駐車場、さらにトイレがあれば十分なのだ。
またそれは、旅慣れたマイカーの旅人にも当てはまる。
「伏見桃山城運動公園」の近くには、十石舟が行き交う宇治川派流の濠川のほか、月桂冠や黄桜の酒蔵、さらには寺田屋や城南宮、御香宮(ごこうのみや)神社といった、坂本龍馬や西郷隆盛にゆかりの深い幕末の史跡がある。
桜の季節はそれらの観光を兼ねた「休憩地」として、ここは最適だと思うので、できればお弁当を持参して行くといい。
なお、金・土・日曜日の午後7時から午後9時半までは、ライトアップもされる。
駐車料金は普通車30分100円(最大800円)、大型車30分300円(最大2400円)。
夜間は閉鎖されるため車中泊はできないが、近くにRVパーク南京都鴨川と日帰り温泉「力の湯」があるので、環境は揃っている。
最後に、本物の伏見城に関する話を記載しておこう。
実在した伏見城は2つある。
ひとつは豊臣秀吉によって築かれた指月伏見城だが、1596年(文禄5年)に起きた「慶長伏見地震」によって倒壊する。その後、近隣の木幡山に再築されたのが木幡山伏見城で、秀吉はここで息を引き取った。
その後は徳川家康の居城となるが、「関ケ原の戦い」の前哨戦である「伏見城の戦い」で、西軍の攻撃を受けて焼失。
「関ケ原の戦い」後、家康は藤堂高虎に奉行を命じ、天下普請として伏見城を再建し、そこで征夷大将軍の宣下を受けている。
なお詳しい内容は、こちらの記事にまとめている。
伏見・桃山・宇治・醍醐… 洛南は歴史と日本酒が好きな旅人のパラダイス!