この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
なぜ、そんなに外国人受けしているのか?
今の伏見稲荷大社は、「日本で外国人観光客に人気の高い観光地」という話で有名だが、そのきっかけになったのは、トリップアドバイザーの「旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の観光スポットランキング 」。
2017年に1位に輝くと、2018年版でもトップの座を譲らず、5年連続でランクインしている。
あるサイトの分析によると、その理由は以下の5つにあるらしい。
●アクセスの良さ
●アクティビティの要素
有名な千本鳥居は稲荷山のふもとから始まっていて、鳥居をたどって行くと頂上から京都の街並みが一望できる。
●SNS映え
●観光意欲を刺激する周辺施設
●アニメの舞台
周辺はアニメ「いなり、こんこん、恋いろは。」の舞台だとか。
まあそれは日本人がヨーロッパや中東に行っても、その国の歴史や宗教事情を知らないまま、喜んで観光してくるのと同じわけで、分からぬでもない。
だが日本人の若者がそれに同化している様子を見ると、さすがにちょっと悲しい気分にさせられる。
それには、これまで書いたような情報ばかりを、競うように取り上げているウェブサイトの存在も一役買っているのだろう。
もちろん中には、我々の知りたいことが書かれているサイトもあるにはあるが、簡単には見つからないし、あっても専門書みたいで面白みに欠けるものが多いのも事実だ。
そこで独自に、「大人の視点」から伏見稲荷大社を紹介してみたくなった。
最初の疑問
そもそも「稲荷」とは何ぞや?
ウィキペディアでは、稲荷神(いなりのかみ、いなりしん)を稲を象徴する穀霊神・農耕神と紹介している。
しかし稲荷神の名は、古事記・日本書紀には見当たらない。しかも総本宮である伏見稲荷大社の祭神にもその名は存在しない。
実のところ、伏見稲荷大社の祭神については、謎が多く未だに詳しいことはわかっていないらしいのだが、ウィキペディアでは五穀をつかさどる神・ウカノミタマと稲荷神が同一視されることから、伏見稲荷大社を含め、多くの稲荷神社ではウカノミタマを主祭神としていると、解説している。
まあ客観的に見て、かなり苦しいコジツケかと(笑)。
しかし、面白いのはここからだ。
伏見稲荷大社の公式サイトには、諸説あると前置きした上で、『山城国風土記の逸文では、「イネが生った」ところより社名とした』という一文がある。
これは「イナリ」と伏見稲荷大社の関係を意味するもので、伏見稲荷大社が稲荷神社発祥の地であることを裏付けている。さらに複数の文献を統合すると、どうやら「イナリ」とは人物名であることが見えてきた。
このことはウィキペディアにも記されているのだが、超要約すると2000年を超えるはるか昔に、伏見の地に朝鮮半島から稲作の先端技術をもった「秦氏」一族が入植してきた。
「イナリ」はその中の指導者的人物で、もともとの氏神にその名を重ね合わせ、「稲成り」から、稲を荷なう神像を連想する「稲荷」の字が当てられたようだ。そして秦氏の勢力拡大によって稲荷信仰も広まっていった。
疑問その2
狐との関係は?
まずは、伏見稲荷大社の公式サイトの記述をそのまま転用しよう。
「稲荷大神様」のお使い(眷族)はきつねとされています。但し野山に居る狐ではなく、眷属様も大神様同様に我々の目には見えません。そのため白(透明)狐=“びゃっこさん”といってあがめます。
果たして… これで納得する人がいるのだろうか。北海道に行けば、間近にこんな奴が現れるというのに(笑)。
むしろ、筆者が「なるほど」と思ったのはこの説明だ。
稲のような食物を司る神を、昔は「御饌津神(みけつがみ)」と呼んだ。この神様の名前に「三狐神(みけつがみ)」の字をあてたので、いつしか狐が稲荷神の使いになったという。
これは筆者の勝手な推測だが、たぶん昔は伏見稲荷神社に狛狐なんて置いてなかったと思う。しかし日本の神社には狛犬がつきものだ。そこで後年になって狐を置くようになった。
神様の使いというのもたぶん後付けだろう。当時の宮司が春日大社の神鹿に匹敵する「神の使い」を望んだのかもしれない。
余談だが、ついでに「狐と油揚げ」についても触れておこう。
古くから狐の好物は鼠の油揚げとされ、狐を捕まえる時には鼠の油揚げが使われたという。 そこから豆腐の油揚げが稲荷神に供えられるようになり、豆腐の油揚げが狐の好物になったといわれている。
お察しの通り、「いなり寿司」の由来はそこにある。
最後の疑問
赤い鳥居は何を意味する?
前述したとおり、稲荷神社の本来のご利益は「五穀豊穣」だが、時代を経るごとに神様の守備範囲は広がり、江戸時代には商売繁昌・産業興隆・家内安全・交通安全・芸能上達の守護神として信仰を集め、それが今日まで続いている。
その最たるものが千本鳥居だ。
願いごとが「通る」、あるいは「通った」お礼の意味から、鳥居を奉納する習慣が江戸時代以降に広がったことがきっかけで、現在は約1万基の鳥居がお山の参道全体に並んで立っているという。
筆者には既に「ご利益を果たした後」の鳥居をくぐっても、新たな恵みが得られる気はしないのだが、そんなことを知らない外人さんは、特にここがお気に入りらしい(笑)。
最後に。伏見稲荷大社には無料駐車場がある。なのでクルマで行くには好都合だが、日中は駐車場に入る前の道が観光客で溢れかえり、ほとんど前には進めない。行くなら早朝がいいだろう。
伏見・桃山・宇治・醍醐…
洛南は歴史と日本酒が好きな旅人のパラダイス!