この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
「おんな酒」の仕込み水は、いと「まろやか」
日本各地をクルマで旅する筆者は、北海道でも九州でも、見かけるたびに天然水を汲んでは喉を潤しているが、「リピートしてでも、もう一度飲みたい!」と感じることは滅多にない。
だが、伏見の水は明らかに旨かった!
誰もが知る通り、伏見の名物といえば日本酒だ。
酒好きの間では「灘のおとこ酒」「伏見のおんな酒」と呼ばれ、近畿の双璧を成す地域ブランドとして認知されているのだが、味の違いは仕込み水にあると聞く。
ただお酒については、飲まない人もいると思うので、別のページに詳しくまとめた。なのでここでは「伏見の水」にスポットを当てて、話を進めよう。
そもそも伏見に限らず、京都盆地には豊かな地下水があり、その旨い水を生かして、昔から豊かな食文化が育まれてきた。
有名なのは豆腐。最澄ら遣唐使が中国から伝えた加工食は、精進料理が広まるとともに波及し、あわせて湯葉も食されるようになった。
その豆腐作りに適しているのが軟水だ。
軟水とは、1リットルの水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量が120ミリグラム以下の水を指し、それより多いと硬水になる。
ちなみに大豆のタンパク質はカルシウムによって固まる性質があるため、硬水だと不必要に固い豆腐が出来上がってしまうらしい。
いっぽう高度が高い水の利点は、腐造が生じにくいことにある。
ちなみに灘の宮水は、軟水(硬度60~120)の中でも100を超える硬水に近い水で、国内の日本酒造りに使用されている水では最硬度を誇っており、腐敗を防止する技術がなかった江戸時代から、重宝されてきた理由がそこにある。
では、伏見の水はいったいどのくらいの硬度なのか?
数字で云うと80~90台で、灘の宮水よりも柔らかく、味わいとしては「まろやか」という表現がしっくりくる。
もちろんそれは、コーヒーでも日本茶でも十分に感じ取れた。
さて。ここまで読むと、知りたくなるのは「汲み場」だろう(笑)。
分かりやすくて汲みやすいのは、ページの最初で筆者がイオンのボトルに汲んでいた「白菊水(しらぎくすい)」。この水は「伏見七名水」のひとつに数えられている。
場所は「鳥せい」の駐車場の一画。道端にあるので誰でも気軽に利用できるが、ひっきりなしに地元の人達が複数のペットボトルを持っきては並ぶ。
なるほど、それだけ旨いということの証だろう。
なお、「鳥せい」の建物は1677年(延宝5年)創業で、清酒「神聖」で知られる山本本家が酒造りに使っていた酒蔵だが、現在はリノベーションされ、伏見で一番人が並ぶ人気の鶏料理専門になっている。
無料駐車場があるので、ここでのランチと合わせて水を汲むのが筆者の作戦。前の道は狭いうえに人通りが多く、路上駐車などできる場所ではない。
また寺田屋や水郷など、周辺観光のついでに水が欲しい場合は、徒歩1分ほどのところにあって、終日3時間400円で利用できるD-Parkingがお勧めだ。
最後に、安産祈願と合わせて名水が汲める御香宮(ごこうのみや)神社を紹介しておこう。
社伝によると千数百年前、境内に香り高い清泉が湧き出し、朝廷から「御香宮」の名を賜ったのが名前の由来とされている。「御香水」と呼ばれるその名水は「日本名水百選」のひとつにも選ばれている。
参拝は無料だが、駐車場代40分200円が必要だ。桜が綺麗なので、行くならその時期がいいだろう。
伏見・桃山・宇治・醍醐…
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