この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
出雲大社の神前通りにある、「隠れた見どころ」
神門通りの「一畑電車・出雲大社前駅」は、出雲大社に最寄りの鉄道駅だが、クルマで旅をしている人にとっては、「見落としやすいの名所」といえる。
1930年に建てられたにもかかわらず、洋風の駅舎は玄関からホームまで階段も段差もないバリアフリーの設計で、1996年(平成8年)に「国の登録文化財」に、また2009年(平成21年)には、経産省から「近代化産業遺産」の認定を受けている。
待合室の照明は抑えめで、ステンドグラスが映えて見える。
出雲大社が「平成の大遷宮」を目前に控えた2012年(平成24年)、そのレトロな駅の周りが、神門通りの再開発に伴ってリニーュアルされた。
現在は観光案内所が外に移設され、駅舎にカフェ、右隣には「縁結びスクエア」と名付けられたトイレ付きの広場が設けられている。
これから詳しく紹介するのは、その奥に小さく見える赤い電車のお話だ。
「バタデン」の名前で親しまれている一畑電車は、「出雲市」と「松江しんじ湖温泉」間の42.2キロを結ぶローカル列車で、大正時代から生活路線として活躍するとともに、松江城や出雲大社を観光する旅行者の移動手段として、多くの人に利用されてきた。
今でも車窓からは、「築地松」が点々と建ち並ぶ出雲平野や、「日本百景」に選ばれた風光明媚な宍道湖など、ローカル線ならではの旅情が楽しめる。
また途中にある「一畑口駅」では、全国でも珍しい「平地のスイッチバック」が行われているため、鉄道マニアにも広くその名を知られている。
その「バタデン」を通して「出雲の原風景」を描いたのが、2010年に公開された映画「RAILWAYS」の1作目。
「RAILWAYS ~49歳で電車の運転士になった男の物語~(錦織良成監督・主演:中井貴一)」である。
仕事に追われ、家族を省みることのなかった都会暮らしで50歳目前のエリート・サラリーマンが、郷里の島根に住む母の病と、同期の交通事故死をきっかけに人生を振り返り、幼い頃の夢だった「一畑電車の運転士になる」ことを実現していく物語。
古びたデハニ50形の一畑電車が、田園地帯をのどかに走る落ち着いた情景に、主人公の凛々しい生き様が交錯する感動的な作品だ。
実は「一畑電車・出雲大社前駅」には、その「RAILWAYS」で使われたオレンジ色のレトロな「デハニ50形」が展示されている。
しかも、車内を無料で自由に見学できる。
ちなみに「デハニ50形」は1929年に竣工した電車で、現存する「手動開閉式ドアを持つ営業用電車」としては「日本最古」の車両になる。
一畑電車の車両倉庫と整備工場がある「雲州平田駅」では、駅構内限定で「デハニ50形」の体験運転ができる。
料金は1万円以上するが、意外にも希望者は多いようだ。
「鉄ちゃん」の中には、バタデンの熱狂的なファンで「デハニ50形」の体験運転を謳歌するために、わざわざ大阪から島根に移住した人間もいる(笑)。