この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の中のひとつです。
※ただし取材から時間が経過し、当時と状況が異なる場合がありますことをご容赦ください。
B級グルメへの道のりは険しい
近頃は出雲大社のガイドを見ると、「ぜんざいの発祥地は出雲」というフレーズがやたらと目につく。
だがそれは最近の話で、昔からあったわけではない。
そこで調べて見ると、その仕掛け人は「出雲ぜんざい学会」という存在らしいことが見えてきた。
彼らは「ぜんざい発祥の地出雲」という史実を探求し、 さらに美味しい 「出雲ぜんざい」 を提供するため、既に神門通りに「第一号店」を構えている。
もっともこのあたりの戦略は、B1グランプリで一世風靡した「富士宮やきそば学会」を意識してのものだろう。
ゆえにオリジナティーは感じない。
とはいえ、どういう形態の組織かは分からないが、目抜き通りに出店できるだけの資金を有し、事務局が「出雲観光協会内」にあることからすると、どうやら行政と無関係ではなさそうだ。
そのためライバルともいえる「出雲ぜんざい」を提供する店が、神門通りには増えつつある。
さて。ここで「出雲ぜんざい学会」の主張を紹介しよう。
以下はそのホームページからの転用だ。
ぜんざいは、出雲地方の「神在(じんざい)餅」に起因しています。
出雲地方では旧暦の10月に全国から神々が集まり、このとき出雲では「神在祭(かみありさい)」と呼ばれる神事が執り行われています。
そのお祭りの折に振る舞われたのが「神在(じんざい)餅」です。その「じんざい」が、出雲弁(ずーずー弁)で訛って「ずんざい」、さらには「ぜんざい」となって、京都に伝わったと言われています。
いっぽうウィキペディアには、別の発祥説も掲載されている。
(「ぜんざい」は)一休宗純が最初に食べたとされ、この食べ物の美味しさに「善哉」と叫んだ事から名称とされた。
「善哉」とは仏が弟子を褒める時に使う言葉であり、サンスクリット語の素晴らしいを意味する「sadhu」の漢訳である。
我々旅行者にすれば、「ぜんざいの発祥」などどちらでもいいことだが(笑)、「ぜんざい」を起爆剤に、今一度出雲の観光を盛り上げようとする「出雲ぜんざい学会」の姿勢は理解できる。
ただ気になるのはその中身とお値段だ。
これは学会の店のメニューではないが、名物の「出雲3段割子そば」の相場が750円前後であることを考えると、「ぜんざい」はいかにも高く感じる。
その背景には、客層が大きく反映しているのだろう。
「縁結びテーマパーク」の新メニューともいえる「出雲ぜんざい」(笑)を、期待通り喜んで食べているのは、東京や大阪からやってくる都会のお嬢様達だ。
普段から高いスタバのコーヒーに馴染んでいるため、たとえこれが800円でも、たぶん何とも思わないに違いない。
しかし、小洒落たカフェに行く用事のない中高年はどうだろう。
筆者には握りしめたコインが、「出雲そば」に流れるのは当然だと思える。
仕事柄、富士宮に出かけることもちょくちょくあって、筆者は「富士宮やきそば学会」の手の内をよく知っている。
出雲と決定的に違うのは、「富士宮やきそば学会」は「料理」そのものに細かな規定を設け、「富士宮やきそばとはどういうものか」を明確に定義づけたうえで、賛同する店舗からも提供している。
同じ出雲を盛り立てるのなら、「出雲ぜんざい学会」にはそこを真似していただきたい。
たしかに王道とも呼ぶべき「ベーシックなぜんざい」を、どう「出雲ぜんざい」 に仕立てていくかは難題だろう。
しかし「学会」なるものを立ち上げた以上、それに挑み、出雲市民を含む幅広い客層からの熱い支持を受けない限り、見識ある人々から本物という評価は得られまい。