還暦を過ぎた大阪在住の旅人が、2023年7月に更新した、博多・喜多方に勝るとも劣らない、味わい深き「和歌山ラーメン」の紹介と行列店の食レポ集です。
「クルマ旅専門家」・稲垣朝則が、20年以上かけて味わってきた全国のソウルフード&ドリンクを、レシピと老舗・行列店を交えてご紹介。
和歌山ラーメンは、博多・喜多方に勝るとも劣らない、味わい深き「ご当地ラーメン」
ブレークのきっかけは、TVチャンピオン
「和歌山ラーメン」は、今や大阪でもスーパー・コンビニのカップ麺やレトルト食品売り場の定番商品として扱われているほど、府民に馴染みが深いものになっているが、筆者が子供の頃は「中華そば」といえば大阪のラーメンだった。
立場が入れ替わったのは、20世紀末。
1998年の元日に放映された、TVチャンピオン「日本一うまいラーメン決定戦」で、和歌山市にある「井出商店」が、全国の並み居る強豪店を押さえて優勝したのがきっかけとされている。
昭和の大阪で主流のラーメンだったのは、今売っている袋麺の「浪速の中華そば 好きゃねん」に近い。
鶏ガラと薄口醤油から創り出されるスープは透明でスキッとしており、麺は中太ストレート、具はメンマ・チャーシュー・青ネギを主体にする、オーソドックスな「中華そば」だった。
「大阪にご当地ラーメンがないのは、そんな何の変哲もない普通のラーメンが食べられていたから」という声も聞かれるが、それは的を得ていると思う(笑)。
当時の大阪では、ラーメンよりうどんのほうが好まれていたのだろう。
そんなマーケットに、濃厚でコクのある井出商店の醤油豚骨ラーメンが乗り込んでくれば、誰もが強いインパクトを受けるのは当然のことだった。
和歌山ラーメンのスープには、2つの「系統」がある。
ところが、よくよく調べてみると、和歌山ラーメンのスープには2つの系統があることが分かった。
ひとつは大阪と同じ醤油系で、昔から「中華そば」と呼ばれてきたもの。
和歌山のラーメンのルーツを辿ると、かつて存在した和歌山市電の「車庫前駅」の周辺にあった屋台に行き着くという。
そのラーメンのスープは澄んだ醤油系で、これが「元祖・和歌山ラーメン」になるわけだが、もしこれしかなければ、たぶん今のように有名にはならなかった。
近頃話題のウイルスじゃないが、突然変異的に誕生した「濁った豚骨醤油味」の井出商店が、「和歌山ラーメンの代名詞」になってしまったために、現在では「車庫前系」と名付けて区別している。
ただ同じ「中華そば」でも、大阪に比べるとスープの色は明らかに濃い。
それは地元に、有名な醤油の産地・湯浅があることと無関係ではないだろう。
まあこのあたりは、コアな醤油ラーメンの食べ比べネタとして覚えておくといいかもしれない。
そしてもうひとつが、真打ちの「濁った豚骨醤油味」の通称「井出系」だ。
実は元々は同じように澄んだスープだったが、店主が目を離した間に煮詰まって濁ったのが、その始まりと聞く。ゆえに突然変異というわけだ(笑)。
いずれにしても…
「和歌山ラーメン」の基本は、小さめのどんぶりに、柔らかめに茹で上げた細めのストレート麺を少なめに盛り付け、具はチャーシュー・メンマ・青ネギに、渦巻き模様のかまぼこを載せることに変わりはない。
和歌山のラーメン店には、独特のシステムがある。
さて。
ただスープがおいしいというだけなら、おみやげでもレトルトでもかまわないのだが、「和歌山ラーメン」には、ぜひお店で食べていただきたい理由がある。
和歌山のラーメン店のカウンターやテーブルには、ゆで卵や早寿司(しめ鯖の押鮨)が置かれ、食べた数を会計時に自己申告するのが大半だ。
ラーメンライスやラーメン餃子はどこでもあるが、ラーメンに寿司というのは、ちょっと味の想像がつかない組み合わせ(笑)。
せっかくの紀州路なので、ぜひ本場らしい食べ方を体験してみていただきたい。