この記事は、車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、全国各地からセレクトした「クルマ旅にお勧めしたい100の旅先」の紹介です。
紀三井寺のロケーションにご注目。
紀三井寺【目次】
紀三井寺って、ただの観光客が行く価値あり?
ここでは、紀三井寺に行く前に、筆者が率直に感じたことから話そう。
雑誌やネットで、少しばかり紀三井寺のことを調べてみると、「西国三十三所観音巡礼」の第2番札所にあたるこの古刹は、その巡礼をしてナンボと云わんばかりの書かれようで、観音様の信者でもない筆者が、カメラ片手にぶらっと訪ねたところで、さほど楽しいわけでもなさそうに思える…
だったら何も息を切らして、231もある石段を登る必要はないんじゃないか。
グルコサミンが気になる中高年になると、たとえその先に「いいこと」が待っていても、そこに「すごい」が付かないかぎり、なかなかエンジンはかからないものだ(笑)。
旅行前にちゃんと下調べをする真面目な人ほど、そうなると思う。
筆者は仕事柄、どこの観光地に行っても、パンフレットや公式サイトの「丸写し」ではなく、他にどこか面白い切り口は見つからないものか… ということを常に模索している。
費用対効果を背負って歩くプロにとって、「空振り」はコスト的にも肉体的にも堪えるわけで、見込みのないところに足を運ぶことだけは避けたいからね。
そして、見つけた。
結論は、ただの観光客がスマホ片手に、ちょっとしんどい思いをしていくだけの価値はある。
ただし少しばかり、違う場所のお勉強が必要だ(笑)。
紀三井寺のロケーション
紀三井寺は和歌山城から約6キロ・15分ほどの名草山(なくさやま)の西側中腹にあり、標高およそ50メートルの境内から、和歌浦湾を一望することができる。
実はそれこそが、「西国三十三所観音巡礼」をする人以外の観光客が、わざわざ紀三井寺に足を運ぶ魅力である。
だが、理由は以下の記事を読まないかぎり、たぶん理解できないと思う。
ちなみに紀三井寺は、2017年(平成29年)に日本遺産「絶景の宝庫 和歌の浦」の構成文化財のひとつとして認定を受けている。
余談になるが、
読者の中には、筆者がこの「看板」に魅力を感じたのでは?と思われた人があるかもしれない。
確かに美談で興味深いのだが、実はこの看板は今はない。
現在、この看板があった位置には、2020年に寄贈された閻魔大王像が鎮座している。
そもそも閻魔大王は、「西国三十三所観音巡礼」の創始と深い関係があり、奈良県の長谷寺の開祖、徳道上人が病気で仮死状態となり、冥土で閻魔大王に会った際に、地獄に送られる悪人が増えているため、極楽往生できる三十三所の観音巡礼道を開くよう、宝印を授けられたとされている。
ちなみに、近畿2府4県と岐阜県に点在する観音信仰の霊場をめぐる「西国三十三所観音巡礼」は、日本でもっとも歴史がある巡礼行とされ、「絶景の宝庫 和歌の浦」と同じく、文化庁から「1300年つづく日本の終活の旅〜西国三十三所観音巡礼〜」として「日本遺産」に認定されている。
話は戻るが、「紀伊国屋文左衛門」と云えば、同じ紀州出身の徳川吉宗と同時期に生きていたとされる地元のスターだ。
暴風雨の中、紀州から江戸までミカンを運んで大儲けし、その資金を元に材木商を始めて巨万の富を稼ぎ、吉原で散在したことから「紀文大尽」と呼ばれた逸話を持つ。
また紀三井寺の境内は、早咲きの桜の名所として名高く「日本さくら名所100選」にも選ばれている。
本堂に向かって左にある桜の木は、和歌山地方気象台のソメイヨシノの標本木に指定されており、「近畿地方に春を呼ぶ寺」としても知られている。
「西国三十三所観音巡礼」としての紀三井寺
さてここからは、少しは興味を感じていただけたと思う(笑)、紀三井寺の由緒を紹介したい。
「金剛宝寺」という正しい寺号を持つ紀三井寺は、奈良時代の西暦770年(宝亀元年)に、唐僧・為光(いこう)上人によって開かれたと伝わっている。
紀三井寺という愛称は、境内に「吉祥水(きっしょうすい)」「楊柳水(ようりゅうすい)」「清浄水(しょうじょうすい)」と呼ばれる湧き水の井戸が3つあることに由来しているとのこと。
ただ、地元の人が「三井寺」の前に、あえて「紀」の字をつけていたとは思えない。
近畿在住の旅人はお気づきだと思うが、実は滋賀県大津市にも三井寺がある。
こちらの正式名は「園城寺」で、7世紀(西暦600年代)創建と伝わる天台寺門宗の総本山だ。
聖徳太子の時代に奈良の飛鳥に都を置いていた大和朝廷は、親交のあった百済を救済すべく朝鮮半島へ出兵したが、「白村江の戦い(663年)」で唐・新羅連合軍に大敗を喫し、国防の必要性に迫られて、都を一時海から遠く離れた滋賀県の大津に移したことがある。
福岡に大宰府ができたのもこの頃だが、その時代に「園城寺」の境内にあった霊泉(井戸)が、天智・天武・持統の三天皇の産湯に用いられたとされることから、「御井(みい)の寺」と称され、後に「三井寺」と呼ばれるようになったという。
ただ大津に都を遷都したのは天智天皇なので、まさか産湯にはつかっていないと思うけど、寺社の伝承は得てしてそういうもので、どこかに神がかった、いや仏がかった誇張がある(笑)。
それはさておき、こちらの三井寺には国宝の金堂を始め、観音堂、釈迦堂、唐院などの堂舎が建ち並び、国宝・重要文化財の数は100を超えるというから素晴らしい。
本尊は弥勒菩薩(みろくぼさつ)で、観音堂は「西国三十三所観音巡礼」の第14番札所になっており、紀三井寺とはその”巡礼つながり”ではあるものの、それ以外の接点は見つけられなかった。
まあ誰の目にも、歴史と格式では大津の三井寺のほうが上ということで、後年になって和歌山の三井寺に「紀」が付くようになったのだろう。
ちなみに紀三井寺は真言宗山階派に属していたので、天台宗の大津の三井寺とは「空海」と「最澄」が如く、水と油ほど教えの違いがあったはず。
ただ、紀三井寺は1951年(昭和26年)に独立して「救世観音宗総本山」を名乗り、現在は山内子院6か寺および末寺14か寺を包括している。
大津の三井寺には敵わないとはいえ、紀三井寺が建立された当時の日本は、律令国家の完成期にあたり、国土の開発や制度の整備が進められ、唐や朝鮮との交通、仏教の興隆など、日本の文化・芸術が大きく開花した天平時代。
伝承通りなら、紀三井寺は奈良の大仏様で有名な東大寺と、ほぼ同年代に建立された古刹の中の古刹になる。
ただ当時の面影が感じられる建物はなく、国の重要文化財に指定されているのは、鮮やかな朱塗りの楼門・鐘楼・多宝塔の3つで、いずれも室町時代に建てられたものを、修復を繰り返しながら維持している。
観音堂とも称される本堂は、1759年(宝暦9年)に再建されたもので、和歌山県指定有形文化財に指定されている。
「な~んだ」と思うかもしれないが、これがお城なら国宝級の古さに当たる。
今度は仏像のお話。
紀三井寺の本尊は、為光上人の御手彫と伝わる「十一面観世音菩薩立像」で、50年に一度開扉されるが、十世紀初期の作風で台座も同年代とされている。
これは公式サイトからの情報だが、たしか紀三井寺の創建は770年。
つまり8世紀の後半だが、同じ為光上人が100年以上経た10世紀の初頭に、仏像を手彫りすることができるのだろうか?
常識的にはレプリカでないと「つじつま」が合わないが、寺社の伝承は得てしてそういうもので、どこかに神がかった、いや仏がかった誇張がある(笑)。
なお、古来より本堂に安置されてきた5体の重文仏像は現在、火災・震災等の災害時に備えて、本堂真奥の収蔵庫・大光明殿にすべて安置されており、観光客がお目にかかることはできない。
その代わりにちゃんと、撮影OKのピカピカした観音様を用意してくれている(笑)。
木造立像では日本最大を誇るこちらの「大千手十一面観世音菩薩像」は、2008年に作られたもので、仏殿に安置されている。
でもどこか、なんか軽くない? インバウンド向けかな(爆)。
失敗しない紀三井寺の駐車場選びと参拝ルート
最後は紀三井寺の駐車場と参拝ルートについて。
これは筆者の失敗談に基づく話だ。
冒頭でも書いたが、231もの石段を登りたくないのは誰しもやまやまだ。
そこで紀三井寺の駐車場受付で聞いてみると、それをスルーできる高台に駐車場があるというので、700円支払って「楽」を選んだ。
入口からこの駐車場までの道は、狭いうえにかなりの傾斜があり、キャンピングカーには酷というより、キャブコンの中には登れない車両もありそうだ。
こちらが下のマップで示した受付の横にある300円の「参拝者専用駐車場」。
手っ取り早く云うと、筆者が案内されたのは普段は障害者用に使われているところだったのかもしれない。
この日は朝一番だったので空いており、愛想のいいおばちゃんが気を利かしてくれたのだろう(笑)。
だが結論から云うと、この投資は「失敗」だった。
確かに境内には近く、「和歌の浦」を眺望して、ピカピカの観音様に手を合わせるだけならお勧めだが、有名な井戸や閻魔大王像は231段の「結縁坂」にあるため、それを見るには結局、一度下って再び登る必要がある。
なので、もしこの記事を見て、紀三井寺に足を運んでみようと思われた方には、先ほど書いた300円の「参拝者専用駐車場」にクルマを駐め、表参道にあるこの楼門から参拝に向かわれることをお勧めする。
なお、表参道にもコインパーキングが何件かある。
こちらは10メートル楼門に近づくと、1時間の駐車料金が100円上がるという、おもしろい方程式がある(笑)。
周辺の見どころ・食どころ・お勧め車中泊スポット
前述したように、紀三井寺は約6キロ・15分しか離れていない和歌山城と抱き合わせて訪ねるのに都合がいい。
嬉しいことに、近くには和歌山ラーメンの「井出商店」もあるので、その開店時間を間に挟んで参拝することもできる。
また体力に不安のあるご年配には、参拝後は約4.6キロ・10分のところにある、温泉隣接のお勧めの車中泊スポット、「和歌山マリーナシティ」でゆっくりしていただくのがお勧めだ。