この記事は、車中泊とクルマ旅関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、これから車中泊旅行を始めたい人に向けてのアドバイスを記したものです。
ただの「車中泊の寒さ対策」じゃ、つまらない!
この本は、「信州車中泊コースガイド」の取材をしている最中に電話でオファーを受け、雪が舞う白馬の八方尾根スキー場の駐車場で車中泊をしながら、構想を練った思い出深い作品だ。
オファーは、「ウインターカーネル・冬の車中泊特集」をお願いしたいということだったが、それでは「車中泊の寒さ対策」になるだけで、これまで冬に車中泊をしてきた人には、新鮮さとインパクトに欠ける気がした。
既に「車中泊ブーム」と呼ばれて10年近くが経過し、「暑さ対策」も「寒さ対策」も、巷ではほぼ確立されている。しかもその断片的なアイデアや手法が、多くのブログで紹介されているのも周知の事実だ。
そんな話をこれから1600円もする本にして売り出そうというのだから、ギュ~ッとアタマを捻る必要があるのは当然だ(笑)。
冬に車中泊がやってみたい!と思えるコンテンツ
近頃は特にそう思うのだが、「車中泊」という言葉を先行させると、ややもすると「模範的ハウツー・コンテンツ」になり、「これをやってはいけない」「それは危険だ」という話になりやすい。
前向きの楽しそうな話がなく、そういう後ろ向きの話ばかりが続くと、だんだん読む気が失せていくのは筆者だけはあるまい。
我々が世に出そうとしているのは「教科書」ではないはずだ。
そもそも車中泊は「手段」である。
つまりそれを語る前に、今年こそは絶対に白川郷のライトアップが見たい!というような「目的」があって然るべき。またフィールドがアウトドアだけに、危険がつきまとうのは当然ともいえる。
幼い子供が、転んで痛みとともに何が危険かを学んでいくことを思えば、たとえ車中泊の入門者であっても、この本を手にしてくれたお客様の「不安だけれど、やってみたい!」という好奇心に、バチン!と一発点火できるかどうかが、この本の生命線。
つまり中身は入門書ではなく、中上級者向きの方がいい… 一晩雪の中で考え、そう腹をくくった。
そしてタイトルは、「冬を楽しむ車中泊」になった。
この本は7月に発売された信州車中泊コースガイドと同じく、まずは巻頭にリアリティーあふれるコンテンツを写真とともに掲載し、先へ先へと進みたくなる構成になっている。
Contents1 絶景を訪ねる!
ダイジェスト
富士山・伊豆半島・琵琶湖
実戦。冬の車中泊旅❶
世界遺産・白川郷のライトアップを観にいこう
Contents2 雪と親しむ!
ダイジェスト
ゲレンデ車中泊・雪中キャンプ
実戦。冬の車中泊旅❷
憧れの上高地・スノートレックング
Contents3 「旬」を食す!
ダイジェスト
丹後と但馬・下関
実戦。冬の車中泊旅❸
「きっときと」の富山湾岸グルメ旅
Contents4 温泉館でほっこりする!
ダイジェスト
道後温泉・上諏訪温泉
実戦。冬の車中泊旅❹
草津温泉で「湯治気分」に浸る
Contents5 越年の旅に出る!
ダイジェスト
フェリーで九州へ
実戦。冬の車中泊旅❺
車中泊で行く、お伊勢参り
さて。上記に登場する車中泊スポットについては、いつも通り、モノクロページの後半に「詳細ページ」を設けて連動している。
車中泊コースガイドでもこのコーナーを評価してくださる読者は多いのだが、実際に車中泊スポットをきちんとレポートするのはけっこう骨が折れる仕事で、筆者の取材時間の半分近くがそのことに費やされている。
たとえば、見どころとグルメに恵まれた山口県の関門海峡周辺には道の駅がない。しかし実際に現地に足を運び、そこで車中泊をするくらい時間をかけて調べれば、このような素晴らしい車中泊環境に出会えることもある。
この本には車中泊スポット周辺の入浴施設やスーパー、さらに見つかればコインランドリーまで紹介しているが、写真の1枚もなく、ネットから適当に拾い集めてきたような情報集とは、リアリティーが違う。
ちなみに、冬の車中泊の経験と、雪道&凍結道路の走行経験はリンクしない。
本では白馬で北海道のバス運転手をしている友人に実地教習を受けながら学んだ「プロの技」を基本に、最後は同じく友人でキャンピングカーに乗る筆者世代の現役・損保セールスマンにレクチャーを受けた、「愛車をぶつけた時の万が一の備え」にまで言及している。
その意味では、今回は本当に多くの「ブレーン」の協力を仰いでいる。自分で云うのも何だが、ここまで徹底的に「冬のクルマ旅の厳しさ」を想定して書かれた車中泊本は、たぶんもう出てこないと思う。