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サブバッテリーの搭載には、事前に知っておくべき話がある。
サブバッテリーのリチウムイオン積替え&新規搭載ガイド【目次】
いまさら聞けない基本の「キ」。車中泊にサブバッテリーって要る?
「鉛ディープサイクル・バッテリー」と「リチウムイオン・バッテリー」の対比
本格的な車載サブバッテリー・システムを選ぶか、ポータブル電源を選ぶか
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いまさら聞けない基本の「キ」。
車中泊にサブバッテリーって要る?
クルマの運転免許を持っている人なら、エンジンを切った状態でライトやオーディオを長時間使えば、メインバッテリーの電圧が下がり、エンジンがかからなくなくなることは知っている。
それと同じで、たとえ携帯電話やタブレット、あるいはLEDの照明であっても、エンジンを切った状態で、メインバッテリーから電気を供給し続ければ、やはり同じことが生じる。
そのトラブルを避けるために、多くの車中泊旅行者は、メインバッテリーとは別の、すなわちサブとして使うバッテリーをクルマに積んで出かけるわけだ。
ただ、携帯電話を充電する程度の「微電」を欲するのなら、わざわざサブバッテリーまで用意しなくても、走行中にシガーソケット経由で、メインバッテリーから給電しても問題はない。
※なおドライブレコーダーやレーダー探知機を使う場合は、USBジャックだけでなく、2連のシガーソケットがついた、こういうタイプがお勧めだ。
多くのサブバッテリーユーザーは、持参してきた電気を電気毛布やサーキュレーター、あるいは冷蔵庫などに利用して、時代にマッチした快適な車中泊の旅をエンジョイしている。
サブバッテリーは2種類ある
車中泊での使用に適したバッテリーは、クルマに搭載されている「カー・バッテリー」とは異なる性質のタイプになる。
簡単に違いを説明すると、「カー・バッテリー」は持続性は弱いものの、瞬間的に強い電気を発することができるタイプで、例えるなら陸上選手の短距離ランナーに似ている。そのため「スターター・バッテリー」と呼ぶ人もいる。
いっぽうサブバッテリー用に使用される「鉛ディープサイクル・バッテリー」と「リチウムイオン・バッテリー」は、瞬発力はないが、長時間の電力供給に適しており、こちらは長距離ランナーに似ている。
さて。2種類あるという話はこれからだ。
筆者が車中泊を始めた頃は、サブバッテリーといえば、鉛バッテリーの中の「長距離ランナー」にあたる、「ディープサイクル・バッテリー」あるいは「セミサイクル・バッテリー」が代名詞だった。
「鉛ディープサイクル・バッテリー」は、2021年現在でも、おそらく登録されているキャンピングカーの過半数が使用していると思われる逸品で、コスパも高く、「リチウムイオン・バッテリー」が車載用に登場してきたからといって、「化石」呼ばわりするのは時期尚早だろう(笑)。
もうひとつは、さきほど触れた「リチウムイオン・バッテリー」だ。
2019年10月に、「リチウムイオン電池の父」と称される吉野彰さんらがノーベル化学賞に輝いたことで、一躍その名が知れ渡ったが、スマートフォンに利用されているリチウムイオン電池が、初めて商品化されたのは1991年のこと。
それまでは二次電池(充電可能な電池)といえば「ニカド電池」が主流だったが、はるかに軽くてエネルギー効率がいいリチウムイオン電池の登場は、まさに「革命」とも呼ばれる出来事だったという。
それから30年の歳月を経て、ようやく待望のリチウムイオン電池を、車載用バッテリーとして実用化できるところまで商品開発が進み、いよいよ手が出せる値段まで近づいてきた。
これが「リチウムイオン・バッテリー」の、正しい「現在地」だと思う。
ちなみに「リチウムイオン・バッテリー」は、車載用としてより、野外で使えるポータブルバッテリーとしての普及のほうが先行している。
その火付け役となったのは、ここ数年続いている「キャンプブーム」だ。
今ではソロキャンだろうが、ゆるキャンだろうが(笑)、若者たちが略して呼ぶ「ポタ電」は、キャンプサイトに「あって当たり前」のギアになりつつある。
「鉛ディープサイクル・バッテリー」と「リチウムイオン・バッテリー」の対比
最初にこれまで「鉛ディープサイクルバッテリー」を長年利用してきた、筆者の偽らざる感想を紹介しよう。
ここでは難しい理屈より、失敗を含めた実体験に基づく話のほうが役立つと思う。
【メリット】
一番はランニングコストが安いこと。
寿命は2年から4年と短めだが、1本15,000円前後で買えて、充電器から100ボルトに変換するインバーターまでのシステムが揃っていれば、バッテリーを交換するだけで済む。
※なお、近年このクラスのバッテリーは、本来のディープサイクル・バッテリーに比べると性能が劣るため、セミサイクル・バッテリーと呼ばれているようだ。
本来のディープサイクル・バッテリーは、このくらいの値段がする。
【デメリット】
筆者の場合、急激にへたってしまうことが一番の悩みだった。
もちろん電圧計をつければ、その低下が早くなる兆候はつかめるのだが、一度そうなると、そこから使い物にならなくなるまでが早い。
充電してもすぐにまた電圧が10ボルトを下回る状況に陥り、インバーターのリミッターが作動して電気の供給がストップする。
蓄電したはずなのにされていない。にもかかわらず、電圧計は満充電のフリをするから厄介だ。
そのせいで、年越しの九州取材旅行中の夜半に突然FFヒーターが止まり、寒いわ、嫁さんは不機嫌になるわで、本当にひどい思いをさせられた(笑)。
電池の残量」を携帯電話のように視覚的に把握することができない「鉛ディープサイクル・バッテリー」は、電圧がどれだけキープできるかが「寿命」を計るバロメーターになる。
ゆえに交換のタイミングがつかめるまでは、誰もが失敗をしやすい。
さらに「鉛ディープサイクル・バッテリー」には、容量を100%利用することが難しく、新品でも80%ほどしか放電できない難点がある。
この放電ロスは「リチウムイオン・バッテリー」にも共通しているようだが、「鉛ディープサイクル・バッテリー」のほうが率は高い。
加えて、12Vのバッテリーからインバーターを通して100Vの家電を使う際にも、やはり20%ほどの変換ロスが生じるため、実際には表示された容量の64%程度しか使うことができない。
こちらは「リチウムイオン・バッテリー」でも同じだ。
なお、どの「バッテリー」も、できるだけ満充電の状態にしておくほうが長持ちするため、「鉛ディープサイクル・バッテリー」は充電効率が高い外部充電器を使って、コンセントから充電できる環境が自宅にあることが望ましいと云われてきた。
筆者は団地住まいなので、屋根にソーラーパネルを載せることで、それをカバーしてきたが、外部充電なら24時間ほどで満充電にできるものが、100W程度のソーラーでは1週間近い日数が必要で、とても相手にはならず、それがバッテリーの消耗を早める結果のひとつの要因だったのかもしれない。
最後は重量。
「鉛ディープサイクル・バッテリー」の重量は、1本およそ25キロ。
通常はこれを並列で2本載せるので、「車載サブバッテリー・システム」を組めば、常に大人の女性をひとり乗せているのと同じ計算になる。
ゆえに燃費に影響すると懸念する人もいるが、燃費については走り方や道路事情のほうが、遥かに影響は大きいだろう。
それよりも、バッテリーの積替え作業時のほうが大変…
2個クルマから降ろして2個また積むということは、都合100キロの荷物を積み下ろしするわけで、「アラ還」には「もう勘弁してくれ~!」と言いたくなる重労働だった(笑)。
それに対して…
「リチウムイオン・バッテリー」は、ここまで長々と説明してきた「ディープサイクルバッテリー」のデメリットが”皆無”と云っても過言じゃない。
たとえば、寿命をイメージで表わすとこういう違いになる。
一般的に「リチウムイオンバッテリー」は、充放電サイクル回数がエンドに近づくまで、へたらない(電圧を維持できる)とされている。
100Ahで1本10万円以下で買える「リチウムイオンバッテリー」の充放電サイクル回数は2000回程度と云われているが、筆者が選んだRENOGY社の製品はなんと4000回。1年間毎日充放電を繰り返しても、10年以上使えるというから驚きだ。
筆者の年齢からすると、このバッテリーが使えなくなる前に「免許返納」の日がくるかもしれない(爆)。
いっぽう「鉛ディープサイクル・バッテリー」の充放電サイクル回数は、350回程度とされているので、単純計算では11.4倍の「寿命」があることになる。
しかも特性上、「リチウムイオンバッテリー」は充放電サイクル回数が限界に近づいてきたところから電圧の低下が早まり始めるが、「鉛ディープサイクル・バッテリー」はそのタイミングがもっと早いため、実際にはこの数字以上の差があるように感じるはずだ。
あとの特性は、上記のRENOGY社の言葉を借りると以下の通りだ。
大電流に強く、持続性もあり、また急速充電を得意としています。そのため、電気ポッドや扇風機など複数の家電を同時に利用する場合に適しています。
さらに専用のバッテリーチェッカーを取り付け、アプリをスマホにインストールすれば、Bluetoothで残量をこのようにチェックできる。
そして最後は重量だが、同じ容量でも1本10キロちょっとと約半分しかない。
ただし今でも値段は、同じ100ahほどの「セミサイクルバッテリー」に比べると3~7倍はする。
本格的な車載サブバッテリー・システムを選ぶか、ポータブル電源を選ぶか
これで「鉛ディープサイクル・バッテリー」を選ぶか、「リチウムイオン・バッテリー」を選ぶかの方向性は見えたと思うが、次はそれを車載システムにするか、ポータブル電源で済ますかの判断になる。
筆者と同じRENOGY社の製品を使った、本格的なリチウムイオンのサブバッテリーシステムを組むには、一般的には新規搭載なら50万から60万円が必要だ。
ざっくり云うと、バッテリー本体だけでも2本で21万円、それに専用の走行充電器と、高電流に対応したケーブルをあわせると25万円、合わせて電子レンジやエアコンが使える1500W以上のサイン波インバーターに、バッテリー収納スペースの製作及び、配線等の作業工賃が最低でも必要だ。
いっぽう既存のディープサイクルバッテリーからの積替えでも、バッテリー代だけでは収まらず、専用の走行充電器とケーブル代に配線工賃は必須で、安く見積もっても30万円は覚悟しなければならない。
それでも、「リチウムイオン・バッテリー」への載せ替えを希望する車中泊旅行者が多いのは、その投資に見合うだけの魅力があると感じているからだろう。
正確には「それだけ車中泊で利用したかった大容量家電がある」と言い換えられる。
ただ積替えに関しては、「イニシャルコスト」がかかる分は「バッテリー交換」という「ランニングコスト」で回収できるため、長期的な視点に立って総コストで比較すれば、「リチウムイオン・バッテリー」のほうが”お得”という結論になる。
もう少し価格が下がれば、サブバッテリーの主流が「リチウムイオン・バッテリー」に大きく傾くのは間違いないだろう。
そこで、サブバッテリー載せ替え&新規搭載時の留意点を、実際に筆者のクルマを工事してくれた職人さんの意見を交えて、以下の記事にまとめておいた。
筆者が「なるほど!」と、何度云わされたか分からない世界がそこにはある。
ただ車中泊旅行者の中には、50万円以上出して車載用のシステムを組むのはどうなんだろう…とお悩みの方も多いと思う。
また筆者の友人には、キャンピングカーのサブバッテリーは「鉛ディープサイクル・バッテリー」のままにしておき、新たに容量の大きなポータブルバッテリーを追加することで、電子レンジなどの大容量家電に使用している人もいる。
”ポタ電”としては高額だが、システムの載せ替えに比べると、半分以下の投資で済むのだから、それも一案だ。
ただ容量が大きくなると、旅先では充電するのが大変になるので、この作戦は長旅をしない現役世代向けといえるだろう。
ちなみに筆者が組んだ車載システムでは、4時間走れば200Ahのサブバッテリーを、ゼロ状態から満充電にすることができる。
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