25年のキャリアを誇る車中泊旅行家が、岡山県の「倉敷・美観地区」の人気スポット「倉敷アイビースクエア」誕生の経緯を紹介しています。
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この記事は、1999年から車中泊に関連する書籍を既に10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「車中泊旅行家・稲垣朝則」が、独自の取材に基づき、全国各地の「クルマ旅にお勧めしたい観光地」を、「車中泊旅行者目線」からご紹介しています。

~ここから本編が始まります。~
なぜこの赤いレンガの建物が、「アイビースクエア」と呼ばれるようになったのか…

倉敷アイビースクエア DATA
倉敷アイビースクエア
〒710-0054
岡山県倉敷市本町7-2
☎086-422-0011
倉敷アイビースクエアの筆者の歴訪記録
※記録が残る2007年以降の取材日と訪問回数をご紹介。
2007.11.12
2012.05.11
2016.12.17
2018.02.10
2022.04.20
2025.12.27
「倉敷アイビースクエア」での現地調査は2025年12月が最新です。
倉敷アイビースクエア

倉敷アイビースクエア 誕生の経緯

江戸時代の趣きが残る「倉敷・美観地区」の中にあって、ひときわ異彩を放っているのが、蔦の絡まる赤いレンガで有名な「倉敷アイビースクエア」だ。

その施設の詳しい紹介は、公式サイトに任せたい(笑)。
かくも大きい、宿泊可能な文化施設の紹介を、当事者以外がやるというのは恐れ多い話だし、そもそも読者を満足させられる自信がない。
しかし、その誕生にいたるまでの経緯は、話せるだけの知識を持っている。
その拠りどころがこちらの記事だ。
「倉敷・美観地区」の発展における「アイビースクエア」の貢献度は高く、それが軽々しく”若者向きのお洒落なホテル”で片付けられてしまうのは心苦しく思え、あえて筆を取ることにした。
さて。

赤レンガの建物といえば、「東京駅」「横浜赤レンガ倉庫」「富岡製糸場」、関西では「同志社大学」など、いずれも明治時代に建てられた建造物で、”場違い”ではないものの、白壁土蔵と瓦葺きの町家が多い「倉敷・美観地区」の中では、異質であることは否めない。

行かれた方はもうご存知だと思うが、「倉敷アイビースクエア」の前身は、1889年(明治22年)に建設された「倉敷紡績所(現:クラボウ)」の本社工場で、現在も敷地の中には、当時の記録を保存展示する「倉紡記念館」が残されている。

その「倉敷紡績所」が、赤レンガの景観と建物を活かしつつ、宿泊可能な文化施設にリノベーションされて開業したのは、今から半世紀前の1974年(昭和49年)。
背景には、1960年代の高度経済成長期に乗って急増した観光客に対する、「倉敷・美観地区」の宿泊・飲食施設の深刻な不足があったという。
倉敷アイビースクエア 名前の由来

その打開策として、倉敷市や地域住民からの強い要請を受け、クラボウは発祥の地である本工場の再開発を決定したわけだが、
筆者が興味を覚えたのは、都会的な響きを持つその”イケてる”ネーミングだった。

Why Kurashiki-Ivy-Square?
その答えが公式サイトに書かれていた。
昭和初期に工場外壁に空調目的で植えられた蔦(アイビー)が印象的であり、創業当時若者の間に流行していた「アイビー・ルック」から「アイビー」という言葉には新鮮で力強い印象がありました。
そこで、この新鮮で力強い印象をあたえる「アイビー」という言葉に、シンボルでもある広大な広場(スクエア)を組み合わせて「アイビースクエア」とし、地域のシンボルに育てたいとの思いから「倉敷」を冠し、「倉敷アイビースクエア」と命名しました。
なるほど。

♪蔦の絡ま~るチャペルで♪で始まる、「ペギー葉山」の「学生時代」じゃあるまいし、いくらなんでも、『蔦(アイビー)の広場(スクエア)』だけではないだろうと思っていたが、やはり「アイビー」にはファッションが絡んでいた。

当時の日本の雑誌を飾っていたのは、カレッジ・ファッションの代名詞として絶大なる人気を誇っていた、アイビールック(その頃はトラッドとも呼んだ)の伝道師「石津 謙介」氏が率いる「VAN」だった。
スタンスは自由奔放なカジュアルでありながら、伝統を踏まえたその装いは、ドレスコードとしても通用する。
すなわち、知性と品を持ち合わせた着こなしを好む人々が集まる、新たな「社交の場」になってほしいという想いが”根底”にあったのだろう。

それは「アイビールック」の基本デザインのひとつである「アーガイル柄」を、”底”に当たる床に使用していることからも伺える… というのはさすがにちょっと深読みしすぎかな(笑)。
しかし、こういうエッセンスを”隠し味”的に絡ませているのは、いかにも大人の香りがして、愉快で素敵だ。

「倉敷アイビースクエア」には、実はこの睡蓮にも”トリビア”が隠れている。
その話は長くなるので、興味があれば以下の記事でご覧いただきたい。
さて。
ここで、もうひとつ気になるのは、なにゆえ壁に蔦(Ivy)が絡んでいたのかだ。

公式サイトにもあったように、「アイビー(蔦)」は紡績工場内部の温度調整のために植えられていたのだが、当時社長だった「大原孫三郎」が、従業員の健康に配慮し、夏は赤レンガを覆って暑さをしのぎ、冬は落葉して太陽の暖かさが伝わるこのグリーンを選んだという。
ではなぜ、江戸時代に天領として栄華を誇った倉敷に、若い女子たちが過酷な仕事をしなければならない紡績工場が必要だったのか…
「倉敷アイビースクエア」をよく理解したい人には、ここが”正門”になると思う。
倉敷紡績所が果たした役割

歴史小説家の「司馬遼太郎」は、その名作「坂の上の雲」の中で、明治初頭の日本を『米と絹のほかに主要産業のない国家』と表現している。
当時の日本政府は、蚕から絹糸を製造する「紡績業」を、今後の主要産業にすべく官営紡績所を設立し、財政再建を図ろうとしていた。

その筆頭格が、今では世界遺産に登録されている「富岡製糸場」だ。
そしてそれは「江戸幕府」というバックボーンを失った「倉敷」でも同じだった。
ただ違うのは、「倉敷」にあったのは「絹」ではなく「綿」。
江戸時代に干拓が進んだ倉敷では、塩分に強い綿花を栽培し、綿製品の交易によって大いに栄えていた。
しかし米と綿花の集散のほかに、取り立てた産業を持たないまま明治を迎えた「倉敷」は、税金高や水禍、疫病により、働く場もない貧村へと陥ってしまった。

出典:クラボウ
その将来を憂いた3人の青年が、地元の富豪が一堂に会する集会で、この窮地を乗り切るには、周辺で採れる綿花を使った紡績工業を立ち上げるべきと提案。
それに賛同した有志により、代官所跡に「倉敷紡績所」が設立されることとなる。
そこからの軌跡は、こちらのサイトに詳しく紹介されているので、ここでは割愛させていただこう。

1969年(昭和44年)、クラボウ創立80周年の記念事業のひとつとして、かつての原綿倉庫を改修して作られた「倉紡記念館」には、日本の紡績産業の歴史が、「倉紡」の軌跡を通じて理解できるよう展示されている。

今でも「倉敷」に帆布やデニムの店が多いのは、このことと深い関係があるわけだが、「倉敷紡績所」の功績は整理すると以下のようになる。
まずは綿紡績の量産化により、倉敷は「商業の町」から「工業都市」への転換に成功し、期待通りの救世主となった。
ただ注目すべきはここからで、「大原美術館」の創設者でもある「大原孫三郎」の社長時代に、労働者福祉の先進的な取り組みが大きく進み、女工の寄宿舎整備・衛生管理、医療制度の導入、教育・文化活動の支援などが図られている。
大原孫三郎のトリビア

「大原孫三郎」は、「倉敷紡績所」の利益を文化に還元し、「産業で町を興し、文化で町を育てた」人物として、その後の日本に大きな影響を与えた。
ところで。
「大原孫三郎」のキャリアを読んで、他に誰か思い出す人物はいないだろうか?

筆者の脳裏に浮かんだのは、2021年(令和3年)の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公として描かれた「渋沢栄一」だ。
そこで気になって調べてみると、なんと2人には面識があった。
ただ同年代というわけではなく、年齢は19歳離れており、「大原孫三郎」が実業界で活躍し始めた頃、「渋沢栄一」はすでに日本経済界の重鎮をつとめていた。
「渋沢栄一」と「大原孫三郎」は、ともに「日本資本主義の父」と称される実業家でありながら、「公益」や「倫理」を重視し、慈善事業・教育・文化への貢献を重んじた点で共通する、「公益の企業家」として並び称される存在だ。

時代が違えば、「大原孫三郎」が”ポスト諭吉”になっていたかもしれない。
余談ついでに。
「大原孫三郎」は、「大河ドラマ」というより「朝ドラ」向きの感じがする。
そのヒロインになる日が待たれる、国民的アイドル「芦田愛菜」を登用する物語に、筆者は彼の人生はピッタリだと思うのだが、どうだろう。
ちなみに奥様の名前は「寿恵子」さん。
いい名前じゃないか!
もう1回「浜辺美波」でもいい(大笑)。
倉敷アイビースクエア 駐車場&アクセスマップ

宿泊可能な文化施設だけあって、有料にはなるものの、「倉敷アイビースクエア」には専用の駐車場が用意されている。
しかもここはキャブコンのキャンピングカーでも入庫できる、「倉敷・美観地区」の希少なパーキングだ。
その詳細については、以下の記事に詳しくまとめているので、特にキャンピングカーでお越しの方には参考になると思う。
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