この記事は、既に車中泊関連の書籍を10冊以上執筆し、1000泊を超える車中泊を重ねてきた「クルマ旅専門家・稲垣朝則」が、2019年に還暦を迎えて書き下ろした、自らの経験に基づく話です。
クルマ旅には、大きく2つの楽しみ方がある。
この話は、お弁当に例えると分かりやすいと思う。
マニアックな「ナンチャラめぐり」は、唐揚げ弁当
「ナンチャラ巡り」を具体的に云うと、明確なテーマを持って日本各地を訪ねる旅で、名湯・名店・名城、あるいはネイチャー志向なら、名山・名瀑・桜に紅葉…さらに今は道の駅やサービスエリアまで含まれる(笑)。
ただし、マニアは趣味のためだけに現地を訪ねる。
目的地と車中泊地以外には、せいぜい食事をする場所と、日帰り温泉が分かればいいのだ。
それでは高い高速代とガソリン代をかけているにもかかわらず、まるで多忙なビジネスマンの出張と変わらない(笑)。
有名なのは大分県中津の唐揚げ、宮崎県のチキン南蛮、さらには北海道釧路地方のザンギあたりだと思うが、マニアにとっては何よりもその唐揚げが大事。
ゆえにご飯と味噌汁にはこだわらないし、それ以外のおかずには無頓着だ。
これを旅に置き換えると、唐揚げが目的地、ご飯は周辺の食堂、そして味噌汁は日帰り温泉で、漬物はオマケの観光地になる。
実に分かりやすい構図だとは思わないか!(笑)。
理想のクルマ旅は、幕の内弁当
筆者が思い描く「理想のクルマ旅」は、その土地の様々な食材と料理が少しづつ詰め込まれた、「幕の内弁当」に近いイメージだ。
もちろん中身は、お米もその他のおかずも、上記の「唐揚げ」のような「こだわり品」ばかりが入っている(笑)。
とどのつまり… 旅というのは「土地」を訪ねることにほかならない。
「目的地」以外に、その「土地」が有する魅力を意識しないのなら、それは「旅」ではなく「用事」になる。
先ほどの唐揚げが有名な町に「中津」を当てはめれば、そこには黒田官兵衛が築城した城が今も残っているし、「宮崎」なら鬼の洗濯岩や青島神社が、そして「釧路」に至っては世界的にも有名な大湿原がある。
幕の内弁当で育まれる「旅行力」
筆者はこれまで全国各地のクルマ旅のガイドブックを書いてきたが、それは読者に最高の「ご当地・幕の内弁当」を提供する仕事とよく似ている。
ゆえにコンテンツになる「観光地」や「名物」を何年にもわたって調べ、訪ねまわった結果、いつのまにか歴史や特産物にまで精通するようになった。
ツアーが組まれ、多くのガイドブックに紹介される観光地には、前述した「幕の内弁当」が作れるコンテンツが多く揃っている。
しかし世俗的だからと云ってそういう場所を否定してしまえば、「旅行力」は向上しない。
まして「日本縦断」「日本一周」といった長旅を望むのなら、好奇心と多趣味は必須といっても過言ではないだろう。